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ねえ、先生

ねえ、先生、
私が卒業してから、7年になるね。
私のこと、覚えてる?


覚えてなんかないよね。
捨て駒の1人にしか過ぎなかったんでしょ。
私は駒なんかじゃない。
貴重なプレイヤーだったのに。

私はこの高校でトランペットが吹きたくて入学した。
なのに入学3ヶ月後にはホルンパートへ異動だ。
あーあ、私も一応強豪中学校の卒業生なのに。
同級生の2人に負けた。
人望のある内部生と期待の新生。
私は影の薄い、内気な新生。
そりゃ輝いてる2人には劣っちゃうでしょ。


それはいいとしてさ、
先生に聞きたいことがあるの。
どうして私にソロを吹かせてくれなかったの?


上の先輩方は、
全員がソロの経験ができるように
ソロじゃないパートも無理矢理ソロにして
みんなが目立てるようにした。
下の後輩たちは、
私たちを差し置いてソロを吹く子もいた。
上手いから、とかじゃなくて、
その子を成長させるためのソロってかんじ。
同級生たちも、ソロを任される時があった。
私もその時がきた。


大好きな森山直太朗のさくら(独唱)。
大好きな直太朗の曲にホルンのソロがあるなんて!
私は必死に練習した。
ホルンの後輩たちも
「先輩、よかったですね!!!」と
一緒になって喜んでくれた。

先生、あの時、なんて言ったか覚えてる?
「ここはソロにしたくない」



他パートは無理矢理ソロを作ったりしたのに
正規のソロはソロにしたくないって?

私は我慢できなくて、
練習後に職員室へ行った。

「さくらの最初、ソロにしてください!」
「私、ソロやったことないんです」
「ソロ吹きたいです!!」



「お前さぁ、そんなソロにこだわんなよ」
「あそこはソロにしない」




私、悔しくて泣きながら帰ったんだよ?
今でも許せない。
一生許さない。

卒業後、後輩たちの定期演奏会を見に行った。
ホルンパートの後輩がソロを吹いていた。
悔しくて泣いた。
なんで?



ねえ、先生。
私は先生が嫌いだよ。
先生のこと、7年経った今でもずっと覚えてる。
あの時間だけ切り取られたかのように、
ずっと覚えてるよ。

ソロが上手に吹けなくて
「もうやりたくない!!」って言う同級生に
「大丈夫だよ」って言いながら
唇噛んでた。

「私には上手に吹けません」って泣く後輩に
「吹きたくても吹けない人がいるんだよ」
「だから、吹けない人の分まで頑張って」って
歯食いしばって励ました。


私の何が気に食わなかったの?

私、望んだ場所じゃなかったけど、
上手にホルンパートをまとめあげた。

卒業する頃には、
「先輩の陰ながらの努力をいつもみてました」
って言ってくれる後輩が何人もいた。
直接関わりのなかった子まで。
それだけが、高校生活唯一の救いだった。
誰も、見てくれなかったから。



先生なんて大嫌い。
私のこと、見向きもしなかった。
期待もしなかった。
ただお前がそこに居るだけでいいと言わんばかりの
雑な扱いばかりだった。



先生なんて大嫌い。


【参考楽曲】

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