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【離婚後共同親権】”子の意思”はどのように反映されるべきなのか(2)「子どもの手続代理人制度の現状」

※前記事

前回は、子の意思を確認する方法として主流を占めている、家庭裁判所調査官の調査についてご紹介しました。

今回は、2011年の家事事件手続法で創設された、手続代理人制度についてお話ししたいと思います。

1、子どもの手続代理人制度とは?

子どもの手続代理人(以下、手続代理人という)は、家事事件手続法22条以下に定めが置かれているもので、意思能力のある子どもが一定の事件で手続上の行為を行う場合、裁判所は必要があるときは弁護士を子どもの手続代理人に選任することができ、また、子ども自身が弁護士を手続代理人に選任することもできる、という制度です。

手続代理人の主な任務は、子どもの意見表明の援助ですが、子どもの最善の利益を実現するための調整活動まで期待されているものです。

これは、いわゆる海外の立法例における「子ども代理人」とは異なるもの、と説明されています。
これは、次回記事以降にご紹介しますが、家事事件手続法65条にいう「子の意思」の解釈は、子どもの権利条約にいうような意思決定権・意見表明権とは異なる、と考えられていたからです。

<海外法の子ども代理人との違い>
・あくまで手続きの代理人であること
・家庭裁判所に事件が係属してはじめて選任可能であること
・家事事件手続法に定められた事件に限定されること

2、手続代理人の選任方法

一般的には、家事事件の当事者(多くの場合は親権者)が、裁判所に対し、「子どもの参加の申立て」と「子どもの手続代理人の選任申立て」を行い、大半のケースでは裁判所の職権で弁護士会に推薦依頼を出す、という手続きが取られています。(家事事件手続法42条以下)

代理人は弁護士が原則とされますが、法律上は弁護士以外の者も選任することが可能です。(同法22条)

調停の場合は、家庭裁判所裁判官が手続代理人の権限を有しています。(同260条)

3、手続代理人の現状

やや古いデータですが、2016年にまとめられた「子どもの手続代理人制度の現状と課題」という資料によれば、手続代理人が選任されたケースは、わずかに23件にとどまります。(国選18件、私選5件)

<選任されない理由>
・家庭裁判所調査官の調査との切り分けの基準が分からない
・家庭裁判所裁判官としては、調査官のリソースの方が使いやすい
・公費負担がない(何と、子ども自身が負担するのが原則!)※1
・上記に関連して、親権者の協力が得られないと実質的に利用が難しい
 ※2
・手続代理人の権限が狭く、法定代理人ではない。
 未成年の子どもがなしうる手続の代理権限しかない。※3

※1家事事件手続法28条1項。なお、法テラスを通じた法律援助制度は設けられています。
※2民法5条1項ただし書きにいう法定代理人の同意を要しない行為ではないため、独立した活動が期待されているのに、法定代理人(親権者)の同意が必要という矛盾した状態の制度になっています。
※3同法24条3項。

<改善への動き>
日弁連では、2012年に国に対し、子どもの手続代理人に公費負担を認めるよう、要望書を提出しています。

また、家庭裁判所調査官との役割分担については、最高裁と協議した結果、「子どもの手続代理人の制度と同制度の利用が有用な事案の類型」を公表し、運用基準の明確化をはかっています。
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/activity/data/kodomo_dairinin_ruikei.pdf

4、手続代理人は、子の意思をどれだけ反映できるのか

日弁連は、弁護士会員向けに活動マニュアルを公開していますが、閲覧権限がないため、次の資料に基づいてご紹介します。

〔出典〕佐々木健「子の利益に即した手続代理人の活動と家事紛争解決」立命館法学369・370号
※佐々木健・・・立命館大学准教授

佐々木准教授は、まず、子の面談に際して、3つのポイントを挙げています。

・親近感・安心感をもたせる対話を心がけること
・子の年齢に応じた形で、自身の役割や手続状況、その他業務上の守秘義務等、正確に伝えるべき事項を伝えること、
・手続の見通しについて子に過剰な期待を持たせることを回避すること

ただ、私見ですが、こうした難しい法律上の説明を理解できる子どもの年齢は、おのずと制限があると思われます。

そのうえで、子の真意の探求につとめていくわけですが、現状、公費負担すらない現状で、臨床心理士等、他の専門家の知見を得ることは難しい、と考えられています。そのため、各弁護士会で、子どもの手続代理人の専門研修を実施しています。

こうした方法を通じて、子の真意を把握した代理人が、裁判所に子の意思を伝えるわけですが、原則として子の意思を勝手に解釈して伝えてはならない、と考えられています。
しかし、虐待事案など子の真意が虐待親に留まるものであっても、子の利益に反する場合は、別途自分の意見を裁判所に伝える必要がある、と佐々木准教授は指摘しています。

もう1つ、難しい問題は、子の真意を父母にどう伝えるか、という問題です。佐々木准教授の論文に、池田清貴弁護士(東京弁護士会)のコメントがありましたが、裁判所へ提出した書面の複本を父母に送っているが、子の囲い込み等の直接的な影響が見られるような場合には直接的な記述を避ける等、記述に注意している、とのことです。

5、【疑問】なぜ、法は子の意思の反映に積極的ではないのか

以上、見てきたように、手続代理人では、子の意思を代弁するには、権限的にも費用面でも制約が大きいです。
そもそも、制度つくる際に、誰も疑問を挟まなかったのか?と首をひねりたくもなるような制度です。

結局、家事事件手続法では、子の意思の反映には、
(1)独善的な面がある家庭裁判所の調査官の調査
(2)効果的な利用が期待できない手続代理人
以外の方法が見当たらない、という状態です。

なぜ 、法は、子の意思の反映に積極的ではないのでしょうか。

それには、家事事件手続法の制定過程の検証が必要です。

【次回】

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