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奇跡のインド18

どうしても触れておかなくてはならないのは、同じ部屋になったSさんのことだ。
Sさんは、私が敬愛する先生と、講師養成コースの同期だった。おまけにその先生と仲も良い。Sさんは、現在はヨガ講師ではなく、鍼灸師をされている。

初日のデリーのホテルから、Sさんと部屋が一緒だった。羽田で飛行機が遅れ、デリー到着も遅れ、デリーに着いてからも渋滞でホテル到着が遅れ、少しでも早く休みたいホテルで、彼女はまず私に先にシャワーを譲ってくれた、自分はシャワーに時間がかかるから、と言って。そして私は、遠慮なく先にシャワーを使わせてもらった(実際問題、私はシャワーをするのも身支度をするのも、荷造りするのも食事も、何もかも早いのは事実だが、その時点で彼女はそのことを知らなかったはずだ)。
Sさんが鍼灸師になられた経歴も興味深いし、彼女のお母様は、私の現在の職業と深く関わりがあることを知って、初日から意気投合した。おまけに、彼女と私は同学年であることもわかった。それで一気に距離が近づいた。
この国民総ネット依存症の世の中で、彼女が本を読むことにもシンパシーを感じた。彼女はインドに来る飛行機の中で、本を読んでいたのだという。私も本は好きだが、ネットに時間を奪われて、あまり読まなくなっている。飛行機で今どき本を読むなんて、珍しいではないか。

彼女は今回のこのアシュラムツアーへの参加が2回目だという(このツアーは、2回目どころか3回目以上の、リピーターも複数いた)。だから、勝手がわかっていたのも私にとってはありがたかった。
アシュラムに着くと彼女は、経験者としていろいろ私に教えてくれて、そして助けてくれた。
例えばトイレットペーパー。トイレットペーパーを日本から持参しなくてはならないことは知っていたが、彼女はそれを浴室にぶら下げるための紐を持ってきていた。だから私たちは、トイレットペーパーを空中からぶら下げることができた。おかげでトイレットペーパーを床置きして水に濡れたりして、不快な思いをしなくて済んだ。

同室の鍵が一つしかないので、2人で別々に外出する時のために南京錠があったほうがいい、と旅行の案内に書いてあったが、ちょうどいい鍵を日本から持ってきてくれたのも彼女である(実は私も南京錠を一応持参していたのだが、小さすぎて使い物にならなかった)。最後の日に、あろうことか私はその鍵を壊してしまったのだが、彼女は弁償すると申し出た私を、笑って許してくれた。

そして洗濯用具。洗剤や洗濯を干すための紐、洗濯バサミなどを持参した方がいいと、持ち物リストに書いてあったが、どんなものを持参するのが適切なのか、私はよくわかっていなかった。普段旅行に出ても、現地で洗濯なんかしないからである。だから普通の紐を持って行ったら笑われた。
しかし彼女は、洗濯バサミは洗濯バサミでも、靴下なんかを干す小さな洗濯物干し自体を持参していたのだった。おまけにそれを二つ持っており、私にひとつ貸してくれたのだ。本当に助かった。普段なら私は現地で洗濯をするくらいなら、着回しで乗り切ったりするのだが、今回は暑すぎて汗をかいたり、川に入ったりなど、洗濯が必要な場面が結構あったのだった。
私は荷物は最小限にして、足りないものがあったらあったで我慢すればいいよ、と考えるタイプだ。しかし彼女は実に細かいところまで気を回し、スーツケースにあれこれと詰め込むタイプだった。お互い補いあっていたのかもしれない(一方的に私が世話になっただけ、というほうが正確な気もするが)。
そんなふうに物理的に助けてもらったことだけでなく、夜などの自由時間に、2人でいろいろ話したのも楽しかった。最後の夜なんか、別れが惜しくて、翌朝4時台には起きなくてはならないのに、夜中の12時半過ぎまで話し込んだくらいだ。修学旅行みたいだ。

中年になって、友達ができることこそあっても、仲のいい友達ができることなんて、そんなにないだろうと、これまで無意識的に思っていた。しかしおそらく、Sさんとは今後も付き合いが続くことになるだろう。ありがたいことだ。

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