見出し画像

見つめる鍋は煮えない - 「思考の整理学」を読んで

久々に本を読んで、多くの示唆を得た気持ちになったので書き残しておこうと思う。

少しだけ本旨に関係のないことを書くと、我が家に大量の「つんどく本」があり、見かねた妻から「いい加減整理しなさい」と指摘をくらった。そのため慌てて種々の書籍を読み漁っている、そんな次第だ。


さて「思考の整理学」だが、著者は外山滋比古氏。1923年生まれ、旧東京文理科大学英文科卒。専攻の英文学に始まり、レトリック、思考法、エディターシップ論、日本語論などの分野で功績を残している。

本書で語られていることは、まさに思考の整理「学」である。つまり「思考はこう整理すべき」のようなハウツー本ではなく、「思考の整理とはどういうことか」が論立てて丁寧に書かれている。

そのwhatが立体的に理解できれば、おのずとhowも見えてくるのでこれを読まない手はない。


読後、わたしはこの本の与える影響は単なる思考プロセスの改善に留まらず、より独創的で豊かな人生の選択を行うための指標になると感じた。

(ちょうど最近似たような経験をした。「良い言葉を知ることが良い人生を作る」とのSNS投稿を見て映画館に走ったのだが少し紹介したい)


ただ一つ、この本の特徴を挙げると、読書が苦手な人にとっては読みにくいものだろう。

わたしもけして自負できるような読書力ではないが、我が身の鍛錬も兼ねて以下5つの要点にまとめたい。

①グライダー人間 / 飛行機人間
②思考を寝させることの重要性
③エディターシップ
④忘却
⑤話す


全体の展開

【①グライダー人間 / 飛行機人間】の章では、受動的学習と能動的学習の違いに触れた上で、創造力の重要性について説かれている。

①を受け②〜⑤にて「思考の整理学」が解説される。特に強いメッセージを感じるのは【②寝させること】だ。思考を寝かせ、整理した上で新しい創造が行われる。その整理過程が②を軸に③〜⑤で解説されている形である。


①グライダー人間 / 飛行機人間

学校教育において「自習時間」こそあれど、独力で知識を得る場面は少ない。これを著者は「グライダー」と形容している。

グライダーと飛行機は姿形こそ似ているが、グライダーは自力で飛ぶことはできない。優秀なグライダーは沢山いるが、結局のところ最も優秀なグライダーはコンピューターである。自力で飛べない非飛行機人間は、コンピューターに仕事を奪われるのだ。

学校教育はグライダー育成の場だ。グライダーとして優秀な人間こそ「好きなことを書いてみよ」と論文を求められると慌てる。何を書けばいいかがわからないのだ。


②思考を寝させることの重要性

「見つめる鍋は煮えない」という諺がある。「早く煮えないか」とたえず蓋を取っていては却って不味いものが出来上がることを指す。一点の思考に張り付き、あれこれ思考を巡らせても良い結果は得られない。

前夜に書いた手紙を翌朝になると破り捨てるように、思考は寝かせることで洗練される。作家にとって良い素材になりやすいのは幼少の出来事だそうだが、それは思考が風化され余計なものが排除されているからだそうだ。

何事も急いではいけない。無意識の時間を使って考えが生み出されていることに、我々はもっと関心を抱くべきなのである。


③エディターシップ

A、B、C、D、という独立した説がある。これをABCDと並べる場合と、DCBAと並べる場合では、受け手の印象は大きく異なる。

A、B、C、Dを生み出すことを第一次的創造(=着想)、ABCDまたはDCBAと並べることを第二次的創造(=編集)と呼ぶ。

上手に編集すれば、部分の総和よりもはるかに面白い全体の効果が生まれる。源氏物語もデカメロンもいくつかの短編を繋いだ編集物だ。

「詩とは、もっともよき語をもっともよき順序に置いたものである」

と述べた詩人がいるらしい。詩も言葉のエディターシップ(新しい価値を生み出す創造)なのである。


④忘却

学校教育の影響で、頭がいいと言われるほど多くの知識を持っている。

これは人間の頭脳を「倉庫」のように見立て、知識をどんどん蓄積させてきたからだが、創造に必要なのは「工場」的な頭脳だ。

倉庫は大きければ大きいほどよく、失うことは悪とされる。一方、工場は不要なものを抱えてしまっては作業能率が悪くなるため整理することが重要だ。倉庫も整理は必要だがそれはあるものを順序よく並べることに過ぎない。

この工場の整理にあたることが「忘却」である。


そのことが今の人間にはよくわかっていない。頭の中を忙しくさせてはいけない。そのためには睡眠であり、リフレッシュであり、無意識的活動が十分に必要である。

あわせて価値観を見つめ直したい。価値観がしっかりしていないと面白いことを忘れ、つまらないことをいつまでも忘れないことになる。


⑤話す

アイディアをぶっつけ本番で話すのは危険である。特に同業・同専攻の相手に披露する場合、せっかくのアイディアを他人に叩きのめされる危険性を孕んでいる。

ちょっとした思いつきは気分を高揚させるが大抵の場合、良い反応は得られない。新芽はあっさりと潰され、二度と頭をもたげることはないだろう。めったなことで思いつきを人に話すものではない。

では、しまっておけばいいかと言えばそうではない。気心の知れた、かつ全くフィールドの異なる相手にやんわりと出してみる。彼らが触媒となってくれる。まったく関係がないと思われるところにセレンディピティは生まれるのである。



・・・以上が、本書の大まかな内容だ。この本を読んで、わたしは率直に焦って物事を思案するのを徹底的にやめよう(やめたい)と思った。

興味のあることに取り組みつつも「見つめ過ぎない」ように、同じ物事に取り掛かるににせよ、様々な角度からアプローチしていきたい。

(例えば英語の勉強をするにしても「単語」「リスニング」「文法」・・・と1時間単位で変えるとか。本書の中でも「学校の時間割はよく出来ている」といった記述があった)


他にも本noteでは省いたが「触媒」という考え方も面白かった。簡単に書くと「主観を入れ過ぎずに作用させよ」的なことなのだが、この考え方は柔軟な創造を行うのに役立つインプットだったと感じている。


ということで、興味持った方はぜひ読んでみていただきたい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?