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4種の法人比較(5)~役員の呼称による比較~

役員の呼称まとめ

ここまで紹介してきた株式会社、有限会社、合同会社、一般社団法人の役員はどのように呼ばれるでしょうか。
以下にまとめてみました。

株式会社、有限会社の場合

最も有名なこの法人形態では、会社の役員は取締役、代表取締役、監査役といった耳馴染みのある呼称がつけられています。
所有と経営が原則として分離しているこの法人形態では、出資者である株主から会社の経営を委託された取締役や代表取締役が、会社の業務を執行することになります。
取締役はその会社の業務執行の意思決定に参加し、取締役の中から選定された代表取締役が対外的に会社を代表します

ところで、役員の一般的な呼称で「社長」を思い浮かべる方もいらっしゃると思います。
取締役や代表取締役が会社法で定義される役員の呼称であるのに対し、「社長」には法律上の定義はありません。
ですが、一般的には「社長」とは会社のトップのことです。
つまり社長とは代表取締役のことだと大雑把に認識してよいのですが、厳密には「社長」と「代表取締役」は異なるものです。
というのも、特に会社の規模が大きくなると、会社を代表できる人が1名しかいないと不便であるため、「代表取締役」が複数名いることがよくあります。
しかし、そのような会社でも「社長」と呼ばれるのは多くの場合、1名だけです。
つまり、「代表取締役」だからといって「社長」であるとは限らないのです。

合同会社の場合

合同会社は会社法上3種類ある「持分会社」の1つで、持分会社は原則として所有と経営が分離しない会社形態であるという点は先に説明しました。

これは株式会社でいうと、会社に出資をした株主が、取締役にもなって業務執行をする状態のことです。
合同会社では会社に出資した人のことを「社員」といいます。
所有と経営が分離しないとはいえ、社員全員が必ず業務執行も担わなければならないというのは不便なので、特定の社員に業務執行を担わせることができます。
このように、社員のうち、業務執行を担う人、つまり株式会社の取締役に相当する人のことを「業務執行社員」といいます
そして、その中で会社の代表権を有する社員、つまり株式会社の代表取締役に相当する人のことを「代表社員」といいます。

順を追って説明することで、「ふーん。そうなんだ。」と思っていただけたら幸いですが、こういった前置きなく名刺やホームページで「代表社員」という肩書が付されているとどうでしょうか。
合同会社の「社員」とは出資者のことですが、日常会話における「社員」とは従業員のことで、一般の方は後者のイメージの方が強いのではないでしょうか。

では「代表社員」とはどのように受け取られるでしょうか?
一番偉い従業員のこと?

と、思われる危険を孕んでいます。
これもやはりネーミングセンスのなさを感じざるを得ないですが、会社法上の定義なので変えようがありません。
「社長」を名乗ることはできると思いますが。

会社法の立法担当者を責めているようですが、「社員」という法律用語の起源は会社法よりはるかに古いと思われます。
というのも、後の一般社団法人とも関連しますが、人の集まりのことをを法律上の「社団」といい、「社員」とは社団の構成員のことを指すというのは、おそらく民法が制定された明治初期からずっとだと思われるからです。
「従業員」と受け取られる「社員」はもともと「会社員」のことで、紛らわしいとも思われなかったのではないか、というのが私の推測です。

一般社団法人の場合

一般社団法人では株式会社に類似した組織形態が取られています。
まず、法人の構成員のことを「社員」と呼び、社員によって構成された「社員総会」を最高意思決定機関として、業務執行を「理事」に委託します。
出資の有無という大きな違いはあるものの、株式会社では株主で構成される株主総会によって業務執行を担う取締役が選任される仕組みと同じです。
この時、選任される理事は社員である必要はありません。所有と経営が分離していると言ってよいでしょう。
そして、理事の中から、代表権を有する「代表理事」が選定される点も、株式会社の仕組みと同じです。

補足として、従来より社団や財団のトップのことを「理事長」と呼ぶ団体も多くありました。株式会社における「社長」と似ていますね。
大きな違いとしては、株式会社の「社長」が今も昔も変わらず法律上の定義がないことに対し、社団や財団については公益法人制度改革前まで「理事長」も「代表理事」も法律上の定義がなく、それぞれの法人の定款で規定していたのですが、公益法人制度改革以後は「代表理事」が法律上の呼称として明記されてしまった、という点です。
それによって、現行法上は「理事長」とはあくまで定款や団体の文化による呼称となってしまいましたが、それはつい最近の話だ、ということです。

もう一つ余談として、社団における「社員」のことを「会員」と呼ぶ団体が多く見られます。
この会員制度も団体によって運用は違いますが、社員総会での議決権のある「正会員」と、議決権のない「賛助会員」に分けているところが多いように思います。


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