おばさんは良く笑う

おばさんのライバル

おば友は容姿の話が好きだ。本人達は、ひいき目で見ても人の顔をとやかく言える顔だちでは無い。
そう言えば、どうしてそんな話をしていたのかは知らないが、「女性は自分のことをブスだと思っている人はいない。だから女性からブスかどうかのジャッジを求められたら、必ず否定しろ」と同期の男子が後輩男子に歓迎会の酒の席でレクチャーしているのを聞いた事がある。若くして女心がわかっていた彼は、スッチーと結婚して出世した。
嘘は良くないと清廉潔白に育てられた男性諸君。正義感を出してこの手の質問に客観的な答えなど言ってはいけない。
女性が「私ってブスかしら?」「私が、悪いのかしら?」と主語が「私」で、自己否定の内容を聞いてきたら、それは、質問ではなく、なぞなぞなのだ。答えは否定の言葉と決まってる。そして、否定度が強くなればなるほどより正解となる。
なぞなぞを解いた男性は、女性に賢い男と評価され、その賢い男性のおかげで女性は客観的にはアウトでも自己肯定を強めていく。だから、おば友の容姿の話は上目線だ。美人と社会的に高く評価される女優さんにさえ、おばさんは容姿のうんちくをたれる。
「この前、松田聖子をテレビで見たけど60過ぎてるのに体型も変わってないし、全然若い。芸能人ってすっごーい。」とA 子。
「お金かけてるからね。なんか、雑誌に書いてあったんだけど、とんでもない値段のするピーリングを外国までしに行ってるんですって。それをすると本当に一皮剥けたような卵肌になるらしいわ。まあでもそのぐらいお金をかければ、私たちだって芸能人並にはキレイになれるわよ」とC子。いくらお金をかけたとしても、そうはならないだろうと、おば友達はちらっとC子の顔を見てスルーする。
「同年代で年寄りもずーと若く見えて綺麗な女優さんて羨ましいとは思うけど、憧れる存在じゃないわね。憧れる女優さんと言うと、草笛光子さんかな。草笛光子さんて歳相応に綺麗で生き生きしている。歳を受け入れているけど、納得できる自分であり続けている感じ、カッコいい。」とB子。
「そうそう、私も憧れる女優さんなら草笛光子さんかな。補聴器のコマーシャルしてても、年寄り臭いセリフを言ってても凛としてて素敵だもの。服のセンスもバツグン。髪の毛も染めないで年相応にしてるけど、プラチナヘアーがかえってモダンでイイと思う」
草笛光子さんに憧れるおばさんは多い。そして、おばさんはリスペクトする人は呼び捨てせずにフルネームでさん付けする。
「若手では長澤まさみが素敵よね。一般的に美人な女優さんて私を見た人は綺麗って思うはず、ほらこんな仕草をしたら私ってもっときれいでしょって、綺麗さが押し付けがましいけど、長澤まさみって笑った顔も、怒った顔も素直に綺麗だな、素敵だなって受けとめれるのよね。美しさがナチュラルっていう感じ。私、若い時に長澤まさみを知っていたら路線を変えてたわ。」
どう路線を変えれば長澤まさみになるんだ。流石、ボケさがナチュラルなC子だ。
「ねえ、ライバルったら誰?」
「んー藤原紀香かな、年が近いし、若い頃似ているって言われた事があるから」とO子。
O子のことは30代から知っているが、全くの別物だった。
「いつの話?」
「若い頃」
「誰から?」
「え、皆んなからよ。」
話が本当なら奇跡的な20代があったのかもしれない。
「私はIKKOかな。」とC子。
「え、IKKOってオカマのIKKO。どうだろう、女子としてプライドがなさすぎるんじゃない」
笑、笑、笑
「IKKOって、美容師で技術持ってるからメークはバッチリ。メチャクチャお金かけてるから肌も綺麗だし、絶対舌とか言って食べた料理は同じ味で自分で料理できるくらい料理上手なのよ」
C子の説明では侮れない存在ではあるようだ。
「でも、しっかりわかるニューハーフよ。ライバルって言うのはどうよ。」
笑、笑、笑。
「じゃ、もしもIKKOよりも女に見えないって言われたらどうよ」とC子。
「それはマズイは。女性としては危機的よね」と生真面目なB子が神妙な面持ちでいう。
「そうね、確かにIKKOだけには絶対負けるわけにはいかないわ」
おばさん一同笑、笑、笑。
かくして満場一致でIKKOはおばさんのライバルとして認知された。


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