BGM conte vol.13 《Baby Alone in Babylone》
また出たって言うよ。
誰なんだろうね。
なんなんだろうね。
街灯のあかりの届かぬたとえば植え込みの影に、細くて小さな男たちがしゃがみ込んで鳩首する。声をひそめて噂しあっている。ときおり口をふさいでひっひと淫靡な笑いを漏らす。彼らのすぐかたわらに酔漢どもは嘔吐して、饐えた匂いがあたりに立ち込める。ひとたびミーアキャットよろしく面を上げれば、かなたに聳える光の街。不夜城。
すすきの、国分町、歌舞伎町、栄、ミナミ……そして福岡中洲。部屋の内線に誰も応じず、もしやと従業員が押し入ると、案の定、浴室で男がうつぶせに倒れている。呼びかけに応じない。慌てて通報するも、その時点で誰も異変に気がついていない。
紺のトレンチに同じく紺の鍔広の帽子を目深に被った人物が随所で目撃されている。防犯カメラがそれをとらえる。それは決まってキャリーケースを引いている。零時過ぎ、ひとり建物をあとにすると、裾を靡かせながら、光の原へ消えていく。
昼より夜に人は多く街の公園を徘徊する。あるいはたまさかの露出狂のつがいが出没し、植え込みの陰に、またしても細くて小さな男たちが息を詰める。背後にするケースを引く音など、誰も気に留めはしない。
あら、これは出物。
あまりに愛おしかったから。
きれい。
あまりにも憎らしかったから。
いくら。
いくらでも。
そうして二人は互いのキャリーケースを交換し合う。ほんの一瞬というべきすれ違いで、不審に思う者など誰ひとりいない。二人は足早に遠ざかる。まるで本体と影との永遠の訣別のように。
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