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海の世界

 「海」が好きだ。遠くに水平線が広がる広い景色、青のグラデーション、砂浜、潮の匂い、波の音……海を中心に広がる光景は心を癒してくれる。ただし、泳ぐことが非常に苦手なので、自ら海に入ることは滅多にない。ダイビングなど夢のまた夢なので、海に関するドキュメンタリーなどを見て海中に想いを馳せる。

 もちろん海の生物も大好きだ。休日にふらりと一人で水族館へ遊びに行くこともある。先日は江戸川区の葛西臨海公園内にある葛西臨海水族園へと行った。
 東京湾に面している場所なので、立地的にも海を感じられる開放感のある施設だ。チケットを買って階段を登ると、印象的なガラスドームが迎えてくれる。ガラスドームの中へ入り、そこからエスカレーターに乗って下の階に下りていけば、目の前はもう海の中の世界だ。

 葛西臨海水族園は「世界の海」というエリアで、いくつもの水槽に分けて世界各国の海洋生物を展示している。それぞれの地域の海の中を知ることが出来てとても楽しい。温暖な地域の海は、やはり色鮮やかな珊瑚礁や魚が多くとても華やかだ。北極の魚を見ることが出来るのも非常に興味深い。
 深海エリアもあり、キンメダイやイセエビの他にダイオウグソクムシも展示されている。ダンゴムシの仲間が海の中に生息しているという事実が何度見ても信じがたく、ダイオウグソクムシがいる水槽の前ではいつも数分立ち止まってしまう。
 彼らは滅多に動かない。じっと甲殻のパーツ一つひとつを眺めていると、まるで狂いのないマシーンのような精巧さに魅了され、いつの間にか憧れのような気持ちさえ抱いている。彼らは真っ暗で静謐な海底で何を思い佇んでいるのか、取り留めもなく考えている時間はとても贅沢である。

 東京湾周辺の海の環境を模した水槽を展示しているのも、東京湾のすぐそばに位置する葛西臨海水族園らしくて好きなエリアだ。海に捨てられたカンやペットボトルも含めた人間の生活圏内の東京湾の海中を再現している水槽があるのだが、他の水槽とは異なる雰囲気を持っていて印象に残る。
 もちろんゴミもなく、水質も綺麗な海であることが一番いい。しかし人間の無遠慮によって環境を荒らされても逞しく生き抜き、ゴミをも住処にしてしまう者たちもいる。人の愚かさを横目に、我関せずといった顔で海に生きるその強かさは見習いたくもある。
 地球の反対側の海からすぐ傍の海のまで、葛西臨海水族園は多種多様な海の中の世界を見せてくれる。海洋生物の生態を丁寧に教えてくれる展示パネルも読んでいてとてもためになる。定期的に遊びに行きたくなる水族館だ。


 水族館を出ると夕暮れの時間になっていて、夕陽に染まる東京湾はとても美しかった。羽田空港から飛び立っていく飛行機を眺めていると、その中にいる沢山の人々の人生を想像してしまい、何となく感傷的な気持ちになってしまう。こういう風景は物思いに耽りながら一人で味わいたいものだな、としみじみ思ったが、そういう考えだから恋人が出来ないのかもしれない。
 あまり知りたくない事実に気づき、虚しさを抱えながら京葉線に乗り、東京湾を後にした。

海を眺めることができる建物「クリスタルビュー」


 
 

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