そのトラック、必要?

 私たち作曲家はDAWで音楽制作をしていると、色々な音源を使ってトラックの作成を行う。バンドサウンドであればギター、ベース、ドラムと演奏をしたり打ち込みをしたりしてオケ制作を行っていく。その中で普通の音源を使って打ち込みをしていくだけでなく、音源を重ねて音を作っていく打ち込み方をする人や演奏を重ねて録音をしていく人も居る。いわゆるダブリングやレイヤーという考え方だ。

 これを行うメリットとしては単純に音の厚みが出しやすい事、エフェクティブな表現が出来る事。そして打ち込みの場合は音色の表現にもつながる内容なので、これらを取り入れる人は多い。

 しかし、それ要る?って思う事も正直多い。特にこれはエンジニアをやっている人からすると誰もが絶対に思った事のある疑問ではないだろうか?

 プロの方が重ね取りやレイヤーを組んで打ち込みをするからと、ついつい同じような事をやろうとするのだが、それは重ねる事による表現や意図というものを大なり小なり考えながら行っており、無意味に取り入れいてる訳ではない。恐らく作曲家はどういう意味があってそのトラックを作っているのか理解したり、或いはそのトラックがただ重ねているだけだという事は聴いたら一発で分かると思う。そしてエンジニアもその辺りは理解してしまう。

 と書いているが、実際にその作家が何を考えいるのか分かる訳ではない。というより、その人の意図がどうこう以前に、作曲家やエンジニアの立場的にその音源をミックスしている最中に「要らなくね?これ」となる事が多い。寧ろ邪魔してるよね?ってなれば作った人にとっては必要でも、エンジニアにとっては本音として要らない。というか人によっては削除するエンジニアすら居る。

 今の所私に依頼してくる人の中にはバリバリレイヤーを組みまくる人は少ないのだが、依頼してくる人のトラックを見ているとやはりどういう意図で作られているのか一発で分かる楽曲のパラデータって自ずと必要最低限なトラック数で収まっている。

 トラックの埋め方にはある程度守っておけば成立するルールのようなものがあって、低音、中音域、高音域、それらの部分を埋めるパートが一つずつ入っていれば、音源としては成立する。滅茶苦茶シンプルに書いたのだが、しっかりしている音源であればある程、この辺りは徹底していて、装飾的な音はあまり入れていない。

 色々な音が多く入っているように聞こえる音源も、それはパンニングをして振り分けているのであって、実は言うほど楽器の数は多くない。同じ楽器でレイヤーを分けて音色を作っている場合はあるのだが、音色の異なる無駄な音を重ねるケースはそう多くない。

 私はミックスを請け負う時の条件にトラック数を掲げているのだが、それは裏を返せば無駄なトラックを省きましょうというメッセージも込めている。全てのエンジニアが同じ考えとは言わないが、トラック数で金額を変えているエンジニアは腕が無いのではなく、やろうと思えば作業は出来る。しかし、露骨にお金を取ろうという訳ではなく、「大体そのトラック数があれば楽曲が成立する」範囲で金額を設定している人が多いので、トラック数で金額が跳ね上がりすぎる方は一度本当にそのトラックが必要かどうかというのは精査してみる価値はあると思う。

 絶対ではないが、バンドサウンドで25トラックを超える方は一度トラックを見直す価値はある。そもそも無駄にトラックを分けている人はちゃんと一本化したり、無駄に音を重ねている人は重ねる音数を減らしてみたり、見直せる部分はある。

 そして、そこで無駄なトラックを省く事でまとまったミックスになる事は多い。というより寧ろその方がミックスは上手くいくので是非考えてみてほしい。

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