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スイス生活立ち上げ①(入国と家探し)

2023年11月から半年間、ETH Zurichで研究を行うためにスイスのチューリッヒに住むことになりました。備忘録的に、そして今後誰かの役に立つことを願って、生活の立ち上げ過程を書き連ねておきます。


入国まで

入国許可証について

後述するように、滞在が3か月以内なら観光と同じ扱いなので入国にビザは不要です。しかし、それ以上の滞在は観光とは別扱いになるので、入国に許可証が必要となります。
入国許可証は受入先の方で発行してもらうことができました。申請から発行まで4~6週間必要らしいので、早めに受入先と連絡を取って手続きを進めてもらうようにしておくとスムーズです。

滞在許可証について

日本とスイスはシェンゲン協定を結んでいるため、3か月以内の滞在であればビザは不要です。したがって、生活する場所があればどこにいても問題はなく、ホテルやAirbnbに泊まったり(いずれも高いですが)、友達の家に居候させてもらうというのでもいいわけです。
しかし、3か月を超えると話が変わります。この場合、滞在許可証というものを取得する必要があります。滞在許可証の取得には住所が必要です。ホテルやAirbnbはあくまで人の所有する部屋に泊まるわけなので、これを自分の住所とすることはできません。したがって、寮やアパートで部屋を借りることが必須となります。
大学によっては、学生寮やゲストハウスを貸し出してくれるところもあるかもしれません。しかし、チューリッヒでの住居占有率は99%を超えていて、ほとんど空き部屋がなく、学生ですら自分の大学の寮に入ることのできないという過酷な状況になっています。したがって、何とかして自分で住居を探し出すことが求められます。
滞在許可証の申請には、住居を借りるための家主との契約書類を見せる必要があります。そして、チューリッヒ到着から2週間以内に滞在許可証の申請を行わなければならないという規定があります(後述しますが、これがどの程度厳しいルールなのかはよくわかりません)。したがって、それまでに何とか家を探し、契約する必要があるわけです。

入国前の家探し

とは言っても、日本にいながら家探しに関してできることは限られています。インターネットで過去の体験談を探してみると、いろいろなプラットフォームで探してメールをひたすら送り、50件中5件来た返事の中からオンライン内見をして部屋の契約に至ったという強者もいるみたいですが、エネルギー的にはなかなか真似できることではないな、と思いました。また、この手の不動産広告には詐欺も横行していて、存在しない広告を載せて敷金と初月分家賃を振り込ませ、現地に行ったらその物件がなかった、ということもあるようです。
私自身は初め、FlatfoxやWG Zimmerなどのアプリを使って物件を探していました。しかし、なかなか自分の条件に合う物件が見つかりませんでした。数か月旅行するのでその時だけ部屋を又貸しします!みたいな広告が多かったです。その後、Facebookの日本人コミュニティで広告が出ていないか探したり、知っている人経由で物件を持っている人に問い合わせてみたりしましたが、見つかりませんでした。
受入先の研究室の秘書の方に「どうやって物件を探したらいいか」と問い合わせたところ、とある学生寮を紹介されました。そのオーナーに連絡してみたところ、「残念ながら空きがない」と言われてしまいました。
その後、以下のThe housing office of University / ETH Zurichのホームページにユーザー登録して、そこの掲示板から物件探しをしていました。しかし、メールしてもほとんど返事はもらえず、返事が来ても「半年は短い」「既に契約されている」というようなものばかりでした。

日本出国1か月前になり、いよいよ不安になってきたため、もう一度秘書さんに連絡して状況を伝えたところ、「私の方で何とかする」という力強いお言葉をいただきました。その二日後、一度は断られた学生寮のオーナーから、「一部屋確保した」という連絡をいただきました。何とかこれで住む場所のことは心配しなくていいことになりました。

入国

シンガポール経由で23時間くらいかけてチューリッヒ空港に到着しました。

チューリッヒ空港。朝の7時くらい。

入国審査では「ETHで半年研究するために来た」と言い、入国許可証を見せて、あとは特に何も言われることなく通過できました。

入国後の家探し

学生寮到着

事前に学生寮のオーナーから「金庫に部屋の鍵を入れておいた」という連絡をいただいたため、チューリッヒ空港から学生寮へ向かいました。1時間ほどかけて到着。金庫から鍵を取って寮に入り、無事に自分の部屋に着くことができました。
いわゆるStudentenhausと呼ばれる学生向けの寮(大学の寮ではない)でした。学生向けと言っても、私のようなポスドクでも特に何も言われることなく入れてもらえました。また、高齢に見える方も見かけたことがあるので、実際には年齢制限などは特にないのだと思います。月々の家賃が600スイスフラン(10万円くらい)なので、チューリッヒとしては破格の安さです。
ただ、安いだけのことがあり、いろいろと不満がありました。中でも
・大学まで乗り換え3回以上で1時間以上かかる
・建物が古く虫が多い(スイスではおよそ遭遇しないはずの例の虫を頻繁に見かけました)
・部屋からトイレまで遠い(夜中や朝方にトイレに行くためにいちいち部屋の鍵を開閉して寒い廊下を通らなければなりません)
・キッチンが少ない(実際に使う人は少ないのかもしれませんが、自由に使えないのはストレスです)
・最寄りのスーパーまで徒歩20分
といった理由から、到着初日にして「ここに半年はとても住めないな…」と感じてしまいました。

家探し再び

とは言え、そうそう都合よく家が見つかるかわからないから学生寮を取っていただいたわけです。もし現地について家探しをしてすぐに見つかる見込みがあるのなら、最初の1週間だけ(高くつきますが)ホテルやAirbnbに泊まればいいですが、見つかる保証もないのでそんなギャンブルはできません。実際、研究室の学生からも、物件は早くて2,3週間、普通は1,2か月かかる、というようなことを聞きました。
ちなみに、お金に困っていなければ3か月くらいAirbnbに泊まってゆっくり探せばいいという意見もあるかもしれませんが、先述したようにチューリッヒの到着から2週間以内に賃貸契約の書類を持って役所に行かなければならないため、是が非でも住む場所を見つける必要があります。
私の場合、学生寮は住所として役所に届け出ることが可能なので、ひとまずこの住所で登録することを考えていました。しかし、寮で一晩過ごし、何が何でも早く引っ越そう、何なら住所を登録する前に引っ越したいという気持ちになりました。
そうは言っても、特にいい案も思いつかず、例によってThe housing office of University / ETH Zurichの掲示板を調べました。自分の条件に合う物件を3つ見つけてメールしました。
すると、そのうちの1件から、すぐにメールの返事がきました。「自分はいまスペインにいて、しばらくチューリッヒには戻らないから、一度Whatsappでビデオ通話することはできないか」という内容でした。今までは返事が来ても、「残念ですが…」という内容だったので、今回はひょっとするとチャンスがあるかも、と思いました。
その晩、大家さんと15分ほどお話しして、なぜか私を気に入ってもらえたらしく、「是非うちのアパートを見に行ってほしい。君も気に入ってくれるはずだよ」ということを言われました。「半年しかいないけど、それでもいいですか」と、懸念していたことを正直に聞いたところ、「半年もあれば十分。全く問題ない」と言っていただけました。この時点では、大家さんの人が良すぎて逆に詐欺の可能性もあるかも、という疑いの気持ちも多少ありました。
その2日後、アパートの内見に行きました。中はとても広く、2階建てで1階にリビングとキッチン、2階に浴室と個室が3つというような、4人家族でもゆったり住めるくらいのアパートでした。最近リノベーションしたということで、壁も床も新しくてきれいでした。大学のキャンパスまで30分以内、中心地までは40分くらいという交通の利便性に加え、駅に大きなスーパーがあり帰りに買い物もできるということも私にとっては魅力的でした。家賃は月々950フラン(16万円くらい)で、私にとってはお得な価格です(収入の2割くらい)。
アパートを見せてくれたのは、のちにフラットメイトとなるギリシャ人の学生(ETHの修士課程)でした。初対面なのにとてもフレンドリーで、アパートの中を丁寧に説明してくれたあと、お互いに自己紹介したり、あれこれ話をしているとあっという間に1時間くらい経っていました。完全に意気投合して、最後は「是非来てほしい」と言ってもらえて、「ここに住もう」と心を決めました。その時は、このまま自分が住みたいという意向を大家さんに伝えさえすれば、契約手続き後、自分が住めるものだと思っていました。

契約と引っ越し

内見のあと、大学へ行きました。かねてより気にかけてくれていていろいろとよくしてくださる秘書さんに、アパートの話をしたところ、「契約はすぐにできそうなの?」と聞かれ、大家さんから頂いた契約書類を見せたところ、「念のため、〇〇(ドイツ人学生)にこれが問題ないか聞いた方がいい」と言われました。その学生に聞いてみたところ、「おそらく大丈夫だと思うけど、もし不安に思うことがあったら、一度僕が大家さんに会って話を聞いてみるよ」と言ってくれました。大家さんは名前からするとスイス人かドイツ人で、その契約スタイルも「ドイツ的」なものだということでした(日本のやり方とはそもそも全然違うので、ヨーロッパの中での国による違いなどは私にはよくわかりませんが)。
また、他の学生にも状況を伝えたところ、「一つの物件に何十人も応募していることもあるから、まずは他に応募者がいないかを確認してから話を進めた方がいいよ」と言われました。内見で舞い上がってから一転、ここまで来てやっぱり契約できません、なんてこともありえるのか…と背筋が寒くなりました。ただ、大家さんは「契約書類を送ってくれればすぐにサインしてデータを送る」と言ってくれていたので、さすがに大丈夫だろうと考えていました。
その日、ETHにいる先輩と久々に会う用事があり、夕食に連れて行っていただきました。その際、物件の話をしてみたところ、「大家さんがいいと言っても、アパート全体の管理人がだめと言ったり、不動産管理会社がだめというケースがある。自分も大家さんはいいけどその上で断られたことがある。ドイツ語が話せないという理由で笑」ということをお聞きしました。えっ、ドイツ語話せないけど…
ところが、「契約書類見せて」と言われて見せたところ、少ししてから先輩が「これはいける気がするな」と言い始めました。先輩がなぜそう思ったのかはいまだにわかりませんが、どうやらいけそうなんだな、と一安心しました。
念のため、ギリシャ人の現フラットメイトにも連絡して聞いてみたところ、「自分のときは特に困ったことはなく、契約書にサインしてすぐに住み始めて、そこから何も問題は起こっていない」ということでした。
結局、大家さんともう一度Whatsappでビデオ通話して、そのあたりの事情もいろいろとお聞きしたところ、問題はないということでした。また、他に応募している人も特にいないということでした。
大家さんからは初め、「敷金を払ってから引っ越してもらえるか」と言われていましたが、できるだけ早く引っ越したいと伝えたところ、「それなら先に引っ越してからでもいい。君のことは信用している」と言っていただけました。もしかすると、先人たちが築いてくれた日本人へのイメージの良さに助けられたのかもしれません。
そのまま、その週の週末に引っ越すことができました。スイス到着からの1週間、家探しから引っ越しまでするドタバタ劇でした。ギリシャ人の学生から温かい歓迎を受け、いろいろ助けてもらいながら生活を立ち上げることができました。


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