蛙太郎
厚着明けは首周りが心許なくて、忘れ物の予感と似ていたから、振り返れば春だった。 建設現場のフェンスから漏れ出すノスタルジア。愛しい轍は霞んでいく。 スカーレットの鈍行列車。秘色の膝の裏。おやすみのベルガマスク。 質量を失くしても背負い続けて、土踏まずを凹ませた。 あれから何も出来ないままで、湿っぽくなった風が吹く。 トーキョータワーのアンテナが、脳漿に放つ微弱な電流。目まぐるしいこの街で、立っていく為の麻酔銃。 時限避行へと拐かされて、欠伸はこぶしで覆い隠した。現在地記した
夜を穿った角部屋の 満ち足りないベランダで ループ再生の夜を見てた 月と嘯く黄信号の点滅 砂枯れた室外機の羅列 寿命を終えた星の幽霊 人も車輪も猫も踏まない交差点の中央で 思い出はいつも酔い痴れている サンダルからはみ出した小指に コニャックを垂らすと 言いそびれたサヨナラが 恍惚としてむしゃぶりついてくる 祭りの後の匂いがした 道端に落ちたソース焼きそばと 恋人たちの頬に残った微かな唾液と それらをなし崩しに乾かしていった風で 鼻頭が湿気を帯びて痒い 環状七号線をゆく テー
ウミネコが二羽隣り合って、乾いた空を見上げて鳴いた。 じれったい別れ話の行方を、彼らは知る由もなかった。 あっけらかんの空が吸い上げた寂寞は、人工衛星が回収するさ。 忘れなくたって幾星霜。そうだね、空は明るかった。 終の住処はどこだろう。前奏曲を湛えた水平線を望む坂。 二人が見向きもしなかった、跨線橋の端に伸びた階段。 下ると決まって陽だまりがあって、自販機にはラムネだけ並ぶ。 ほんの数十秒夢見ただけ。あ、ああ。世界が止まる。 この世で一番悲しい人は、匂いの変わった風を胸
2024/2/23から、僕が出演する舞台があります。この投稿を見て興味を持ってくれた方がいましたら是非観に来て頂きたく。 演劇二本立ての公演で、僕は「てんとう」という演目の主人公を演じます。 noteに詩を投稿していることもありまして、「てんとう」のあらすじというか、作品紹介文を頼まれて書きました。 以下、公演の詳細です。 劇団FAX 二本立て公演「ボツワナ・てんとう」 ■日時 2024年2月 23日(金) 18時〜 24日(土) 13時〜/18時〜 25日(日) 13
ヘッドライトが影を伸ばして モーテルを串刺しにした 昨日のくちづけがはにかむ 外付けメモリから流れてくる 他人事のような持ち物だ 忘れられて、荷物になって、ガサゴソ鳴って おやすみ。 螺旋状に上昇すると 故郷も酸素も遠のいた 夜行は全角スペース一個分 体を丸めて宇宙への旅 周回するライカの郷愁 回る往年のキラーチューン 放り出されて、荷物になって、ガサゴソ鳴って おやすみ。 好きで嫌いなひとたちがいる だから嫌われたくないと思う 言葉を交わして呪いをかける 口を噤んで透明
くよくよくよと鳴る言葉を、毎日いくつも飲み込んで、アセトアルデヒドは乱痴気。今日を終わるのが苦手みたい。 直線道路を一人ゆく、あの人はまだ日傘を差している。 叫んでしまえば簡単に世界は壊れる。そんな緊張感でコンクリートは地球に根を張る。冷ややかな輪郭に、触れようとは誰も思わない。 遮る物は無くなって、日傘は吸い切れない光を浴びる。 蟠りに覆われた都市、メランコリック・ワンダーランド。抜け穴は割れたテレビ画面。その先で落ち合えたなら。 日傘はもう戻らない。よくよくよく
産毛だけ濡らすような雨 正午過ぎから降り続き 季節を塗り替える薄い風が 夜を讃えて吹き渡った 送電塔を見に行く 骨組みのシンメトリー 過ぎた夏も短すぎる秋も 二十歩先の生垣からドロン と落ちた白い毛むくじゃら 夜道の猫とだけ分かち合える 人の哀しさいじらしさ 送電塔を見に行く よい子はたちいりきんしの 半端な大人と猫のランデヴー キンモクセイに関する記述に むず痒くなる鼻をつまんだ 一月前の十年前の 前腕に煙る嫋やかな香り 送電塔を見に行く 不可侵な金網の向こう 手を振る
愛着から膨らんで、風船はほら、市松模様の雲を透過した。 エプロンのポッケから、はみ出る程のありがとうを、結わえて一緒に放ったでしょう。 今、何を見ていますか? 欄干に手を置く度。 敵はどいつと、あいつが憎いと、ギンガムチェックの重なり探し。 取り合ってから綻ぶ手、昨日の夢の落とし前に、カラーコーンを並べました。 今なに見てる? 赤信号で止まる度。 空を仰げば背筋が伸びる、靴下が覗く、おかえりのウィンドウペン。 何にも上手くいかないなあって、呟いたら、ピントが合うカラクリで
僕たちは何も持たなかった 漲ったものも乾いてしまうし 結んで開いた拳の中には琥珀色の生命線 占いを信じないのは最大限の抵抗で 最小限の夕焼けがずっと縁取っているせいで 通学カバンの内ポケットに入れっぱなしにしてきた青春 ダウンジャケットのフードの裏でまだ春を探す徒な温度 僕たちはいつも待っていた 夢で見た約束の既視感 一世紀前の海原を知っている気がする 君を愛している、それが嘘になるまで 君を愛していた、それはいつまでも本当で 惹かれ合った二人はきっと前世でも同じ言葉を交わ
もしもし 幸せを捨てちゃって、悲しみを拾ってきたような人。 あなたが捨てた幸せを拾った、幸運な人もいるようです。 感謝も同情もされないあなたが、ラブソングを口遊む時、 太陽系第九惑星の、核で蠢くものがあります。 もしもし 四畳半の窪みに嵌って、5ミリの雨を聞いていた人。 部屋の隅にはホコリと一緒に、アジアの戦塵が煌めきます。 ゴミ捨ても支払いもこなすあなたが、白い目で見られるのであれば、 私は紫陽花を齧って、雷管に火をつけます。 もしもし 雲の切れ端に乗って、ただ一色を目
漢検準一級受けてきました。自己採点は合格圏内!やぴ✌️
浮雲ひとつ さびしい片足が 空中に蹲る 破れた靴下みたく 今にも千切れそう 死ぬ間際だけお前を もう忘れるから お前は死ぬ間際だけぼくを思い出してくれ 浮雲ひとつ漂っている やがて一碧 二匹
色々が膨らんでメンタルが危うくおわりを告げかけた。こりゃアカンということで、タイムカードをンニャー!と押した勢いのまま夜行バスに飛び乗った。 行き先は幼少期を過ごした町、愛知県は北設楽郡東栄町だ。 字面や駅の体裁から伺えるように、なかなかの田舎町である。ちなみに駅は鬼の顔を模している。赤鬼が舞う花まつりの里。0歳からの約6年間をオレはここで過ごした。当時同級生はオレを含めて3人だけだった。 まずはかつて住んでいた町営住宅を目指した。 バスの運転手と、乗り合わせた中学生達が
待ち合わせたランドマークに ぬるい水たまりがあったら それは私のつま先から 溢れた歓喜のオアシスです。 帰り着いた最寄駅のホームを 一陣の風が通り過ぎたら それは私のご機嫌な 口笛が引き連れた鳥です。 鳴らないはずの目覚まし時計が 夢現の鼓膜を揺らしたなら それは私が目を遣った花が 散る間際のお便りです。 残された私には 罪と涙があるだけです。 それらを拾い集めたあなたに 私は逢いたかったのです。 海風が止まない高台で きっと待っています。 そこには決して落ちない林檎の
待ちくたびれたような青 明日こそ私も空を飛べたら ありふれた悩みに薬はないから ありふれた夜に物語はないから 夜が明るければ もっと強く 翼があったならば もっと清く 生き抜ける類の猛禽類 加害者であること 咎められず 被害者であること 同情されず 生に責任はなく 死に責任もなく 空を飛ぶ海を渡るビルに遊ぶ山に眠る 昨日も明日もなかったら 飛べたんだろう
全部なくなってしまえばいいのに 明かりを消して3時間ほど 目を閉じると開く嫌悪 毛布の匂い 夜毎 何時 なくなって 白い空っぽ世界の中心 最後のひとつになった僕は 全部が慕わしくなって泣くのかな