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「決定版 わしの研究」出版記念イベントに行ってきました

4月24日、「決定版 わしの研究」 (小学館)という書籍の出版記念イベントがあるということで、新宿の「雑遊」さんに出かけました。
著者である神山恭昭(こうやまやすあき)さんの生活を描いたドキュメンタリー映画「ほそぼそ芸術 ささやかな天才 神山恭昭」(監督・品川亮)も同時に上映されるということで、冷たい雨の日でしたが、そして私は基本出不精な人間で新宿の人混みは苦手なのですが…(笑)。

ちなみに夫も誘いましたが、この日の同じ時間帯に渋谷でジャック・リヴェットの「地に堕ちた愛(完全版)」の上映があり、完全版は未見なのでそちらに行くと。

というわけでマイナー映画(どちらに対しても失礼なようですが、どちらに対しても褒めてます)別行動、私は電車で新宿三丁目駅に。
C5出口の前に…

防水仕様

会場は地下なので階段を下りていくと足元に…

いえいえ、神山さんこそわざわざ松山から来て下さって…(私はこの映画を既に一度観ているので、神山さんが愛媛の方だと知っています)
この段ボールの切り方、好きですよ。

地下一階に受付が。
こういうイベントはその日に入ってその日に撤収、スケジュールがハードだったりして受付の段階で「ギスギス感」が伝わってくることが少なくないのですが(地方からだと少人数で頑張らないといけないから体力的にもきつかったり…大変ですよね)、なんだかこのチームはふんわりしています。どことなくのんびりした、ホッとする空気。

あ、受付の隣に神山さんが座っていらして、本を販売しています。
私は神山さんご本人の佇まいに興味があって伺ったところがあったので、この段階で目標は達成しました。
なんというか…透明な70代。
本はネットでなくここで買おう…と決めていたので一冊購入します。
神山さんが
「ありがとう…あの…あとでサインします…もし、嫌でなければ…」
と仰るので(嫌でなければ…って!!)
「ぜひ!(≧▽≦)」
と。
お釣りをお財布から出していらっしゃるのも素敵でした。

受付で頂いたチラシ、本日の進行。
惜しみなくイラストを使うサービス精神。
後期高齢者、地方老人であることの強みを全面に押し出した(!)プロモーション。
よくよく読んでもこの本がどういう内容なのかよく分かりません。

会場は60人くらい入れる感じに椅子が並べられていて(詰めればもっと入るスペースです)、前方にステージとスクリーンがあって、ステージの右横にPAさん。
私は開演の10分前くらいに着席したので、もうすぐはじまります。
トイレはスクリーンの右奥にあって、上映してても気にしないで行ってね(^_-)-☆という案内も、リラックスしたいい感じでした。

映画のチラシも頂いたので見てみると…

折線がついているし…と一瞬掲載をためらいましたが、
これも味かもと…。
しかし「謙虚で自意識が破綻している」という表現はほんと凄い…
この一言に椎名誠という作家の観察眼にも恐怖に近い尊敬を感じます。
ここには記載されていませんが、台湾でも上映されたそうです。

こちらが映画の予告編⇩

神山さんのアート作品や絵本などの制作風景、家族や友人を描いた90分ほどの上映。二度目ですが本当に面白くて、引き込まれてあっという間です。

基本は神山さんの何気ない日常風景が淡々と映し出されているのですが、時折挟み込まれる絵本の朗読(ヒコロヒーさんの声の温度もいい感じ)もあり、観客は日常生活とそこから生まれる芸術との間を自由にふらふらできます
そして一言に日常生活と言っても、神山さんもお仲間も70年以上その土地にいらっしゃるので、風景の中に思い出が、歴史が溶け込んでいる…。
観客は時間旅行もできるのでした。
二度見できない人生を、二度見する…。ドキュメンタリー映像の醍醐味でもあります。

上映が終わると、トークショー。
登場人物は、神山さん、PAさん…ではなくこの会場ではPAもしていた映画の製作総指揮で、アーティストで、海岸芸術家協会会長の海野貴彦さん(映画にも登場)、品川亮監督、そして書籍「決定版 わしの研究」の編集者・宍戸健司さん
ご本のチラシに「決定版 わしの研究」はカドカワの敏腕編集長だった宍戸さんがセレクト&編集をなさったと書かれていますが、トークのあいだ中、宍戸さんの敏腕ぶりがぐいぐいと伝わってきます。
この人に任せておけば大丈夫、この本は傑作(まだ読んでないけど)!
宍戸さんのお話を聞いているうちに、さっきは一冊しか買わなかったけれどもっと買わないといけない気持ちにすらなってきました。編集への意気込み、多くの読者へ届けたいという情熱、そして神山さんへのリスペクト…エネルギーの迸りがすごい…。

しかしその一方で、他の3人は一体どうやって食べているのだろう…という気持ちにもなってきます。さすが「ほそぼそ芸術」、映画が終わっても独特のマイペース感は健在です。ビジネスほそぼそ、ではないのです。
特に自分の本なのに、どこか他人事感がある神山さん…(笑)。
神山さんは長年途切れることなく創作を続けていたわけですから、会社員時代は睡眠を削ってでも制作していたくらいですから、映画の中でパルコキノシタさんが語られているように体中に「ドクドクしたマグマ」が渦巻いているのは確実なのです。創らなくていられない、ある種のオブセッションがあります。美しい言葉で言えばミッションかもしれませんが、別の視点で見れば創作の呪いをかけられているともいえるわけで、古い映画ですが「赤い靴」。踊り続けなければいられない、創り続けなければいられない人…。
でも、しかし、悲壮感はなくどこかふわりとしています。そんな自分を俯瞰している視線もお持ちで、だから常にそこはかとないユーモアもあります。

そんな神山さんを見ているうちに
熱いマグマをふわりとした白い皮でくるんだ肉まん…
あるいは
自転車に乗った天使…
神山さんはずーっと白い服を着られているので、そして自転車で爆走していらっしゃるので、そんなイメージが浮かんできました。
天使というのは、いつもすることがあって、忙しそうですしね。

それにしても、こういう人間の面白さ、映像や活字では分からない味わいが感じられるところがライブイベントの良さです。
私はお一人お一人の佇まいに、そしてそれを暖かく受け止める観客の皆さんの空気に、なんだか、とても感動してしまいました。

トークショーのあとは神山さんご自身による朗読。
「決定版 わしの研究」に収められている短編「夢見るシャンソン人形」
私は「著者の朗読」が大好きです。
書いた人にしか分からない、作家の中に流れている「リズム」「音楽」を聴き取れることがあります。

実話を脚色したショートストーリーだそうですが、話が一体全体どこにいくのかまるで分からない、それでいてしっかり「オチ」もある、新作落語のような一篇です。
全共闘、学生運動の時代がモチーフですが、こんな切り口があったなんて…(驚)!
ぜひお手に取ってお読みください。

目次。他にも面白いお話がたくさん…

それにしても…
さらっと映画を観ると「ほのぼの老人」に見えなくもない神山さん…。
家族や仲間に恵まれ、マイペースで、その上こうして本や映画も出来て…。

でも、私は親が学生運動していたこともあり、なんとなく感じるのです。
神山さん達は(実際に学生運動に加わっていたかどうかに関わらず)、
資本主義について、
労働について、
人権について、
フェミニズムについて、
芸術について、
そしてしあわせについて、
実はものすごく真剣に考えていたはず…。
考えていただけではなく人生の中で試行錯誤して、そのために悲しみや苦味も沢山味わって、地方だからこその良さはあるけれど一方で地方だからこその苛立ちもあって…。
ほのぼのどころか、すごく面倒くさいことが沢山あっただろうな…と(憶測ですが)。
そしてその結論が現在の創作活動であり、暮らし方であり、佇まいで、でも本人の意図とは別の大きな流れがそこに運んでくれた面もある…。でもそこに着くにはご本人が手足をバタバタしたからでもあり…。

映画の中にさらりと「革命家はいなかった」と仰る場面があるのですが、静かな革命家が沢山いらしたのではないかしら…。神山さんとか。
そしてそんな神山さんの「今」に、若い人達がどうしようもなく惹かれている。

とにかく…
私は「ほそぼそ女将」「ほそぼそライター」を続けよう。
ほそぼそ、しぶとく、続けよう。
そう思ったイベントでした。

帰宅してから、夫とお互いに観たマイナー映画(褒めてます)報告会をしましたが、それはまた別の話…。

いえいえ、こちらこそどうもありがとうございました。

(おわり)

この映画を観てみたい! と思った方はこちらの書籍にもれなくDVDがついています⇩




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