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イギリスで村上春樹の本が友達作りの助けになった


イギリスに住んでいた頃、まずは語学学校でたくさん知り合いを作って、誘われれば出かけていた。英語もまだまだだったが、同じクラスのヨーロッパ人と出かけるたび、会話は上達した。

最初は「英語をもっと話せるようになろう」という共通点で、誰とでも仲良くなれるような錯覚をしたし、実際クラスメイトたちと出かけることが、会話上達の近道だったと思う。

「英会話の上達」を念頭に誰とでも会話していたが、だんだん気の合う友達と深い話を始める。

本当の友達を見つける。そのためには、自分をさらけ出す必要がある。私の場合は、読書が趣味で、文章を書くことが好きなこと。そうして日々バランスをとっていること。

村上春樹はイギリスで人気

イギリスで購入したMurakamiの本

私が「村上春樹の本が好きだ」「今すぐ買いたい」と思えば、イギリスの書店には基本的にMurakamiがそろっていた。村上龍も人気だが、MurakamiといえばHaruki Murakamiが一般的だ。そのくらい人気なのだ。新作が出れば店頭の目立つところに売り出す。

留学前から村上春樹の本を読みあさっていた私は、語学学校では勝手に日本代表としてみんなMurakamiの本を読むよう布教活動(?)をしていた。

手口は同じだった。ごく自然な流れで村上春樹の本をおすすめする。

「好きな本って何? 私は村上春樹が好き。日本の作家。読んだことはある?」

「ああMurakamiね。知ってるよ。まだ読んだことはないけど」

「読んでみて。面白いから。」

「どんな話?おすすめは?」

「ユニークで笑えるところも多い。美しい表現が好きだし先が気になる展開も面白い。ノルウェイの森は有名だし面白いけど、私は海辺のカフカが好き」

「へえ..。」

といった感じ。

語学学校の授業では「空いた時間に何してる?」とか「温暖化についてどう思う?」とか、さまざまなことについて意見を言い合う時間があったが、「好きな本のジャンルは?」というトピックも当然あったのだと思う。

さすがに私も、関係ない話の時にMurakamiを持ち出したりしなかったはず..である。


勧められた人が実際にMurakamiを読んでみる


私が信者として村上主義を熱弁していても、冷めた目で見ていたクラスメイトやイギリス人の先生が、驚くことに突然「Kana! Murakamiを読んでみたよ!」と言ってくることがあった。

「どうせ前から読みたかったんだ」と当時の先生は言った。

私はもちろん嬉々として「何を読んだの?」と聞いた。

「The Wind-up Bird Chronicle.」

なるほど。ねじまき鳥クロニクル。良いチョイスだなあ。

「面白いから昨日の夜もずっと読んでいたんだよ。まだ終わってないんだけど、なんていうか、混乱するね。結構変な話だね?」

「分かる!嬉しい、本を楽しんだみたいで。教えてくれてありがとう。」

「ま、今日も続きを読むけどね」

「また混乱すると思うよ」

「間違いないね」

という感じで。


私のクラスメイトにはイタリア人が多かったのだが、可愛いイタリア人の女の子が読んだらしいのだけど、「意味わかんないから途中でやめた」のだそうで、それは彼女の英語力の問題なのか、趣味に全く合わなかったのかは分からない。

イタリア語翻訳版がイギリスにあればよかったけど、もちろんそんなコアなものは図書館にも書店にもない。

まあ確かに、わりに好みがはっきりと分かれる本だとは思う。



本当の文学を知っているC

私は本を読むのは好きだが、文学を勉強したわけでも、詳しいわけでもない。割とミーハーなたちで、学生時代はずっとミステリーばかりで、東野圭吾と宮部みゆきが特に好きだった。

けれど偶然に出会ったCは、純粋に美しい文学を好んでいたように思う。

出会いもまるで小説ばりだが、私がオシャレなお店の前で20代前半に乗っていたオートバイを見ていたら、そこは皮グッズのお店で、中にはイケオジみたいな人がいて、その人が、「日本人?僕の彼女は日本が大好きで、日本に住んでいたこともあるんだよ。友達になったらどうかな」と言って、Cを紹介された。

そうして長身で美人のCと仲良くなるきっかけができた。年上で、色々な経験や移住経験も多かったから、たくさん会話の引き出しがあった。勉強になることも多かったが、彼女の方も日本語について知りたがっていることも多かった。

「日本語、だいぶ忘れちゃったなあ。なかなかゆっくりしか読めないから、英語で読んでるの。」

「何を読むの?」

「村上春樹が本当に大好き。言葉のチョイスが面白い。展開が予想外でいつも楽しい。キャラクターが魅力的。日本の作家好きなの。他にも、川端康成も好きだし、吉本ばななもこの前読んだよ」

「そうなんだ、川端康成。」


日本人の私よりよっぽど日本の文学に詳しそうなC。

ブライントンやホーブ(ブライトンの隣町)のCのお気に入りのカフェや、お互いの自宅で、話すことといえば村上春樹の新作の話。最近観た映画の話。それにもちろん、お互いの近況報告。

村上春樹の本の話で盛り上がり、時には「このキャラクターだけは許せない」論争にも花を咲かせた。(Murakamiの本には突拍子もないキャラや展開が含まれる)

読んだ人なら当然分かると思うが、ノルウェイの森でワタナベとレイコさんが最後に…
っていうところを話しながら、二人して「どうしてよ!?」とその理由を模索したり。

いまだに新作が出ると感想をメッセージで送り合ったりする。Cはずっと執筆活動もしていて、小説も書いて出版している。

本当に村上春樹作品があってよかった。そのおかげで出会えた人がいる。

何かを好きだ、ということも自分のアンデンティティーの一部だ。だから大切にしなければいけないし、それを貫く限り、同志を見つけることが可能になる。


最後に、私が大好きな村上春樹の作品ランキング


1、海辺のカフカ
ナカタさんというおじさんが、今まで読んだ全ての小説の中で今の所一番好きなキャラクター。

2、1Q84
私の好きな、恋愛とミステリーが盛り込まれているのと、カルトの内情が興味深い。(フィクションにも関わらず)

3、ノルウェイの森
主人公のワタナベがあまり好きになれない。けれどそれがこの小説の好きなところで、色々思いながら読むのが楽しい。突撃隊(そういう名前のキャラ)のシーンは笑えて好き。あとミドリの明るい性格に憧れる。

4、世界の終わりとハードボイルドワンダーランド
太った娘(そういう名前のキャラ)が聡明で、なおかつ機転がきいて、素晴らしいと思う。まだすごく若いので、どう成長したのかその後がとても気になる。ぜひ太った娘を続編で出してほしい。

5、風の歌を聴け
とにかく、ジェイズバーでフライドポテトをつまみにビールを飲みたい。


私の夢の一つには、村上主義の人たちで集まって、ジェイズバーでビールを飲みながら語る、というものがある。あるいはトム・コリンズやウイスキーでも。

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