おっさんが「僕の心のヤバイやつ」を 読んで共感する話

 何気に見たアマプラのアニメで「僕の心のヤバイやつ」という中学生の
ラブコメにハマった
自分の若いころとオーバーラップして、原作全巻買って不覚にもボロボロ泣いてしまった

 近所に幼馴染の女の子がいた 小さい時から闊達で明るく誰からも好かれるような子だった 僕はというと、ひねて暗くて運動も苦手な今でいう“陰キャ”だ とはいえ、小さい頃は家が近かったので登下校も一緒だったり、数家族でキャンプに行ったりもしてた 中学に入るころには、キャラが全く違ったし、お互いの友達グループも別だったのでほとんど話もしなくなった
 運動神経もよく、美人な彼女は学校でももてていたし、周りには常に彼氏っぽい男子の存在があった 選べるほど高校がない田舎だったので、彼女と僕は同じ高校へ進学した 高校2年の時、彼女は3年の男子と付き合い始めた 学校でも評判の美男美女が噂になっていた
そんな噂に「あぁやっぱりな」なんて納得していた 
 高校3年の夏休み、テニス部を引退した彼女は、後輩の面倒をみるため他校での練習試合にアドバイザーとして顔を出していた
後輩の試合中、ボールを拾いに道路へ出たところに走ってきた車にぶつかった 運悪く腰の付近を打ち付け、脊椎を損傷してしまった、断裂ではなかったが、きちんと歩けるようになるのは五分五分との話だった
 事故で入院していたのは知っていたが、彼女が車椅子での生活になったのを知ったのは、近所で車椅子の練習をしているのを見たときだった
 びっくりして「治ってないの?」と尋ねると、事の顛末を話してくれた
このまま学校へ行かなければ、出席日数が足りず卒業できないとのことで、リハビリの合間で学校へ行きたいと言った

 なんで自分が介助しようなんて思ったのかわからないが、彼女の親の車で一緒に学校へ行き、リハビリのある日は昼に玄関まで降ろし、リハビリのない日は毎日のように一緒に帰ることを卒業まで続けた
彼女の教室は3階で、エレベーターなどあるはずもなく、後ろから誰かに支えてもらいながら負ぶって昇り降りしていた 最初は申し訳ないとか、ごめんねとか言っていたが、そのうち「遅い」だの「軟弱」だの憎まれ口を叩くようになり、逆にそれが嬉しかった 不思議だったのは、彼女の友達連中は彼女の介助に消極的だったが、なぜか僕の友人たちは積極的に手を貸してくれた。僕と同じ“陰キャ”の部類なのに「僕たち」を手伝うことを卒業まで続けてくれた。今でも感謝している
 リハビリセンターでのリハビリは週3回だったが、それでは足りないとのことで、家や近所のスポーツセンターなどで立つ訓練やマッサージを続ける必要があった 女性が介助するには大変で、力が必要な場面では彼女の父親か僕が介助をすることにしていた 
続けていくうちに、最初は感覚がなかった部位も触られて分かるようになり、全く動かなかった左足も膝を少し曲げられるようにもなった このまま続けていればきっと歩けるようになると思い始めていた 
 事故当時付き合っていた大学生の彼氏は、最初こそ車椅子の彼女を一生守るみたいな勢いだったが、日に日に連絡も来なくなり、最後は消えるように去っていった。お別れの言葉がメールで「お互い夢を追い続けよう」なのを見て彼女と二人で大笑いした
 その当時は恋愛感情というよりも、小さなころから一緒で「守るべき存在」と思い込んでいた キラキラ輝く彼女が僕なんかと交際するなんて考えたこともなかったし、彼女が僕に「男として」好意を持つなんてことはあるはずがないとも思っていた
 介助で彼女を車椅子に移すときにキスされたことがあった 突然のことでびっくりしたのと、僕のことを憐れんでの行為だと咄嗟に感じて、
「つらくなるので、こんなことしないで」と言ってしまった 彼女の驚いた顔と悲しげな表情とはたぶん一生忘れない
マンガの一節にある
「どうせ手に入らないから 嫌いになる理由が欲しかった どんどん好きになるのが怖くて」
が、正にその時の隠れた心境だったんだと今はっきりと気づいた
少しの間ぎくしゃくしてたけど、ほどなくして元の関係に戻った




 家から通えるところに公立の大学があったが、僕の学力では足りず、元々は遠方の私大に進むつもりだった。だけど私大に行けば彼女の介助ができなくなるので、大学は近の効率に行くと決めた それからは、勉強も本格的?な塾に変えたり、不得意な部分はスポットで家庭教師に見てもらったりと結構努力はしたが、4か月で劇的に伸びるわけもなく公立は落ちた 親の意見もあり私立も受けていて合格はしていたが、彼女が歩けるまでの介助をどうしても続けたいと、父親に懇願した
「彼女の一生を受け入れる覚悟があるなら、いいんじゃないか」みたいに言われたのに対し、はっきりとは分からない、とりあえず彼女が歩く姿を見たいと正直に話すと1年間だけ予備校に通うことを許された
 夏に差し掛かるころ、彼女が自力で立てるようになった。歩くにはおぼつかなかったが、このまま努力すれば大丈夫だと先生も言っていた 実際、少しづつだったが進歩していった
その頃から「もし、本当に歩けるようになったら、僕はもう必要ないんだろうな」なんて思いが頭の中を巡るようになった
彼女に対して特にネガティブな発想になるのは自分でも分かっていた
それはおそらく小学高学年の時、彼女に告白をして手痛く振られたのが原因だと・・「小さい時から一緒にいて、そんな風に見ることはできないからごめんね」 それ以来普通に話すことも減っていったし、すごくトラウマな出来事だった
 浪人の間の僕は自分の時間を勉強と彼女のリハビリだけに使うようになっていた 彼女の介助が勉強の息抜となり、少しづつ回復する姿が 嬉しくもあり、寂しくもあった
初冬には補助具を使ってだが、自分で立って数歩歩けるようになった。
冬になるころ、彼女の父親が仕事の部署替えで今までより時間の都合がつくようになり、彼女の介助も比較的楽になっていることから、彼女の両親から「勉強に専念してほしい」と言われるようになった やはりネガティブな僕は、「もう必要なくなったから会いに来ないで欲しい」と勝手に解釈し以降パタリと彼女の介助を止めた。
彼女から全然来なくなった訳をメールで聞かれたが、「受験に集中したい」とだけ返し、それから返信もしなかった。
その間、本当に勉強しかしなかった。ほかのことは一切考えない「ふり」をしていた 
彼女が、「部屋の端から端に歩けた」と母親から聞いたのは共通一次の少し後の事で、本当にうれしくて、本当にうれしくて、彼女におめでとうのメールを送った 
帰ってきたのは「ありがとう、もっと頑張って今度はきちんと僕君の横を歩くから、僕君も受験頑張って!」だった。そんなメールでさえ、「もう僕がリハビリ行くことないのになぁ」なんて思ってた
 合格発表の日、僕の合格を伝えるため、ゆっくりではあるが平地ならなんとか歩けるようになった彼女へ久しぶりに電話した 会話の最後に、「お互いよかった、これからはそれぞれの道を歩んでいこう いい友達でいよう」みたいな事を言ってしまった
彼女は無言で電話を切ったが、それでいいと自分に言い聞かせた
30分ほどして、家のインターホンが鳴った 応対したであろう母親が僕を呼んだ「僕君、〇ちゃん来てる、早く降りてきて!!」
迎えた僕に対して彼女が
「今までの私をあげることはできないけど、これからの私を全部あげる」と玄関先で叫ばれた
正に「ん?」だった
とりあえず家に上がりなさいと母が促したので、まだ段差の苦手な彼女を抱っこして家の中へ入れた。後ろで彼女の母親がオロオロしていたのに気づいた 家のダイニングチェアに腰かけた彼女は無言でうつむいていた
彼女の母親も「突然そんなこと言われてもねぇ」なんて場を取り繕っていた。何を言っていいのか分からず僕も焦っていた
 2歳年下の僕の妹はなんでもハキハキ言う男勝りの子だ 同じ高校だったし学校では彼女の介助も手伝って貰ったこともあって、ほとんどの事情は知っている もちろん僕が陰キャなのも嫌というほどわかっている
「頑張って歩いて来て、頑張って告白してるのに、今更ちゃんとした返事できないチンコなら取ってしまえ」ってドスのきいた声で脅してくる妹
皆のいる前で突然のこと、僕としては
「どうせ手に入らないから 嫌いになる理由が欲しかった どんどん好きになるのが怖くて」状態なのだ なので、その時は「大学受かったから、これからはリハビリも手伝えるから」と言うのが精一杯だった
彼女から帰ってきたのは
「僕君に彼女ができるまで私のリハビリ続けてください」の言葉だ
普段は僕の行動に口を出さない母親が、よっぽどイライラしたのか
「僕君は大学行ったら彼女でも作る気あるの?」と聞いてきた
「そんな気はない」と否定すると
「もう、実質彼と彼女なんだから二人とも変な探り合いしないの!」
って怒ってた。
確かに、彼女が事故にあってから学校での介助、リハビリ、誕生日だのクリスマスだの事あるごとに一緒にいた。思い返せば、もう夫婦状態だ、お互い言葉にしていなかっただけだ
「全部もらうのは4年後でいい?」って頑張って追加で答えると、すかさず「4年間ほっておくのかい」って妹に突っ込まれた。
結局、彼女の「4年かけてちょとずつ貰ってもらう」って言葉でその場は収まったが、居場所が無くてキッチンで一人缶ビールを飲んでいた親父がやけにシュールだったのははっきり覚えている 僕のヘタレは親父似だ
 帰りは、さすがに疲れたというので、彼女を負ぶって家まで送った。途中、彼女の母親が「普通の人が歩けば数十秒の距離なのに、この子は10分以上かけて僕君に会いに来た。(まだ)満足に歩けない娘の親が言うことではないけれども、この子の幸せが見たい」と言われた。
 1年の夏にやっと車の免許をとって中古のリフター付き福祉車両を買った、公立で実家通いということで親がほとんど出してくれた ただ、維持費は自分で何とかする約束だったので、大学のサークルとかには入らず、バイトを頑張った
色んな所に行って色んな経験をした
僕が2年になるころには、駅の階段くらいは昇り降りできるようになっていた 一人でも外出ができるようになった彼女は、専門学校に行きたいと言い出した 前向きに就職する意識が出てきた彼女に「自立」=「僕が不必要」なんてことを感じて複雑な心境だったが、彼女の親も賛成してくれていたので、表面上は僕も「一緒に頑張ろう」なんて言っていた
資格取得の勉強なんかで、前のように一緒に居られる時間が無くなったころ、共通の友達から
「〇ちゃん、前の彼氏と会ってるとこ見たよ」って知らされた
偶然会ったところを見られたのかもしれない だったらなぜ、僕に言わないの?そもそも本当のこと?色んな思いがぐるぐると回った
日にちを開けて彼女に聞いた
「彼から縒りを戻したいと言われ、会った」
「何回か会いに来たけど、その都度断っている」と、
なぜ僕に行ってくれなかったのかと問いただすと、心配かけたくなかったとのこと。
断り続けたところ専門学校の終わる時間に待ち伏せされはじめて、できる限り僕が迎えに行くようにした
ある日、彼女を待っていると、助手席に元カレが乗り込んできた
彼曰く、彼女を迎えるため一生懸命勉強して大手への就職も決まった。やっとこれからだというときに僕が横恋慕した、彼女は今でも元カレのことを想っている。その証拠だといって彼女の画像を見せてきた。明らかにホテルの一室に立っている彼女が写っている。服装からしてもおそらく最近のものだ。
その時、彼女が運転席の窓から覗いているのに気づいた。携帯の画像も見えているはず。車を伝って助手席に回り込むとドアを開けものすごい勢いで元カレを引きずり出した。僕が持っていた彼の携帯をを取り上げると地面に叩きつけて彼を怒鳴っていた。
彼女は、「うかつだった油断して連れ込まれてしまった。決して最後まではされていない」と言ったが、彼女が元カレと二人っきりでいたことを認めたことで、僕の全部が崩れ去った
その後何か言っていたんだと思うけど、まったく聞こえなかった
僕は何も聞かずに「わかった、わかったから」と怒鳴っていたんだと思う
そのまま車で走っていた どこをどう走ったか覚えていないが、彼女と来たことのある道の駅にいた
ソフトクリームをスカートに落としてわぁわぁ騒いだ場所だ、もう本当に記憶がなくなればいいのにと本気で思った、なんであの時フェードアウトすることを認めてくれなかったのか、どうしてこんな仕打ちをするのか
これからどうすればよいのか・・・
 どれくらい車のにいただろう、気づけば深夜だった うるさく鳴っていた携帯の電池もなくなっていたし、財布の中の現金も車のガソリンもほとんど残っていなかった このまま死んでもいいかなとも思ったが、家族となぜか彼女を強く意識した「心配だけはかけてはいけない」と
息が苦しく、言葉も発しずらかったが、缶コーヒー?を買いに降りたトラックの運転手に声をかけた 彼女と喧嘩してとびだしてきたこと、携帯も使えないお金もない、ガソリンも残っていないことを説明し公衆電話を使うため小銭を貸してくれないかとお願いした
そのおじさんは、子供みたいにケラケラ笑うと、1万円札と小銭を僕に渡してくれた「目の前のスタンドは朝7時から空くはず、まずは彼女に電話して安心してもらえ」 とだけ言って去ってしまった
とりあえず家に電話すると、母親にこっぴどく叱られた 〇ちゃんの話を最後まで聞かなかった、死ぬほど心配をかけた、など、今まで聞いたことのない早口で罵声を浴びせてきた
 後で聞いた話だが、普通のレストランと思ってた場所で食事をし、そこでもきちんと復縁を断ったが、最後に思い出で一緒に夜景が見たいと言われエレベーターに乗ったらファッションホテルの部屋に直行するものだった 大声で助けを求めたら元カレがさすがにあきらめ帰してくれた
とのことだった
それでも疑念は払しょくせず、元カレに真相を確認すると、関係を持った、彼女も喜んでいたとうそぶいた
 僕と彼女には他の誰も知りえないことがある 彼女が事故にあったためなのだが、元カレに確かめると答えることができなかった 彼女と関係を持ったのなら必ず知ること・・・
彼が答えられないのを安心した一方で「こんな嘘までついて彼女が戻ってくるわけないのに」と憐れんでしまった
 この件があって、「お互いに隠し事はしない もし、気が離れるようなことがあってもちゃんと言う」事を約束した
 僕の母と妹、彼女からしばらくの間「ヘタレ」と呼ばれるようになった。未だに「またヘタレるのか」など、完全にダメ人間扱いだ それはそれで気が楽なので良いが。
 なんだかんだあって、僕の就職が決まって学生のうちに籍を入れた 
それから数年、気付けば家族も増えている

 「僕の心のヤバイやつ」を読んで、なんと自分たちの学生時代の心境に合致しているのか、あの時の心理はこうだったんじゃないか? など色んなことで気づかされ、何度も何度も読み返している。こんな素敵な本に出合えたことに感謝だ

願わくば、主人公の京太郎と杏奈が、読者の祝福を受け幸せな家庭を築く結末であることを切に望む
 




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