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将棋が強いとは?

段級位ごとの目安は?

 例えば、英検など資格試験の世界では1級ではこれだけの能力が求められる、という級ごとの目安が示されています。
 しかし、将棋の強さというのはただ何級、何段というだけで具体的に何ができるのかといった、段級位ごとの目安、すなわち将棋の強さの定義のようなものがはっきり示されていないのが現状です。
 今日は、そういった曖昧な将棋の強さについて少しでも言葉に表していけたらと思います。

強くなるほど「はっきり」から「微妙」へ

 以前私が読んだ自己啓発本「やり抜く力 GRIT(グリット)」(ダイヤモンド社)には、こういう記述があります。『エキスパートは、素人では分からない微妙な差異に真新しさを見出す』。これは、将棋の事を言ったものではありません。あらゆる道の達人、すなわちエキスパートについて言ったことです。つまり、物事が上達すればするほど、分かりやすい違いではなく、微妙な違いに気づくことができるようになるというわけです。
 私は、これを読んだとき即座に将棋の強さについて連想しました。将棋は強くなればなるほど、微妙な形の違いや少しの形勢差に敏感になります。すなわち、普通の人であれば50手で優勢だと気づくところプロは30手で局面の優劣を意識すると言ったところです。よく、プロでは端歩一つでその後の展開が全く変わるなどという話を聞きますが、それもこの微妙な差を感じることができることに起因しています。

具体的にいうと

 アマチュアの3段、4段くらいまでは、とにかくお互いがやりたいことをやり合って、分かりやすい狙いを掛け合うみたいな将棋になりがちです。本当に初心者のうちは王手飛車などを食らうこともあるでしょうし、アマ有段クラスでも端攻めをくらって崩壊することもままあります。
 それに対して、さらに将棋が強くなると、分かりやすい狙いはすべてお互いに封じ合うのではっきりとした技がかかることは稀になります。端攻めだけで崩壊することも起こりづらくなりますし、攻め一方では勝てないことも多くなります。従って、戦いの最中に自陣を整備すると言ったゆるめる手を指すのも高段者の特徴です。

さらに強くなると「具体的」から「抽象的」へ

 はっきりから微妙へがさらに進むと、具体的から抽象的へとなります。
 すなわち、将棋がAIレベルに強くなれば、お互いの指し手の狙いが分かりづらく、局面自体も非常に分かりにくいものになっていきます。
 例えば、最近のコンピュータ同士の将棋なんかはプロの目から見ても、どっちが優勢だとかお互いの手の意味などがさっぱり分からないような将棋になっています。
 また、人間同士の将棋でも、そういったことは起こり得ます。前に銀河戦で藤井8冠と羽生9段が対局した時は、角換わりの将棋になりましたが、途中から解説者が手の意味を解説できないという事態に陥りました。AI研究が進んだこともあって同じプロであっても手の意味を理解することが容易ではない時代になったようです。
 すなわち、将棋が強くなればなるほど、将棋自体が抽象的になるので、その将棋を言語化するのが難しくなっていきます。

なぜそういったことが起こるのか?

 なぜ、将棋がそういう分かりにくい抽象的なものになっていくのでしょうか?一つには、お互いに分かりやすい狙いは全て封じ合うので、その手自体に数手後の明確な狙いがあるわけではないということがあります。
 恐らく数手後に駒の働きが良くなるとか、数手後に相手のこういう狙いを消しているとか、数手後により形のよい布陣を作れるといった数手後の狙いでさえも抽象的なものなので、手の意味が非常に分かりにくいというのが現在のAIレベルの将棋だと思います。

AIと人間との対局を見ていて思う事

 将棋倶楽部24に常駐している将棋AIと人間との対局を見ていると、人間側が負けるパターンには大きく2つあることに気づきます。
 一つは、人間側が無理な仕掛けをしてそのまま自滅するパターン。
 もう一つは、AI側が人間側の隙をついて攻め掛かりそのまま押しつぶすパターンです。
 これは、もちろんたまたまそうなるのではなく、AI側が水面下で相手の手を殺していくことにより、人間側が均衡を保つ手を指すことが難しくなるように局面を誘導しているからです。

 ある程度強い人間は相手に仕掛けの隙を与えないように進めて行きますが、読みの深さが全く違うAI相手では意味をなしません。例え数手後の明確な狙いは防げたとしても、数手後に今より少しでも動きやすい局面に持っていくというような抽象的な計算で動いているAIには歯が立たないのです。

 そして、駒がぶつかってからの折衝では、人間では読みに苦労するようなどんな複雑な局面でも、計算により結果として有利となるか不利となるかを瞬時にはじき出してしまうので、AIが仕掛けた時点でその仕掛けは成立しているということが確定しています。
 従って、人間は局面の均衡を保ったまま進めるということが難しくなっていきます。
 また、人間はAI相手ではそもそも千日手にすることさえ難しくなります。
 千日手というのは、読みの質はともかく読みの深さがそう離れていない相手だから成立する順で、はるかに読みの量が違う相手にはその狙いすら看破されてしまうからです。

我々アマチュアはどうすべきか?

そういう雲の上の話をしても仕方ありませんが、取り合えず我々アマチュアが精進するためには初めの段階の「分かりやすい狙いを食わない。」ということから一歩ずつ進んでいくことが大事です。
 負けた将棋はその都度、今回のような形はこう対処するというのを覚えて行けば少しずつ苦手な形が少なくなり、分かりやすい狙いを掛け合うだけの将棋から、お互いに手を封じ合う達人同士の将棋に近づいていけるものと思います。

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