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偶然と必然 全7話

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マスターからの突然の電話。バーで僕を待つ謎の女性とは?果たして僕はその女性に会えたのか?
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偶然と必然 第1話

偶然と必然。   多くの人は、自分に起こる出来事を偶然と必然に分けて話す。  出来事が自分の考えの中で因果関係がつくとき必然と言い、因果関係がつけられないとき偶然だと言う。 でも、そうなのだろうか? そんな風にして、現実を2つに引き裂くことが出来るのだろうか? ある夜、僕に起こった出来事。 それは果たして偶然なのか、必然なのか? 運命の悪戯か、それとも起こるべくして起きたのか? 意味があったのか、それとも無かったのか? そんな風に二元論的に解釈できるのか?

偶然と必然 第2話 〜物語は突然、幕をあける〜

21時30分 京都での会議と懇親会を終えて、帰りの電車の中でのことだ。 ややこしい仕事がひと段落したので、心地良い疲労感が身体を包む。明日は休みだが、朝早くから出かけなくてはならない。今日は、いつものバーには飲みに行かず、真っ直ぐ家に帰るか・・・。 電車の程よい揺れが心地よい。この時間、特急の2人がけシートは、みんな一人で座れる余裕がある。これは僕の私見だが、京阪電車の特急が一番よく眠れる。阪急電車も悪くは無いのだが、シートにやや難がある。JRの新快速は、逆にシートが硬

偶然と必然 第3話 〜彼女はハイネケンを注文する〜

21時20分 駅の改札口を出て、左に曲がる。 通りに沿い、1ブロック歩いた角にその店はある。 『風と共に去りぬ』の大きな看板が目印だ。 1階は同名のカフェで、2階がバーになっている。 君は狭い階段を上り、そっとドアを開ける。 君は今、バーにいる。 どの席に座っているのだろう? カウンターの席は埋まっている。 よって君は窓側の席に腰掛ける。 君が1人でこの店に来たのは今夜が初めてだ。 いや、君が単独でバーに来ること自体初めてかもしれない。 女性が1人で呑

偶然と必然 第4話 〜思考は巡る〜

21時35分 列車の窓に映る景色はいつもと同じだ。暗闇と小さな光の洪水。しかし、それを眺める僕の心境は全く違っていた。 電話を切ったあと、僕の頭の中を「?」の文字が暴走する。心臓が高鳴っているのがわかる。血圧も急上昇する。当然、僕はこう思う。 一体、誰? 僕の携帯番号を知っているなら、直接電話をかけて来る筈だ。ということは、今の僕の電話番号を知らない女性だ。 まったく検討がつかない。とりあえず可能性のある候補をリストアップしてみる。 A子?Bちゃん?C美? でも

偶然と必然 第5話 〜彼女の視点〜

21時35分 「うん、わかったわ。はよおいでや」 マスターは携帯電話を切って、優しく言う。 「彼やけど、あと30分位で来るみたいやから、ゆっくりしてってね」 そう言い残し、マスターはカウンターへビールを取りに戻る。 君はホッとする。 彼は来る。 君は時計を見る。 少し、帰りの電車も気になる。 よく冷えたハイネケンの瓶が君の前に置かれる。 ありがとう。 君はマスターに微笑む。 君はビールを少しだけ口に含む。 「そうそう彼ね、スキンヘッドしたからびっくり

偶然と必然 第6話 〜脳裏をよぎるイヤな予感〜

21時56分 環状線車内。再びマスターより入電。 イヤな予感。 脳裏を悪魔がよぎる。 「もしもし、今どこ?」 「もう、すぐ近くまで来てます!」 「女の人やけど、電車の時間が気になるからそろそろ帰るって」 「マジで!もう後5分位やから、引き止めといて!!」 「うん、そう言っとくわ」 その時、電話を切った僕の頭の中で何かがつながった。 この時間で電車が気になる? ということは、その子は少し遠くから来ている可能性がある。 どこだ・・・・・・・・・・・・・・・・? どこ

偶然と必然 最終話

22:01 遅かったのか・・・? 僕を徒労感が襲った。 彼女の姿は見当たらない。 僕はその場に呆然と立ち尽くす。 こんなことって・・・。 と、その時、奥のトイレのドアが開き、中から女性が出てきた。 彼女は僕に気づいてハッ息を飲みと固まった。僕も彼女が突然現れたので、頭が混乱してその場に立ち尽くしてしまった。 しばし、そのまま時が流れた。 それを見かねたのかマスターが「はいはい、まずは座りなよ」と助け舟を出してくれた。僕たちは向かい合わせで腰掛けて、20年ぶり