鎮守の森は杉林でなきゃいけないの?
写真は秋田と山形にまたがる羽黒山神社にある国宝「羽黒山五重塔」です。うっそうとした杉の巨木に囲まれ、いかにも神社の森らしい荘厳な印象をうけますね。
しかし、日本全国の鎮守の森をみると、杉林なのは実はあまりありません。
明治神宮が造られる時、当時の内務大臣であった大隈重信が「伊勢神宮にはスギやヒノキが生えているからスギやヒノキを植えればよい」とい言ったのを植物学者たちが却下して、100年後を見据えてのその土地の樹木を植えるように計画したのは、最近有名になってきた話ですが、なぜ神社というとスギやヒノキの森なんでしょう。
鎮守の森といえばスギヒノキの類いがイメージされるようです。上の大隈重信の言葉にあるように、伊勢神宮や、羽黒山修験道で有名な出羽三山と呼ばれる神社(排仏毀釈以前は神仏混交でお寺でも神社でもありましたが)が、最も有名な杉林のアイコンだと思われます。杉の巨木が真っすぐに天をめざして続く風景を見ていると、まことに神さまがいるような気がしてきます。
実は伊勢神宮の森は天然の森ではありません。伊勢神宮の森はかなりの昔、それこそ古事記よりも昔から人口による植林がなされており、天然林がありません。これは神宮の建築材に利用するため、スギやヒノキが植えられてきたからです。伊勢のある紀伊半島の植生は、熊野古道でも有名な照葉樹林であり、スギやヒノキの巨木を育てようとすると、数十年にわたって大変な手間をかけ続けなければなりません。このことから伊勢のスギ、ヒノキの巨木群は神代の昔から信仰目的で多くの人たちが世代を超えて手をかけてきたということがわかります。
しかし出羽三山のスギ林は天然林なのです。出羽三山は冷涼な気候であり、元来が急峻な活火山で、このようなやや寒くて乾いた、急斜面こそスギの木の生育に適しているのです。日本海側にはこのような地勢が多く、ここでとれるスギのことを「ウラスギ」と呼びます。
それはさておき、どこにでもあるありふれた中小の神社では、スギやヒノキを植林するよりも、もとからある山や丘の裾に広がる森を鎮守の森として作られたものが多いのです。こういった地勢に生えているのが広葉樹です。ですから普通の神社の鎮守の森を見ると、ナラ、カシワやシイ、シラカシなどの広葉樹である場合が多いのです。
伊勢神宮の境内林も太古にはイチイガシというシラカシの仲間の常緑広葉樹であったといわれています。
こういった、元々生えていただろうという植生のことを潜在自然植生といいます。明治神宮の森もこの潜在自然植生を再現して植えられました。自然に近い森を植林で作る時は、この潜在自然植生を再現するつもりで植えると、あとあと手間をかけなくともよい森になります。もちろん最低限の手間をかける必要はありますが。
(写真はCrown of Lenten roseによる。https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9948832)
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