悪夢について

 私は昔から奇妙な悪夢を見る。今日はこんな夢だった。


 遠くからカメラで撮ったような画角で実家の映像がうつる。屋根の上から玄関口まで視点がパンしていき、玄関にズームする。私が玄関に入ると場面が変わる。

 私がパソコンの画面か何かを見ている。画面は左右に二分されており、それぞれにノイズが走っている。目を凝らすとノイズの中に規則的な模様が浮かび上がってくる。

 それは顔だった。左右に分割されたノイズには、それぞれ誰かの顔が埋もれているのだ。だれか分からないが、なぜか見入ってしまう。そしてまた場面が変わる

 私自身の顔が映った。異常に口角を吊り上げ笑っている。状況的に、さっきの2つの顔を見ながら笑っているのだと思う。自分の顔なのに驚くほど怖かった。奇妙な音楽もかかっていた。

 私の横には誰かがいた。私は手を伸ばし、横にいた誰かの口に手を突っ込んだ。無理やり突っ込んだ。歯が食い込んで強烈に痛いが、それでもさらに奥まで手を突っ込んだ。そこではたと目が覚めた。


 とまあ、いかにも夢といった感じの支離滅裂な内容だったのだが、これを見た原因は大体わかっている。どうして悪夢を見たのか少しここでまとめてみよう。

 私は音楽を聴きながら寝落ちするのが好きで、よくノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンをつけて聴いている。なぜこれを最初に言ったかというと、このまま寝るとよく悪夢を見るからなのだ。

 おそらく音楽が止まって無音が耳に流されている時が危険なのだと思う。耳に届く雑音、つまり部屋鳴りとか、エアコンの駆動音とか、そういう環境音がノイズキャンセリングで完全にシャットアウトされる。人間というのは何もない所に勝手な想像を差し込もうとするので、無音を埋めようと、夢の中で妙な音楽がかかったりするのだ。

 ヘッドホンをせず普通に寝ていると、夢の中で音楽がかかることはない。私の場合、普通に夢を見ているときに夢の中で発生する音は会話のみである。物が動く音とかはしない。目の前で何かが燃えている様を夢見たとしても、音が鳴らないのだ。だから音楽がかかるというのはかなり特殊な出来事なのだ。

 このとき現実の私の耳には部屋の環境音が届いているのだが、これが重要なのだと思う。人間というのは、自然な外界との接続が保たれている感覚については悪夢を見ないようなのだ。例えば、寝ているときに猫が腹の上に座ってくると、圧迫感を感じて押しつぶされる夢を見るというのは聞いたことがあるだろう。

 つまり、寝ているときに五感に異常が起こると、それに由来する悪夢を見るのだ。今回の場合もそれと同じことが言える。普通にしていれば、現実の私の耳には自然な雑音が届いているから、聴覚が手隙になることがない。だが今回はノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンをつけていたため、耳から入ってくる自然な雑音が全くなく、脳が勝手にフリーの聴覚を埋めようとしたのだ。

 ここで一旦、寝ているとき私の五感がどうなっていたか思い出してみよう。まず、視覚と聴覚は遮断されていた。目は閉じているし、耳はノイズキャンセリングで無音だった。すると私の脳がその2つの空白を埋めようとして、ランダムな映像と音楽を夢として見せてきそうだ。

 嗅覚と味覚は特に遮断されていなかった。変な臭いも味もしていなかったのでそこも問題ない。残る感覚は触覚であるが、これは少々問題があった。

 起きたとき気づいたのだが、私は右手を左脇に挟み込んで圧迫していた。夢の最後の方で誰かの口に手を突っ込んでいたが、その理由がこれなのだと思う。触覚に異常が起こっていた手は右手で、夢で口に突っ込んでいた手も右手だったのだ。

 これにて悪夢の原因がハッキリした。一件落着! ……といきたいところだが、一つまだ不明確なことがある。なぜ私は実家の映像を見たのだろう。

 不思議なのだが、昔から悪夢で見る場面といえば実家なのだ。別に親と関係が悪いとか、地元が嫌いだとか、何かトラウマになる出来事があったとかは一切ない。なのに悪夢といえば実家なのだ。これだけが唯一、いつまでも解決しない謎となっている。

 スッキリしないが、そういう謎があるというメモだけ残して終わりにする。

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