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詩| 衣替え

厚着明けは首周りが心許なくて、忘れ物の予感と似ていたから、振り返れば春だった。
建設現場のフェンスから漏れ出すノスタルジア。愛しい轍は霞んでいく。
スカーレットの鈍行列車。秘色の膝の裏。おやすみのベルガマスク。
質量を失くしても背負い続けて、土踏まずを凹ませた。
あれから何も出来ないままで、湿っぽくなった風が吹く。

トーキョータワーのアンテナが、脳漿に放つ微弱な電流。目まぐるしいこの街で、立っていく為の麻酔銃。
時限避行へと拐かされて、欠伸はこぶしで覆い隠した。現在地記した花びら、吹かれないように。
思い出横丁の赤ら顔。互い違いの緑青ブランコ。ウィスタリアのワンピース。
一世紀跳んで鳴り出す音色は、はじまりのアラベスク。
ぼくらは時折立ち止まって、何度でも歩き出すんだ。