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わたしが尊敬する人 - 支えてくれた先輩


「人生で出会ってよかった人は、誰ですか?」と聞かれたときに、たくさんの顔が思い浮かぶ人は、きっと幸せな人だ。


わたしは「たくさん」ではないかもしれないけれど、大切な友人や、仕事を通じて出会った人たちの顔が浮かんでくる。

その中でも「この人がいなければ、絶対に今のわたしはいない」と思う程度に、お世話になった人がいる。


24歳で初めて転職をした会社で出会った、7才上の先輩「むっちゃん


むっちゃんとは8年間、一緒に仕事をして、本当にいろいろなことがあったんだけど、いくつか印象的なエピソードを紹介させていただきながら、想い出を振り返りたいと思う。


ちなみに、若い頃のむっちゃんは「小栗旬」に似ている。今もそこそこイケているおじさんだが、若い頃は相当モテていたらしい。ここから先「小栗旬ぽい人」をなんとなくイメージして読んでいただけると🙏



冷たかった男


わたしとむっちゃんが8年間、共に働いた会社は、全国に支店を持つ中堅の専門商社だ。エアコンや換気扇といった空調機器、配管材料など「設備工事に必要な材料」を販売する仕事。

転職する前、飲食店で2年間社会経験を積んだわたしは「頭を使う提案営業ができる」という理由で入社することに決めた。会社の謳い文句は「技術専門商社」。うん、なんとなくマッチしてそうじゃない?笑


先に結論をお伝えすると、この転職は大成功だった。その後、8年間勤めることになったわけだが、本当に素敵な人たちに出会えた。自分たちの技術にプライドを持っている先輩方は、本当にかっこよかった。

しかし、転職当時のわたしはそんなことは知りもせず、初めての転職先にビビり散らかしていた。エージェントはすごく良い会社って言ってたけど、本当?


出社初日。向かいに座る恰幅のいいオジサンは坊主にメガネ。ダブルのスーツでほぼ闇金。隣りのオジサンは「なかちゃ〜ん!よろしくね!」と異常な気さくさ。田舎出身のわたしはわかる。この人、絶対元ヤン。

しかし、怖気付いてはいられない。俺は今日から営業マン!スマイル、スマイル!なんでもやりますっ!!

そうして1ヶ月くらい経った頃には、みんなと仲良くなった。同い年の同期くんとは毎週飲みに行くようにもなった。

>> 同期くんとの思い出


しかし、むっちゃんとはなかなか仲良くなれなかった。むっちゃんは異常に警戒心が強い。2ヶ月くらい経ちようやく仲良くなり、心を開いてくれなかった理由を聞いた。「笑顔が嘘くさかった

嘘だろ。入社まもない24歳。そりゃ笑顔でがんばるだろ。それを「嘘くさい」という理由で距離を置く男。それが、むっちゃん。


優しい男


始まりはそこそこ最悪だったが、3ヶ月経つ頃には距離がかなり近づいていた。

ある日、直属の課長が数日会社を空けることになり、わたしは課長の客先のフォローを任せられた。会社の中でも一番パイプが太いお得意先。クリスマスの日に会社へ連絡がきた。「エアコンが暖まらない」

札幌市南区藻岩。極寒のその現場に、わたしは一度だけ課長に連れられて行ったことがあった。自分が行くしかない。エアコンの「エ」の字もわからないけれど、とりあえず行って状況を把握しないと。時刻は19時を過ぎようとしていた。


しゃあねえなー。行くかー。

横で電話を聞いていたむっちゃんが、当たり前のように言った。当時、彼には娘さんが一人。クリスマスの夜、パパの帰りを待っているはずだった。

そのときのエアコンが結局どうなったのか、正直まったく覚えていない(笑) ただ、むっちゃんが何の躊躇もなく助けてくれたこと(わたしにはそう見えてたんだけど違ったか?笑)それはわたしにとって、とても大切な、忘れない出来事になった。


「おまえ一人で行っても、なんもわかんないでしょ笑」

人を助けるのに、理由なんていらないんだね。


怖いものがない男


それから1年近くが経ち、わたしも営業として一人立ちしていた。ただ売るだけじゃなく、お客さんの悩みを自分の知識で解決できる瞬間がたまらなく楽しかった。

ある日、車の塗装工場から「換気ができない」との相談が。現場は教室くらいの広さのガレージ。換気扇はあるけど、うまく空気を吸っていないようだった。


「空気の流れが悪いですね。サーキュレーターを入れてみましょう」


自信満々で提案した数日後、元請の工事業者さんから着信。

「ぜんぜん吸わねえじゃねえか!それどころか粉塵が舞ってひどいことになったぞ!どうしてくれんだ!今すぐ事務所に来い!!」

ブチギレられ、電話を持つ手が震えた。やばい。マジでやばい。超怖い。どうしよう。しかも30分後に支店の会議がある。でも、それどころじゃない。どうしよう。どうしよう。


「どうした?」

むっちゃんが気づいて声をかけてくれた。


「なるほど。行くしかないな」

むっちゃんはすぐに出発する準備を始めた。


「え、でも対策も考えてないし… 」

わたしは正直、行くのが怖かった。


「来いって言ってるんでしょ?こういうときは早く行ったほうがいいんだよ」

わたしも心を決め、支店長と課長に事情を説明した。支店のエースのむっちゃんを連れて行くことを伝えると、二人とも笑顔で「いってらっしゃい」と見送ってくれた。


「一人で行くより、二人で行くほうがいいっしょ。まぁ、なんとかなるって」

道中の車内。むっちゃんはまったく怯むことなく、むしろ会議を回避できたことを喜んでいるようだった。まったく理解できない。怒られに行くのに、なんでこんなにポジティブなのか。


工事業者さんの事務所に着くと、開口一番「本当にすぐ来たね」と予想外なリアクション。

説明を入れると、工事業者さんは直接のお客様ではない。わたしたちのポジションは「メーカー側」に当たる。工事業者さんからすれば「ほぼメーカーの人」がすぐに来てくれたことが、嬉しかったようだ。

「頼むよ〜。こっちはすがる思いでお願いしてるんだからさ〜。」

電話の時とは打って変わって、優しい口調でご指摘をいただいた。

「もう一回、上司の方と見てもらって、提案してちょうだいね!」

そんな感じで15分もかからずに謝罪兼打ち合わせは終了。帰り道に現場に立ち寄り、むっちゃんと改めて調査。結局、問題は空気の流れではなく、排気フードの粉塵詰まり。清掃してもらったら、問題は解決した。


8年間でこんなことが何度かあった。設備工事は建設業の一部なのだが、トラブルが起きるとけっこうエグい。こちらに完全に非があるときには、本当に消えたくなる。

そんなときでも、むっちゃんはいつもこんな調子だった。


まぁ、どんだけヤバいことでも命は取られねーから

むっちゃんは異常なほど肝が座っている。過去にいろいろあったっぽいが、ここでは触れないでおく(笑) むっちゃんとは真逆の、ビビりなわたしだったけど、後ろにむっちゃんがいたから、けっこう無茶をしてこれたと思う。


「なんとでもなるから、そんな心配すんなって」

それがわたしに対するむっちゃんの口癖だった。


仕事がデキる男


むっちゃんはとにかく仕事がデキた。

細かく書くと長くなるし、人によって「仕事がデキる」の定義はけっこう違うと思うので、あくまでわたしの主観で簡単にお伝えしたい。


むっちゃんはとにかく「好き嫌いがハッキリしている人」だ。わたしと距離を置いていた時期があったように、信用していない人には心を一切開かない。

これは客先や仕入先に対しても同様で「信用できない人には一切協力しない」というやり方を貫いている。

そんなことをすると売上が減ってしまいそうなものだが、むっちゃんが担当する客先はひたすら売上が伸びた。

嫌な奴には買ってもらわなくていい。その分、買って欲しい人の仕事は最速、最高のクオリティでやる

口で言うのは容易いが、実行し続けるのは簡単ではないと、営業経験のある人ならわかってくれるのではないか。


そんなむっちゃんに鍛えられた札幌支店の若手たちは、そこそこ立派な営業マンに育っていった。わたしが入社した年は20名体制でギリギリ赤字。それが8年後には30名体制で大幅黒字。売上は8年間で10億増えた

この成功体験は、わたしに大きな自信と勇気を与えてくれる。事実、33歳で再転職する際も相当大きな武器になった。一緒に仕事をさせてもらった前職の皆さんには、心から感謝している。


これを読んでくださった皆さんも、嫌な奴には徹底して売らずに、その分を信用している人に買ってもらえるように、ぜひ頑張っていただきたい(何様?)


>> 前職のオジサンたちについて最初に書いた記事


愛深き男


そんな感じで、むっちゃんには本当にお世話になったし、逆にお世話もした。前職の後半は、わたしも多少は使える人間になったからね。


ここまで書いたのは、8年間のほんの一部。他のエピソードをタイトルで並べると

・エアー搬送ファン殺人未遂事件
・滝川架台納品漏れ事件
・帯広電気ボックス事件
・大通マンションうるさらホース事件
・おまえメンツに入ってねーから事件

など、挙げ始めたらキリがない。

いつか、また紹介できたら。


そして先日、むっちゃんから電話があった。

わたしのインスタを見た前職の事務員さんが「hiko、会社やめたらしい」とむっちゃんに伝えたみたいだった。


「元気ならいいけどさ」

状況を確認してすぐ、電話を切ろうとするむっちゃん。きっと野暮な奴だと思われたくなかったんだね。むっちゃんはこういうことで滅多に電話をかけない。心配が上回ったのかな?笑


そんな優しいんだか、不器用なんだかわからない男。むっちゃん。


全然書き足りないから、また書きます。

むっちゃんの良いところも、変なところも、こんなもんじゃないのです(笑)


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