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【地方紹介3】オーヴェルニュ地方

<地方データ>
■【francerでの地方名呼称】:オーヴェルニュ地方
■【旧地方圏区分/地方庁所在地】:
オーヴェルニュ地方(Auvergne)
    /クレルモン・フェラン(Clermont Ferrand)
■【現地方圏区分/地方庁所在地】:
オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地方(Auvergne-Rhône-Alpes)
    /リヨン(Lyon)
■【旧地方圏区分における所属県と県庁所在地】
●アリエ県(Allier/03)県庁所在地:ムーラン(Moulins)
●カンタル県(Cantal/15)県庁所在地:オーリヤック(Aurillac)
●オート・ロワール県(Haute-Loire/43)県庁所在地:ル・ピュイ・オン・ヴレィ(Le Puy en Velay)
●ピュイ・ドゥ・ドーム県(Puy de Dôme /63)県庁所在地:クレルモン・フェラン(Clermont Ferrand)
 
★地方概要★
オーヴェルニュ地方は、フランスの中央から少し南側に位置する地方です。地方名ですと、有名なブルゴーニュやプロヴァンスなどと比べると知名度は低い地方となりますが、山岳地方ならではの文化や圧巻のロマネスク芸術など、渋み豊かな魅力がある地方と言えます。
 
この地方は、東にローヌ・アルプ、西にリムーザン、北はロワールとブルゴーニュ、南はラングドック・ルシヨンとミディ・ピレネーに接しています。つまり、完全に内陸の地方となり、海には面していません。そして、南フランスを構成する山岳地帯がこの地方にもあり、東部のアルプス、南西部のピレネーと肩を並べる山岳地帯、中央山塊(massif central)があります。このような山岳地帯であるということがこの地方の文化の根底にあります。そして、この地域はフランスでは珍しい火山地帯となっています。今でも多くの火口が残っており、オーヴェルニュの自然景観はこの火山活動によって作られたといえるでしょう。

クレルモン・フェラン近郊には火山地帯の山々が連なる

この火山の麓は、フランス屈指のミネラルウォーターの産地としても知られており、日本でも有名なヴォルヴィック(スティル・ウォーター)やペリエ(スパークリング・ウォーター)も、この地方が産地となっています。火山と言えば、温泉もセットになるわけですが、温泉地でもあり、ヴォルヴィックやペリエにも負けないミネラルウォーターの産地でもあるヴィシーもオーヴェルニュ地方にあります。世界的には、ヴィシーよりペリエやヴォルヴィックの方が有名かもしれませんが、この町は、第二次世界大戦時にドイツに降伏したフランスが、パリをドイツ軍に占領された後、約4年間臨時政府を置いた街です。なお、この時代の少し前、アメリカでジャガイモを使った冷製スープができあがりました。ヴィシーは知らなくても、このスープの名前を知っている人は多いのではないでしょうか。そう、ヴィシソワーズは、アメリカはニューヨークのリッツ・カールトン・ホテルで生まれたとされていますが、その時に、このスープを作ったシェフのルイ・ディアがヴィシー出身であったことから、ヴィシソワーズ(ヴィシー風冷製スープ・Crème Vichyssoise Glacee)の名前が付けられました。
 
★町や村★
 さて、火山地帯のオーヴェルニュですが、火口から流れ出た溶岩を使って街づくりがなされたクレルモン・フェランがこの地方の中心地。規模は大きくありませんが、近くに空港もあります。溶岩を使っていることで、全体的に黒っぽい街並みとなっているのが、この町の特徴となっています。また、町の近くにある山のピュイ・ドゥ・ドームからはオーヴェルニュ地方の起伏に富んだ壮大な山並みが広がり、絶景を堪能できる場所となっています。

火山岩を使ったクレルモン・フェランのノートル・ダム・ドゥ・ラソンプシオン大聖堂

街の中心は、ヴィクトワール広場、2つの鐘楼が目印のノートルダム・ド・ラソンプシオン大聖堂が堂々と聳えています。広場の中心に立つのは、教皇ウルバヌス2世の像。この町出身というわけではないのですが、この地で開催されたクレルモン教会会議を開き、第一回十字軍を提唱・実現をさせた人物です。広場の周りには多数のレストランやカフェが立ち並び、旧市街の中心といった雰囲気があります。

そして、もう一つの必見教会が、ノートル・ダム・デュ・ポール・バジリカ聖堂(Basilique Notre-Dame du Port)。このロマネスク様式の聖堂は「オーヴェルニュ地方・5つの主要ロマネスク教会」に数えられる教会です。現存する主な部分は、11世紀の地下聖堂の上に、12世紀に造られたロマネスク様式を色濃く残しています。外側では南側の扉のタンパンの彫刻が見事。正面にまわってファサードを見ると、ロマネスク様式によくあるタンパン彫刻など、彫像などでの装飾は一切見られないものの、色の異なる石で作られたアーチや切妻の装飾など、壁そのものの装飾が見事。特に後陣の礼拝堂部分にあたる半円形の部分の装飾は非常に素晴らしいです。

ロマネスク様式のノートル・ダム・デュ・ポール・バジリカ聖堂

クレルモン・フェランから南へ下ったところに位置する町が、ル・ピュイ・オン・ヴレイ。ル・ピュイとは丘を意味し、名前のとおり、丘の上に建てられた街となっています。南仏らしいオレンジ色の屋根が連なる街並みでひときわ目立つのが2つの奇岩。1つには街を見下ろす聖母像が、そしてもう一つには教会が立ち、街を見下ろしています。
ル・ピュイの街ではホタテ貝のシンボルマークがよく見られます。これは世界遺産に登録されたサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路であるからなのですが、フランスから始まるサンティアゴへの4つの道の起点の1つが、このル・ピュイであることから、巡礼の街としても有名です。堂々たるロマネスク様式のノートル・ダム・デュ・ピュイ大聖堂とサン・ミッシェル岩山の上に建ち、町を見下ろすとサン・ミッシェル・デギーユ礼拝堂は是非とも訪ねてみたい観光名所となっています。

サン・ミッシェル・デギーユ礼拝堂(手前)

古くから温泉の街、そして湯治で知られているヴィシー。第二次世界大戦時に臨時政府がおかれていたことも有名ではありますが、昔も今も、温泉の街として知られています。実際に街を歩いていても臨時政府がおかれていたことを感じさせるような建物などはほとんどありません。逆にグラン・カジノとアール・ヌーヴォー様式が美しいオペラ座、治療施設を改良したギャルリー・ナポレオン、現在は展示会場とブティックが入っているドーム温泉センター(Centre thermal des Domes)などでは、湯治リゾート(日本でいうところの温泉リゾート)的な雰囲気は今でもしっかりと感じることができます。

セレスタンの源泉は町中で飲むことができる

そして、オーヴェルニュを訪ねるならば外せないのは見事な宗教建築の数々です。主要都市となるクレルモン・フェランも含むのですが、オーヴェルニュの田舎の村々には、「オーヴェルニュ地方の5つの主要ロマネスク教会(Les cinq églises romanes majeures d'Auvergne)」と呼ばれる保存状態も素晴らしいロマネスク教会が点在しています。これほどまでに素晴らしいロマネスク教会がしっかりと残っている地域は稀で、ヨーロッパでも最も豊かなロマネスク様式の文化遺産を擁している地方と言えるでしょう。オルシヴァル、サン・ネクテール、イソワール、サン・サチュルナンなど、アクセスは決して良くはありませんが、近くに行く機会があれば、是非とも見学したい歴史遺産です。

オルシヴァルのノートル・ダム・バジリカ聖堂

★名産品と郷土料理★
 
このような山岳地方で暮らす人々には、やはりその地にあった生活が息づきます。中でも、有名なチーズがいくつも生み出されました。サン・ネクテール、フルム・ダンベール、ブルー・ドーヴェルニュ、カンタル、サン・タギュールなど、様々な種類のチーズが作られており、それらを味わってみるのも一興でしょう。このチーズ文化とともに発展した郷土料理アリゴ(マッシュポテトにチーズを加えたもの)やトリュファード(炒めたジャガイモ、ベーコンにチーズを混ぜ合わせたもの)も是非現地で味わいたい料理の一つです。

チーズとマッシュポテトを合わせた郷土料理アリゴ

また、食材として知られているのはル・ピュイのレンズ豆(Lentille du Puy)。煮込んだりスープにしたり様々な用途でフランス料理に用いられますが、その産地としては、ル・ピュイが知られており、A.O.P.(原産地統制呼称)にも登録されています。生産地であるヴレィの土壌では、古くから緑レンズ豆栽培がおこなわれ、高地であり、降雨量が少なく、日照時間が長いことから、優れた味わいで、植物性たんぱく質を多く含むことで、長く愛されています。サラダ、スープ、煮込み料理と様々な用途で利用されます。

ル・ピュイのレンズ豆

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