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内閣調査局の再興

個人的に国家的インテリジェンスに関心はあるのですが、今回は現存する内閣調査室の話ではありません。
この機関は、戦前に作られていた内閣直属の機関であり、国家の在り方行末を多様な視点から検討して、内閣に直接報告する、というものでした。
この組織の特色としては、まず省庁横断的な寄り合い世帯であったこと、左右の極端なイデオロギーを持つ者も包摂していたこと、官だけではなく軍や民からも人材を受け入れていたことです。
こうした幅広い人材、特にある意味国家のエリート組織が、現行の組織のわだかまりに左右される事なく自由に議論し、その結果を重要な検討結果として内閣に報告する、というユニークな組織でした。
もっとも、本当に新進気鋭の人物だけかと言うとそうでもなく、個性的過ぎて元の所属からは異端視されていた人も送り込まれていた様ですが。
残念ながら、大戦前中で企画院に改編され、そうした自由闊達な気風は失われて、単に国家総動員を主導するだけの組織に成り下がってしまったのですが。
私の提案としては、安全保障を芯として、この内閣調査局を復活させてはどうかと言うことです。
まず、この組織は常設の事務局と人員を要するパーマネントな組織とすることです。
また、人員については新たな縦割りを作り出すことがないように、必ず事務職員も含めて全ての人員が他省庁の出向者で構成する必要があります。
実は、我が国は諸外国と比較しても、かなり質の高い官僚組織を持っています。
しかしながら、その力を十分に発揮できてはいません。
その最も大きな原因は、官僚組織の縦割り構造にあると思っています。
その縦割りを緩和し、キチンと連携するハブとしての期待もあるのです。
各省庁の期待されている人材を各階層からこの組織に取り込み、同じ飯を食わせる事で、国家として一体として事に当たるという認識を植え付けるのです。
本当に各省庁は一流の人材をそこに派遣するのか?という疑問は当然あると思います。
そのためには2つの着意が必要だと思います。
この組織の上申した内容を受けて内閣が各省庁に対して強制力を持って施策を実行をさせる事です。
各省庁の業務に関わる実権を付与するのです。
こうすれば下手な人間は出せません。
次は、この組織に出向経験の無い人物には各省庁で出世できない様に人事院の権限を使うのです。
各省庁では、当然その省庁において出世をさせたい人材というものがいます。
その人を身内で抱え込む事によってその人がその省庁で然るべき地位に付けないというのは耐えられない話です。
ということで、実権と人事による影響で、各省庁から相応の人材を供給することができるとともに、この組織で同じ釜の飯を食った各省庁の各階層の有力者は、各省庁に戻った後も他省庁と有効な連携を取って業務を遂行する事になるでしょう。
また、国家公務員に限らず、自治体職員を含めた地方公務員からも出向させるのが適切であると考えます。
次に、この組織の果たすべき役割について検討しましょう。
まず一つは、既に述べた、各省庁の縦割りを解消する同じ釜の飯の役割です。
他省庁の人員と共に国家的な課題に対して向き合う事によって、省益より国益の認識を、各省庁の指導的人材に定着させる事が必要です。
次に、内閣の官としての諮問機関としての役割です。
内閣の指示や指針に基づき、省庁横断的な検討をした上で、内閣に対して報告するという役割です。
あくまで、国民の選んだ政治家たる内閣の考えるビジョンの実現のために必要な情報を提供することが重要です。
次は、内閣に示されていない事項についても、国益の観点から検討し、内閣に上申する機能です。
国益のために自由な発想を組織内で出し合い、それを実行可能な形にまで詰めて、政策提言として上申するのです。
勿論、それをそのまま実施することを内閣に強制するのは民主主義国家として不適切ですが、内閣はその内容をキチンと精査して各省庁に必要な指示を行うか、ないしはその上申を採用しない場合においては、その上申に対して適切な回答をする義務を負わせるのが良いのでは無いでしょうか?
次の機能は、非常事態における省庁横断的な調整及び指揮統制補佐機能です。
有事や大規模自然災害、直近の例であればコロナ等の大規模感染症の発生に際して、内閣総理大臣の直轄で補佐すると共に、各省庁の調整窓口となり、また必要に応じて各省庁を指揮統制する機能を持たせてはどうでしょうか?
最後の機能は、この組織に出向した人材に対する研修教育機能です。
部内外から講師を呼んできて講話を受けたり、テーマを決めてディスカッションを行ったり、ワークショップを実施したり、部外研修を企画したりするといった、出向してきた優秀な人材を、更に国家を引っ張る主要なアクターとして、分野横断的に成長させる機会を得させる事が必要であると考えます。
当然、これらの企画はこの組織内で立案します。
また、これらの教育研修プログラムには、外部からのオブザーバー参加も受け入れるべきだと思います。
当然、オブザーバーを含めたプログラムには機密に関わる話は除外するのが必要条件です。
このオブザーバーには、与野党問わない政治家や大学等研究機関、民間のシンクタンクであったり企業等からも参加を可能とするものです。
外部の人間も国家中枢の関心事項に触れられるメリットがあるとともに、部内の人間も部外の人間との繋がり、人脈を形成する事ができます。
この組織の内部組織としては、以下のものを提案します。
・外交安全保障部(外務省、防衛省主体)
・金融経済安全保障部(財務省、経産省主体)
・資源安全保障部(農水省、経産省主体)
・情報安全保障部(外務省、防衛省、警察庁、公安主体)
・防災対策部(国交省、自治体主体)
・文化教育広報部(厚生省、文科省主体)
外交安全保障部はポリティカルな外交とハードパワーである防衛力を融合させて、他国からの我が国の侵略を防ぐとともに、我が国に有利な国際環境の醸成を図る部署です。
金融経済安全保障部は国内外の金融経済の情勢を分析するとともに、それらを踏まえて適切な政策を立案する部署です。
資源安全保障部は、国内外の産業資源や食糧資源を適切に確保し、国民生活の安定と我が国の発展を推進する部署です。
情報安全保障部は、国内の情報コミュニティの総元締めとして、インテリジェンスの最終分析及び処理、報告をするとともに、カウンターインテリジェンスを指揮する部署です。
防災対策部は、自然災害を中心とした我が国が直面する各種災害に対して、事前処置を推進するとともに、災害発生時にはその対処の中枢となる部署です。
文化教育広報部は、我が国の教育施策を統括して侵略的ソフトパワーの影響を局限するとともに、我が国のソフトパワーを対外発信することにより、我が国の国際的立場を強固なものとすることを目標とする部署です。
この様な組織を作る事で、我が国は統制の取れた力を発揮して困難な国際情勢を乗り越えることができる様になるのでは無いでしょうか?

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