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「ペットを飼いたくても飼えない人たち」へ向けたサービス(後編)

2021年8月から宣伝会議主催の「編集ライター養成講座43期」に参加し、2022年1月22日が最終講義となりました。

最終講義では卒業制作の講評と審査結果の発表がありました。受講生145人中65人が提出。その中で、最優秀賞は3人、優秀賞は7人が受賞。私の記事は優秀賞をいただきました。

今回は、私の卒業制作として作成した記事の後編をご紹介いたします。

前編はこちら

動物好きでペットを飼いたくても飼えない方に、少しでもお役に立てる情報であれば幸いです。

※本記事は、宣伝会議 第43期編集・ライター養成講座の卒業制作として作成しています。公開に伴い、一部文言を訂正しております。

それでは以下。

■「ペットを飼いたくても飼えない人へ、ペットとの新しい共生の形」(後編)

□ペットとの生活に癒しを求めて

2020年発表の「全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会)」によると、1年以内の新規飼育者の飼育頭数は、犬・猫ともに2020年は増加し、過去5年間で伸び率・飼育頭数ともに最大となった。昨今の巣篭もり生活の影響で、ペットとの生活に癒しを求める人が増加したことが要因だろう。

その一方で「ペットを飼いたくても飼えない人」も多く存在する。特に都心部では、マンションなどの集合住宅の居住率も高く、ペット禁止物件も多い。増え続ける単身世帯では、動物の世話をするのは容易ではない。

さらに、2021年6月には「動物愛護管理法」が改正され、動物の販売者や飼育者に、より強い責任が求められるようになった。ペットを飼うハードルはますます上がっているのだ。

飼わずに触れ合えるサービス

都心部でペットと触れ合えるサービスはどんなものがあるのだろうか。

もちろん動物園などの大型施設はあるが、数は限られている。

一番手軽に利用できるのは動物カフェだ。料金は30分滞在、ドリンク付きで500円から1,500円程度。猫カフェは比較的多く、東京だけでなく各県に存在する。

しかし、犬カフェについては、東京都内にはいくつか店舗はあるものの、他県ではほとんど見当たらない。見つけたと思って、よくよく調べると「犬同伴OKのカフェ」であることが多い。

原宿にある「豆柴カフェ」30分単位の予約制で、混雑時は1時間待ちになることも。

実際に都内の犬カフェ3店舗に足を運んでみたが、どの店もすごい人気で「なぜ犬カフェが少ないのか」という疑問が残った。

動物カフェで過ごしてみると、猫は比較的マイペースで人間が近くにいてもそれほど大きな反応はしないのに対し、犬は人間に反応しやすく、鳴き声を上げることもある。こうした性格の違いも、犬カフェの運営が難しい一因だろう。また、猫に比べ、犬の方が広い居住スペースを必要とし、医療費なども含めた飼育コストが高いことも、大きな要因と考えられる。

□保護犬を企業に派遣するサービス

動物と人の接点が少なくなっている日本の現状を受け、「保護犬」と「人」が共存する場所を作りたいと、企業向けに犬材派遣サービス事業を行う「株式会社Buddies(バディーズ)」を2020年に立ち上げた代表取締役の寺田かなえさん。

寺田さんは、赤ちゃんの頃から飼っていた愛犬「くう」をお姉さんのように慕い、彼女の病気を治したいという思いがきっかけで獣医を目指す。

大学で獣医学を専修し卒業後、獣医師として動物病院に勤務するも、保護動物や野生動物のために活動がしたいという思いが強くなり、インターンでアフリカへ。帰国後、Buddiesを立ち上げ、現在は都内の臨床獣医師として勤務しながら、事業を展開している。

Buddies代表取締役 寺田かなえさん

日本は欧米と違い保護動物への寄付文化が根付いていない。寄付に頼らずに、持続可能な方法で保護動物をサポートしていくには、日本ではビジネスでやる必要があると考え、事業を立ち上げた。

現在は、企業から要望のあった施設への犬の派遣などを行っている。その際には、寺田さんがメディカルメンテナンスを行い、提携トレーナーの協力を得て、保護犬や施設、関わる人たちの安全対策を徹底している。

アメリカで導入されている「セラピードッグ」や「犬の派遣サービス」

2019年、海外市場を見据えた起業家を応援するビジネスコンテスト「Global Innovation College」で優秀賞を受賞し、海外カリキュラムメンバーに選抜された寺田さんは、アメリカのコロラド州デンバーに渡り、現地の動物保護団体の視察やセラピー犬を導入している空港へのインタビューなどを行った。

アメリカの空港では、高度な訓練を受けたセラピードッグが30港以上で活躍している。空港内に数十匹の犬がいて、誰でも自由に触れ合うことができるのだ。そのなかには保護犬が活躍している例もあり、人間社会との共生を図っている。この活動が反響を呼び、導入する空港が広がっている。

↑(追加情報)アメリカの空港でセラピードッグが活躍する様子。
JAL ABCページより(https://www.mobile.jalabc.com/media/airport_cabin/therapy-dog


動物福祉が急速に発展しているアメリカやオーストラリアなどの保護団体においては、すでに保護犬のサービスが一般的になりつつある。タクシー配車会社の「Uber(ウーバー)」は保護団体と提携し、企業等から予約があると、オフィスなどに保護団体から預かった子犬たちを派遣する「Uber Pappies(ウーバーパピーズ)」というサービスを行っている。

また、フロリダの保護団体は、保護犬たちをオフィスや結婚式場へ有料派遣を行っている。このような事業は、保護犬たちの社会化や譲渡機会の増加、運動不足やストレス解消を期待して実施されている。

日本でもこうしたサービスの普及が望まれるが、企業側には導入のリスクもあるので、少しずつ試験導入を行い、日本独自のスタイルを確立していく必要がありそうだ。

人と動物の関係をより良くする「ワンヘルス」を目指して

人は犬と触れ合うことで癒やされ、犬を介して人同士の会話が増えるなどの効果があると言われている。犬にとっても、人と触れ合うことでストレス値が下がるという研究論文もある。

日本の都心部では、動物と人が触れ合う機会が減少している。「職場に犬がいることで、働く人たちのストレス値を下げられるという仮説を立てている。実際にアメリカでは、犬がいる会社は離職率が低下し、生産性が上がったという報告もある。保護動物のサポートと合わせて、人のメンタルケアという社会課題に関しても、事業として取り組む価値がある」と寺田さんは話す。

六本木にあるコワークスペースで開始したBtoC事業の様子(Buddiesホームページより)

保護犬に関するアンケートを取ると、日本では「体が弱そう」「怖がり」「かわいそう」といったネガティブなイメージが強い。しかし、実際に触れ合うと犬の性格も様々であると分かり、ポジティブに変わることも多いそうだ。こうした観点からも、保護犬と触れ合う機会を増やすことは大事だ。

「ドイツで有名な保護施設の施設長と話す機会があった。私が不思議だったのは、動物福祉の先進国で、そもそもなぜ保護施設があるのか?ということ。動物福祉が発展しても、保護動物はゼロにはならない。動物を保護する仕組みは今後も必要だし、譲渡したら完了ではなく、その後の人と動物の良い関係づくりや、飼っていない人との共存も大切」と寺田さんは語る。

人と動物との関係性をより良くしていくことで、明るい社会をつくり、人・動物・まち、すべての健康を促進する「ワンヘルス」という概念を実現することが寺田さんのビジョン。

この概念がもっと広く認知され、互いに良い影響を与え合える社会になることを期待したい。

□ペットと共生し互いに支え合う未来

現代のストレス社会において「心のケア」や「家族や仲間との繋がり」が大切だと感じている人は多い。その解決策として、ペットの役割は大きい。

今後も増加する「ペットを飼いたくても飼えない人たち」へ向けたビジネスは、まだ少なく発展途上である。

家族型ロボットペットは、価格的なハードルはあるものの、新しい選択肢として、広く受け入れられる日も、そう遠くない未来かもしれない。

ただ、どんなにロボットの技術が発展しても、本当の動物との接点を求める人たちは多く存続すると推測する。

社会問題となっている保護動物を社会進出させ、触れ合いを求める人たちとどうマッチングさせていくか。

ペットと人の関係性をより深め、互いに支え合い共生していくことが、これからの日本の明るい社会づくりには重要になるだろう。

(了)

以上です。

今後は、追加取材として「保護犬のいるコワークスペース」や「看板猫がいる神社」などにも足を運び、レポートしたいと考えております。

リサーチして企画立案。候補者に取材交渉。取材相手の情報や書籍を読み尽くす。インタビューを録音し、写真を撮影。文字起こしをして校正、校閲、推敲。

この一連の流れをひとりで行うのは、普段はないことで、貴重な経験をさせていただきました。

取材に応じていただいた皆さま、本当にありがとうございました。

なお、最優秀賞の記事は宣伝会議のアドタイに紹介される予定です。

また、それ以外の卒業制作資料は宣伝会議 公式noteにて紹介される予定です(公開希望者のみ)

ご興味がある方は、こちらも合わせてお読みいただければ幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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