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ウォン・カーウァイ監督の描く、忘れられない恋と別れたち。WKW4K

この頃すっかり秋めいてきましたが、今回は夏に観た映画の話を。

映画好きの方と話をすると、度々おすすめされるウォン・カーウァイ監督作品。サブスクでは公開されていない作品も多いので「いつか観たいな…」と思っていたところ、4Kレストア版として5作品を上映する企画が8月19日から始まりました。
さまざまな年代の観客で座席がびっしり埋まる劇場の光景になんだか背筋が伸びる気持ちを覚えながら、『恋する惑星』『ブエノスアイレス』『花様年華』の3本を鑑賞してきました。


『香港映画の名匠』ウォン・カーウァイ監督

1958年上海に生まれたカーウァイ監督は、5歳で当時イギリス統治下にあった香港に移住。デビュー監督作『今すぐ抱きしめたい』以降数々の作品を制作し、日本では90年代にミニシアターブームを巻き起こすなど、世界中に大きな影響を与えたそう。

彼の作品といえば、なんと言っても湿度を感じるような色彩の鮮やかさ。
フィルムの質感とも相まって独特の雰囲気が感じられ、一気に世界観に引き込まれてしまいました。
あと印象的だったのはモノローグやスローモーションの多用で、普段よく観ている映画作品に比べるとなんとなくプロモーションビデオを観ているような感覚…。ただそれが悪いという事は一切無く、どのシーンのどのコマを切り取っても絵作りが完成されている…!と思うほどに各ショットの完成度が高いので、ストーリーを置いておいても十分に楽しめる絵力がすごい…と思いました。タバコの煙でさえも計算しました?と思うほどで。

「画」を「映す」の積み重ねで一つの作品を作っている意識が高い作品たち。私はPVみたいだと感想を述べましたが、手法を考えると逆にすごく「映画」的ですよね。


文化と政治が複雑に入り乱れる香港を描く

彼の映画で描かれる、活気溢れる香港の街。
作中で必要以上の説明はありませんでしたが、現実に起こった様々な歴史的背景が織り込まれて制作されていたらしいことを鑑賞後に知りました。世界史A選択しておけば良かったな…

イギリス領だった影響で、様々な文化が見える街の風景。
イギリスからマレーシア、そしてマレーシアからシンガポールが独立した時の影響で、シンガポールで仕事を始める主人公。
フィクションといえど現実の地を舞台にしているからには、そして作り手である人間が現実の香港や社会に生きているからには、創作と社会とは切り離せないものだなと思います。




画面がすごく良かったのでパンフレットも購入。
全面に印刷されたフィルムのシーンたち。ページをしっかりと開いて楽しめるようコデックス製本になっていて、「写真の素晴らしさを楽しんでくれ!」と言わんばかりのこだわりを感じました。

私が鑑賞した3本は、展開的にすごくカタルシスを覚えたりグッとくる感じでは正直無かったのですが、鑑賞して数日経ったあともシーンや登場人物が頭の中でふと思い出されるような、じんわりとした余韻のある作品たちでした。楽しい劇場体験でした。





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