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食品の健康効果を確かめる(応用編)

前半はこちらから

さて、食品の健康効果を確かめる、と言うより医薬品をはじめとした世間一般的な効果の確かめ方を前回はお話ししました。

今回は食品に特化して、効果を確かめるときに注意すべきポイントを整理してみたので、色んな情報に惑わされる前にぜひ読んでみてほしい。


食品はそもそも食べられている

これ結構大きな落とし穴なんですが、とある食品の効果を謳う場合はそもそもその食品がどれだけ摂られているかの前情報は必須。

例えば、ビタミンCの効果を見たくてビタミンCの介入実験を行ったとして、元々普段の食事からビタミンCを摂っていたらその効果は小さいでしょうし、また普段の摂取量が少ない人がたまたまこの期間にビタミンCを多く含む食品を摂るようになったら、何が効いたのかその効果はわからなくなります。

プラスαか置き換えか

前述の話に近いですが、食品を介入すると言うことは実は代償的に普段の食事が減ると言うシチュエーションが多々あります。

ただ、例えば地中海食を一月試してみると言われたらどうでしょう?地中海食って体にいいと言われていますもんね。結果体重が下がったとしましょう。

地中海食が良かったのでしょうか?もちろんその可能性はあります。
ただ、地中海食をとったということは、その分普段の食生活をやめたはず。つまり、動物性油脂などカロリーの多いものから地中海食にしたのか、元々ヘルシーな日本食から地中海食にしたのかで全く意味合いが異なります。

医薬品とは異なり食事や食品の介入は他の付加ではなく何かが置き換わっていることが多いと言うのは常に頭に入れておく必要があります。

ちなみに、サプリメントの場合はあまり変わらないでしょうね。飲むだけなので。

食品成分vs食生活

ビタミンCが風邪に効く
果物(ビタミンC豊富)が風邪に効く

同じようで全然違う話。

前者の場合特定成分に絞っているので、単純明快かつ本当にそうであれば取り組むのが容易なので行動にはつながりやすそうです。
ただしデメリットとして、食品成分に絞った研究の場合は試験対象になった人数が少ないものが多く、多くても百人規模くらいの試験。別に少ないことが悪いわけではないですが、特定の集団に絞っていたり(例えば、男女、年齢、生活習慣など)、汎用的ではない結論である場合もあるでしょう。

一方後者の場合はどうでしょうか。果物は食べている人も多いし、たくさん食べる人とそうでない人で比較もしやすい。介入するにしても「一日中100gの果物を食べてね」と言うこともできるので、規模の大きい解析になることが多い。
ただデメリットは、結局何が効くのかわからないので、どの果物でも良いのか?りんごだとして品種はなんでもいいのか?熟したりんごと若いりんごのどちらでも良いのか?などなど細かいことまで分からないことも多いでしょう。

最終的に一般化しやすいのは後者(すなわち食生活)ですが、後者の結論は「まあそりゃあ果物や野菜は体にいいよね」みたいな当たり前の結論になることも多いので、簡単に取り組みやすくつづきやすいのは前者だったりもします。

アウトカムはなにか

アウトカムとは、その実験における最終ゴールのこと。

アウトカムは壮大であればあるほど期間や規模が大きい必要があります。先ほどの話に戻ると食生活の場合アウトカムとして「死亡率」「がん罹患率」「糖尿病発症リスク」などまで検討しやすい一方、前者のような成分レベルの場合はその手前である「血圧低下」「食後高血糖の防止」「血中コレステロールの低下」などとなる場合がよくあります。

もちろん前者の方が生命に関わるので重要ではあるものの、実際に食と健康を考える上で普通の人が考えているのは「寿命を伸ばしたい」みたいな先の話より「次の人間ドック気をつけよう」だったり「夏に向けて痩せよう」のような短期の話であることがほとんど。

アウトカムの違いに私は優劣はないと思っています。
これは健康をどう定義するか?とも同じ話だと思うので、過去に書いたコラムもぜひ。

盲検化の難しさ

前回の入門編で話しましたが、介入試験には「盲検化」と呼ばれるプロセスがあり、摂取している本人や観察している医師がそもそも何を介入しているかわからなくすることでバイアスを抑える仕組みがあります。

でもね。食品の盲検化ってかなり難しいんです。なぜなら味があるから。当然ですが、その当然が難しい。

なので、必ずしも盲検化することができず、諦めることもあります。だってその味のバイアスも含めて食品ですから。よく盲検化できていないことに疫学の専門家からお叱りを受けることもありますが、それは重々承知なわけで、それも含めて結果がどう変わるかが食品として重要であり、食品であることの意味でもあるのです。

比較対照は必要か?

もちろん盲検化は最大限頑張るんですよ。

例えば、多少甘みのついた食物繊維の比較として人工甘味料を微量配合したり、乳酸菌飲料の対照群として、全く違う乳酸菌で発酵して、カロリーを揃えた物を使ったりもします。

しかし、さまざまな観点から「それが人畜無害な比較対照群です」というのも結構難しいものです。

ここで問う必要があるのは、そもそも対照群はその実験において必要なのか?というのも一度考えることが大切かもしれません。

もちろん明確なエビデンスを取るためには必要ですが、そのエビデンスを取る前段階として比較対照がなかったり盲検化されていない実験があっても良いじゃないですか。

不完全な研究を否定するリスク

そういったフェーズの話をしているのに頭ごなしに「RCTじゃないから無意味だ」とか、「動物実験レベルは意味ない」というのは違うかなと。

もちろんそのレベルで効果があると言い切るのはそれは当然問題ながら、そう言った研究の途中段階であるものを頭ごなしにしてしまうと次のタネが生まれてこないので、生暖かい目で見守るのが得策。

結局弱いエビデンスが悪いというよりはLimitationを明確に開示しないことが問題なんでしょう。

食品の臨床試験にはそう言ったものが多数存在しています。そして、身近だからこそそういった研究成果が課題解釈されて、変に広がってしまうリスクも確かにあることは、以前Twitterで述べた通り

否定することも肯定しすぎることもよくないのは間違いないですね。

何よりこう言った情報を楽しんで、害が想定されないようなものであればとりあえず試すのも良いでしょう。害が出るというのは、そもそもの食中毒やアレルギー、体に重大な問題を引き起こすようなものから、誤認することで治療の機会を逸してしまうようなものまでさまざまありますので、それは注意いただく必要はあります。

食品メーカーはある意味自分たちの商材を売りたいので、こういった研究データが今後も出る状況はおそらく続くはずです。それを楽しむ余裕が大切なんじゃないかと私は思うわけです。

ということで、バランスの良い食事が大事だよ、といういつものつまらない結論にはなるんですが、結局食と健康の情報って面白いからついつい読んじゃうんですよね。面白いとかついつい読んじゃうとか、そうやって聞き流すくらいが良いと私は思うわけです。

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