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共感の多様性 ~絵本紹介『はたらくくるまたちとちいさなステアちゃん』~

はたらくくるまシリーズの魅力

ひろいひろい工事現場ではたらく車たちの日常を描く『はたらくくるまたちシリーズ』の中の1作『はたらくくるまたちとちいさなステアちゃん』をご紹介。


シリーズでレギュラーをつとめるのは、クレーンしゃ、ミキサーしゃ、ダンプカー、ブルドーザー、ショベルカーの5台。
我が家では、今日ご紹介する『…ちいさなステアちゃん』の他に、『おやすみ…』、『おはよう…』、『…かいたいこうじ』、『…どうろこうじ』を読みました。
2才の息子のショベルくんは今ちょうどはたらくくるまが大好きで、おもちゃのミニカーはもちろん、このシリーズの絵本にもハマっています。それぞれのくるまたちが個性を活かして、何かの工事を完成させたり、日常を描いたり、といった内容で、それがショベルくんのおもちゃのミニカーにもリンクして遊びの幅が広がります!

私の目線での感想としては、工事車両の情報量が多く、大人でも一読目は細部を理解しきれないといった感じです。言い方を変えると、大人でも知らない工事車両の知識を得ることができます。
また、擬人化されたはたらくくるまたちがとてもかわいいです。

ストーリー

今作では5台のはたらくくるまたちの工事現場に、スキッドステアローダーのステアちゃんがやってくる、というお話。
工事のお手伝いに来た、というちいさなステアちゃん。
しかし、5台の車たちから、工事現場で働くのは大変な仕事だから、体が小さくて力も弱そうなステアちゃんには無理だ、とたしなめられてしまいます。

しょんぼり帰ろうとするステアちゃん。
しかし……

はげしくうなづくショベルくん

さて、ネタバレしない程度のストーリー紹介は以上のような感じですが、私が衝撃を受けたのは、新登場のステアちゃんが5台のはたらくくるまたちに「きみには無理だよ」とたしなめられるシーン。
私からすれば、「バカにするな!」と不快に感じたり、「ステアちゃんかわいそう」と同情したりするシーンだと思うのですが…

わが子、ショベルくんは「うんうんうんうん」と激しくうなづいているのです。

「うなづく」というのは共感を示していると思いますがショベルくんは何に共感していると思いますか?
(お時間のある方は少し考えて続きを読んでみてください)

5台のはたらくくるまたちに共感している

ショベルくんは、ステアちゃんをたしなめている体も大きく力も強い5台のはたらくくるまたちに共感しているのでしょうか。
5台のはたらくくるまたちがステアちゃんには工事現場で働くのは無理だ、と考える理由がとても説得的だったので、そちら側の意見を支持しているのかもしれません。
あるいは、ショベルくんは5台のはたらくくるまたちと同種の車は普段遊んでいるおもちゃとして持っていますが、スキッドステアローダーは持っていないためでしょうか。つまり、ショベルくんは話が始まる前から、はたらく5台派閥に属しているのかもしれません。

いやいや、恐ろしい想像から逃げるのをやめましょう。
先輩が後輩をいびる、多数が少数を攻撃する、その構図に賛同している可能性も捨てきれはしないでしょう。

ステアちゃんに共感している

次のシーンではステアちゃんは「わかったわ…」としょんぼり帰りだします。
つまり、ステアちゃんに共感したとしても、このシーンで5台のはたらくくるまたちの主張にうなづくことになります。
けっこう勢いよくうなづいているので違う気がしますが。

うなづくことで物語を楽しんでいる

第三の選択肢として、特にどのくるまに共感しているわけでもなく、話を楽しむためにうなづいているのかもしれません。
このシーンは起承転結の「承」にあたり、この後、急転直下の大事件が起こります。「承」に同調すればするほど、続く「転」がよりエキサイティングになることは間違いありません。
そう、ライブでアーティストといっしょに歌ったり、歌舞伎で「成駒屋!天王寺屋!」と合いの手を入れたりするのと同じように、「そうする方が盛り上がるから」といった、ショベルくんなりの絵本の作法なのかもしれません。
何に共感しているかと言われれば「ストーリーに共感している」といったところでしょうか。

いかがでしたでしょうか。ふとした子どものうなづきから共感の多様性について考えてみました。答えはわからないのですが、あいづち一つでも様々な意味を持っている可能性に気づいた絵本でした。

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