【対談】池上彰×エマニュエル・トッド 読んでみた(要旨と感想)
先日、二人の対談が新書化されたものを発見。
遅ればせながら買ってみた。
お題は、ウクライナ侵攻について。出版年月日は、2023年の6月30日であるから、ほぼ半年前の対談だが、現にウクライナ侵攻は収まっていないわけだし、軍事軍略の玄人素人という話を超えて、軍人に命令を出す者たちの思考回路についての分析・対談であるので(特にアメリカは、もしトラ問題が進行中😅)、今も有意義かなと感じたのが購入動機。
この本です👇
工程としては、全5章あるものを、1日1章要約にして紹介する体裁にしてみたいなと。
『帝国以後』で日本でも有名なエマニュエル・トッド氏の肩書は、「歴史人口学者・家族人類学者」という風に結構特殊である。でも、誠実であろうとして込み入った名称になっているのかもなと推測したりする。
いや、単に最先端の名称なんだと言われると不明を恥じるほかなく、申し訳ないんだけど😅例示した本の当時(2003年頃)、ソ連崩壊を予言した知識人ということでリスペクトされていた。
話法としては、国際○○学とか、比較○○学、社会○○学という学際・クロスオーバー話法と似ている。
歴史家というと広すぎるので、○○専門という風に注釈が必要になるが、この肩書だと、人口統計学などを通じた歴史の動態を知ろうとする人なのかなと思わせる。
事情は人類学も似ていて、広すぎるので、家族法(日本でいうと民法の後半部分です)とかその周辺のことを通じて諸国を比較して人類を語ろうとするのだと限局しているのかなと。
そのようなバックグラウンドの人に、日本で有名な池上彰氏がインタビュアーとして質問し、回答を引き出していくという形式。
第1章
概ね、章題の通りであった。
前半において、ウクライナ戦争の原因、
後半においてジャーナリストの責任。
侵攻の原因への言及
最深部には触れていない。例えばどんな利害得失があってとか、少し前のパナマ文書や録音のような物的証拠を伴う、いわゆるディープスロートのような(喉を掻っ切るナイフのような)証拠を並べているわけではない。
ただ、侵攻が起こった責任という表現で、今や世に広まった観もある(それでもまだまだ偏りは是正されていない?)、「アメリカとNATOの姿勢がロシアを刺激した」ということを述べている。
前提として、ロシアはウクライナを緩衝地帯、架け橋のような地域にすることで争いが起こるのを避けようとしていたという。
アメリカのシカゴ大教授(国際政治学)、ジョン・ミアシャイマー氏は、要旨、ウクライナ侵攻のだいぶ前からウクライナはNATOの事実上の構成員だった、今回初加入申請をしたという形式面だけに囚われてはならないという警句を発しているそう。
昔の日本風の表現で言うと、反共の防波堤欧州版がNATOという同盟なので、隣接しているウクライナが実質NATOになっていくことはロシアの脅威だった。なので、彼らは中和化の提案をしていたと。
それをフルシカトしたのがアメリカとNATOの態度だったのだと😅。
筆禍、人災?ジャーナリズムの責任への言及
歴史家であり、人口を見る学者らしい着眼の指摘があった。
2000年からのプーチン政権は強権的だが、支持される理由は、単なる恐怖政治や洗脳という話ではない、数字の裏付けがあるよう。
ソ連崩壊以降90年代はロシアの艱難辛苦の時代だったが、生活水準が回復し、そこから自殺率・他殺率共に下がった。乳幼児死亡率に至っては、同時期のアメリカを下回っていた。安定社会を構築しつつあったのだ。
ということはそれを維持するために保守化が進むし、敢えてことを構える、動くというモチベーションは起こりにくかったはずと。外的要因が何かあれば別だが😅。
ここでトッド氏の本国フランスのジャーナリズムの現況について、日本のそれとも類似したヤバイ状況だということが語られる。
行間にあるものはじかに読んでもらいたいが、要旨、イスラモフォビアのロシアバージョン、ロシアフォビアのようなものが蔓延していると。
ソ連と言えば全体主義、報道や言論の自由を検閲で弾圧した、自由の敵。
トッド氏は、客観報道と日本でも連呼され自称される単語のように、「ファクトフルネス大事」といって、「代理戦争を通じたアメリカ対ロシアじゃないか」とか、「NATOサイドの非を検証するべき」ということを述べた。
すると、「反体制派だ」とかレッテルを貼られて、テレビ局からは出入り禁止にされたらしい(やべえフランスのジャーナリズム信仰)🥶。
結局、アメリカの望む論陣に共同歩調していく言説だけピックアップされてしまうので、ウクライナにあった腐敗などは黙殺されてしまったようだった(今では知られているのかもしれないが😅、インタビューには反映されていない)。
そこまでいくと反共を御旗にした奇妙な全体主義ではないか?
奇妙というのは、民主主義や自由主義を護るために反共と言ってきたのに、やっていることは彼らと同じという奇妙さを指しているつもり。
反共であれば思考停止できる(それも上記の奇妙さがあるが)という免罪符でもあるんだろうか?
あ、それは統一教会が背後に居るのに戦後ずっと勝共連合と組んでた、思考停止議員の居る政党にも問いたいところだ。
自民党の件はさておき(党名言ってるやん)、トッド氏の言説は日本では10万部売れた新書になった(文春新書刊の『第三次世界大戦はもう始まっている』)。
日本国内のジャーナリズムの健全性は記者クラブその他、別途ヤバイけれども、国外の言説を紹介する・享受するのが好きな国民性が奏功したとはいえるようだ。
ちなみに、ジャーナリストじゃないのになぜトッド氏のジャーナリズムへの警鐘が注視されるかというと驚きの家系図が関係する。トッド氏の父は左派のジャーナリストで、祖父は小説家・共産主義者・ジャーナリストのポール・ニザン。
なので、彼自身はジャーナリストじゃなくても、ジャーナルというものがどうあるべきかという矜持は血肉になっており、本国の青二才に言われるまでもなく染みついているのだ。
第2章
西洋・非西洋の便宜的2分割
第1章でも、欧州メインプレイヤーの英独仏以外に、明確にバルト三国やポーランドに要注意だということをほのめかしていたエマニュエル・トッド氏。
この章では、より一層話の筋を明確化するためか、日本の総務省統計局が公表している世界の推計人口の数値を参照したりしながら、ざっくりと、いわゆる西洋社会・国家と非西洋社会・国家の2陣営に便宜上分けている。
要約している僕も冒頭付近で断っておいたが、トッド氏ご本人も、「自分は軍事の専門家などでは全くない身だが、歴史家や人口学者の立場としてこう見える」ということだ、と断ったうえで論じている。
軍事力じゃなくて生産力でアメリカを分析すると?
何度か繰り返している強烈なフレーズがあって、1945年当時、アメリカの産業生産は、世界経済の半分を占めていたとトッド氏はいう。僕らの敗戦時が彼らの絶頂期、そりゃ勝てるわけねえか…。
アメリカを真似る日本でも問題視されてきて、最近はむしろ進んで忘却しようとしているっぽいことだが、「グローバリゼーションに対処しろ」と言って、生産拠点やマンパワーを外へ外へ出してしまう。
そのことで国内が空洞化する(もちろん現地雇用などはするけど😅、管理人員らが割かれ力が分散してしまうなどといったことを含む)。
🔵ご参考(海外生産拠点の話が今も根深いことなど、話の位置は20分頃)
軍人・軍備の外注化(というアメリカの弱体化)
ハリウッド映画などで批判的に描かれるだけでなく、NHKなどでも夜に放映していた気がするが、アメリカでは、軍を維持するコストカットのために兵隊を外注する傭兵化が進んでいるのは日本でも知られている。
トッド氏はマンパワーのことは触れなかったが、同旨の文脈からアメリカは国力、つまりここでは軍備の生産力が落ちていて、ロシアが経済制裁に堪えながら軍備も増強しているペースに追いついていないんじゃないかという。
元来のアメリカ軍の個々人のスキル、指揮官のタクティクスであるとか、装備品の凄さというのは喧伝されてきた。だけど、その供給継続性が、今や衰えたアメリカにはないのではないかという見立て。
結局、戦車のレオパルト2の供給問題(軍事マニアではないので技術面など細目は省くが😅)でも立ち現れていたように、ドイツやポーランドといったNATOサイドの国々に圧力をかけて提供を強いるといった力業になっていくと。
マニアの人たちがかまびすしいように、「この戦車、性能がこれだけすごいんだ」と言ったところで、アメリカ自身には生産能力が乏しかったら画餅じゃないか、という話(僕が拡げているだけで😅、トッド氏はそこまで言ってないけど)。
さながら超ブランド高級車が高すぎて、世界中に何台しかないみたいな問題というか…😅
貿易の2極化、経済制裁も2極化
そこへ、本章の冒頭で要約した西洋/非西洋の二項対立。
ここでトッド氏は貿易での交流も二分化されてるっぽいことを述べ出す。
貿易赤字国は消費に特化(日本と違い既にDXサービス移行して物品は輸入で買いまくっているような?)した西洋諸国、貿易黒字国は生産力で勝る(工場として人口も多い?)非西洋諸国になっているようだと。
非西洋の代表例、いわゆるBRICSはアメリカが呼びかけたロシアへの経済制裁に共鳴しなかったのだ。
つまり当のRは除いて、ブラジル、インド、チャイナ、サウスアフリカは成長中で、ロシアと仲良くした方が今後の国家運営に響かないと。ウクライナ侵攻を是認した形。
衰えたアメリカのヘゲモニーに従いたくないと暗に述べている😅?
要するに、経済戦争としてだが、2陣営による世界大戦の見立ては既に成立しているともいえるのかもしれない。宣戦布告こそないけど。ここで、アジアなのに西洋諸国に列している我が国のかじ取りが大変気になりますね。😅
中国の「仲介国」外交
あと、地味に僕には響いた指摘があって、昨年の3月10日、とある仲介事件が起きたと。ほぼ1年前ですね。
長年にわたって国交断絶していたサウジアラビアとイランが、中国の仲介で、国交回復に合意したと。反面、同盟国なのに、この交渉において、アメリカは蚊帳の外だったそう。
オセロの陣地取りみたいに、気づいたらパタパタと色が反転して行ってしまうような外堀埋め外交をされているんだという事例を引き合いに出しつつ、中国はアメリカが劣化によって傾くと見越してロシア・ウクライナ間にも仲介を申し出るタイミングを見計らっているんじゃないか?というわけです。
じゃあ、覇権国になりたいのか?というと違うという。
たしかに、トランプ政権が自ら公言してしまったけど、「世界警察」は金がかかって嫌われて、自分たちも煩わしいだろうねと。
アメリカを仮想敵として利用しつつ、国内を統制し、対外的にはいろんな国に恩を売って世界政治の中心になろう、という欲ならば、中国にあるだろうと。
だけど、トッド氏の分析では、ヘゲモニーは要らないみたい。
覇権に伴う義務や責任が嫌らしいと。
恒大集団のバブル等より前の収録インタビューだからか(発刊2023年6月30日)、中国自身の経済崩壊危険については言及がなかったが、トッド氏の専門としての人口動態が、ヘゲモニーを狙えるそれではないそう。
いわゆる合計特殊出生率が異常に低いし、大量の人口流出もあると。
アメリカに代わって「世界警察」なんてしょい込めるか、というのが本音なのではと。
しかし覇者を弱らせておくと、色々と与しやすい。
弱ってきたボスにたかる2番手3番手みたいな…😅?
ロシアは人口ピラミッドの造りが、約5年後くらいにガクッと人口が減る。
中国は倍の10年後くらいに、なんと労働力の3割が減るとか。
彼ら自身も弱まるのが中長期的に見えているので、アメリカのヘゲモニーを叩くなら今だとなっているのではないか、という見立て。
ゆえに、章題名のごとく、現時点では、中露はウクライナ情勢を長引かせてアメリカを傾ける方向性に理(利)がある…。
第3章
いきなり小括から😅
この章に関しては、トッド氏の言いたいことの全体をざっくりと構図的に言明しておいた方が良さげだなと感じたので、記述自体は後に出てくるが一番前に援用してしまうことにした。
とある視座から始めたい。
トッド氏のバックグラウンドも書いておいたことが利いてくる。
池上氏が書籍内でトッド氏の主張をまとめて曰く、以下のようだ。
前提知識の話になるが、かつて構造主義の始祖(の一人?)レヴィ=ストロースが、西欧の先進性というのは錯覚だということを喝破した。
構造主義を用いて原住民研究等をするなかで、『野生の思考』『悲しき熱帯』他の著作で指摘したというのは有名だ。単に文化的構造が別建て、差異があるだけで、先進後進、優劣などないと。
トッド氏は、植民地支配が得意なフランスの知識人として(失敬)、レヴィ=ストロースは当然吸収したうえで、ウクライナ情勢においても文化的な規定が行動を規定していると独特の指摘をする。
人口学者の分析ツールとして、家族システム、親族システムの違いがまた、上述した二項対立とは異なる、宗教観・家族観から来る二項対立を無意識下で規定していると、フロイトみたいなことを言うのだ。
ロシアでも「宗教は民衆のアヘン」になってる?
それで、欧州風の総合知というか、学際的な話でかつ、観念論にも通ずる話が展開される。
プーチンは西洋/非西洋の着火点をよくわかって交渉事に使っていると。
例えば、進歩主義を気取ったLGBTQ擁護者が、欧州の家族を解体していると演説して国民を煽る。その背景には、アングロサクソン系の家族観と、スラブ系のロシア人による家族観が異なるということが挙げられる。
あるいは、EUではホモフォビアであることのほうがバッシング対象になるようになったが、ロシアは強烈なホモフォビアの国である。
残念ながら、小ロシアと呼ばれるウクライナもそうらしい。今は、支援してもらうために、いかにも長年民主的かつリベラルであろうとしてきたかのようなフリをしているが、人権観、家族観はいかんせんロシア寄りのようだ…😅
で、執政を正当化するために「聖書が男女を区別して創ったというのに、進歩主義を騙るものどもは境界を失くして、伝統的な家庭を失くそうとしている」と。ついでに言うと中絶促進もするやつらだと😅。
そうすると、宗教上、信仰に篤い人々ほど、政治上はナショナリズムに組み込まれてしまうトラップが一丁上がりとなる。
プーチンを信じとけば、秩序の破壊者を駆除してくれると。…トランプもトラップかな😅
「西洋」の劣勢
そして、こういうスラブ系の家庭観(かつ宗教・道徳)に近くて父権制的な捉え方は、実は世界で75%にものぼる。
なので、いわゆる西洋社会は非西洋を財力や武力で抑え込んでいるだけで、「直接民主主義」で世界投票をさせたら、後進的なはずの非西洋の彼らの価値観が勝ってしまうのが現実なのだ。非西洋には非西洋のやり方があるんだ、文句あっか、となってしまう。
要するにロシアの狙いはこれだ。なんだかんだ言っても俺様のやり方は世界の多数派、終局的には支持されているってのがプーチンの考え。
いやいや、宗教道徳を起点にして、理屈をすり替え、戦後国際秩序をぶっ壊していいとは是認してないと思うが。
トッド氏のいう無意識レベルでシンパシーがあるとしても🥶。
ところで、かつて、日本も、今や欧州の盟主になったドイツも、昔は日独伊三国同盟を組んだりした非西洋の旗手であった。家族システムも直系家族を大事にしていて実は似ているそうだ。
ドイツは枢軸国で敗戦国ではあるが、非西洋とは擬制っぽい。が、世界史のお題の一つに英仏への後進性コンプレックスがあるらしい、とも見聞する(これはトッド氏は述べていない😅)。
非西洋の弁は、日本でも良く言われるようなことだ。国が豊かになることで、つまり飢えや恐怖から免れることで、あるいは暇になったから、観念の方に逃避できるようになってしまったのが、自称進歩主義的な西洋の奴らだと。
そういうのは、今のいわゆるネオフェミニズムだとか、名画にスープをかける自称環境保護団体だったりするんだ、という日本の右寄り、保守色の強い人々の持っていき方に似ている(失敬)。
自称で脱亜入欧したはずなのに、やはり日本で保守的であるということは、地が非西洋なのだ。
実は今や、西洋も「非西洋」?
日米でも欧州でも、自由主義や民主主義を標榜していながら、ネオリベやネオコンに侵食されてしまって(ちなみにネオっていうけど、こんな惨状で、リベラルやコンサバティブは更新されたといえるんだろうか?😅)、蓋を開けてみれば、資本主義に基づいた寡頭政治化していると。
書籍の記載を敷衍し過ぎたら、ちと不適切な不等号かもしれないけど、
資本主義>自由・民主主義じゃないのかと。
例示は、GAFAMのトップなどだったり、トランプのような声のでかい資本家、その取り巻きが政治や文化を仕切ってしまうと。
カウンターアクトとして、ウォール街占拠の99%運動なんてのもありましたよね。呼応しないけど皆。
不平等や不寛容が蔓延して、西洋が非西洋を蔑視するのと同じ事態に、実はアメリカ国内で自分たちも陥っているではないかと。
気づかないだけで。あるいは見て見ぬふりしているだけで。
飛び火ですが…。
ウクライナの汚職を、日本の裏金作り政党が非難できますか?😅
日本の裏金は飛び入り例示だけど…西洋は時計が逆巻きしていこうとしている。いや、後進的な非西洋に歩み寄る、新たな統治形態?
第4章
章題がアメリカの没落なので、なかなかヘビー
パクス・ロマーナをもじったパクス・アメリカーナ。
果たして「アメリカの平和」といえる状況はあったのか?
アメリカはテロでツインタワーを失った喪失経験はあるけれど、本土決戦の体験がない国だとトッド氏はいう。
表現は異なるけど、要旨、自国の信奉する民主主義を移植し植え付け、遠隔操作で他国を戦争へと誘う。そういうスタイルの国なんだと。
本文中のトッド氏の指摘の通り、パクス・アメリカーナは、旧ソ連の瓦解で、東西冷戦が急に終結した反動として起こったのは確かである。
二項対立が消失し、急に、アメリカ一極で中心の世界観が90年代から席巻した。
経済面で語られた双子の赤字なんてのもいつしか語られなくなって、全世界にアメリカは基地を置き、遠隔操作で戦争参加(いや、惹起?)できるようになった。
併せて台頭した「経済のグローバル化」なるキーワードは、実際には新たな植民地支配の思想だ、というどぎつい批判も出てきたりする。
基地に抑圧されていると感じる国々からは、蛇蝎のように嫌われてきたが(ファストフードや映画など、文化は享受するくせにね)、パクス・アメリカーナのありようは、僕らが知らされている限りではある程度、奏功してきた。
だが今やアメリカは公開データでも知られる通り、少子高齢化で疲弊している。それは新しいことを厭う保守化が進むことにもなる。平たく言うと内向きになってごね出す。
ついには、「金払え、さもなきゃ世界警察を辞めるぞ」宣言をする不動産屋が大統領になったりした。
次も当選したらどうする?として
「もしトラ」なんて言っている。
ドラッカーが泣いている。
人類学的・地政学的な議論の接合の妙?
この辺までは、既存の評論などでも論じられてきたことなのだけど、前の章までに述べていたこととの接合がユニークに思えた。
日本やドイツといった旧枢軸国は家族システム(つまり社会の最小単位団体)が同類項だが、戦勝国とは違う、そうすると社会の体系や捉え方も非西洋にシンパシーを持ってしまう(無意識レベルで)。
途中で出てきた例示が古いんだけど😅、ナポレオンとロシアの対決のときに、仏独は連合を組んでいたという。しかし劣勢になるとドイツはフランスを裏切ったりもしていると。
もちろん国際政治学の解釈ではきちんと合理的算段が説明をつけられるんだろうけれど、その根底において、(もともと論陣の布石として、後進的・非西洋的と位置付けてあるのだが)ドイツには、ロシアのシステムへのシンパシーがあるんじゃないのかというのがユニークなのだ。
まあ、時代がこちらにくだっても、かつて東独は実際ソ連配下だったし?
アメリカは、欧州の盟主としてのドイツが、没落しつつあるアメリカの秩序を守るために今後も戦ってくれるか、猜疑心の眼差しで見ているのではないか?
中露が台頭しそうになったら、アメリカを切るのではないか?
かつて、ナポレオンを裏切ったみたいに。
この辺が、フランスの知識人たるトッド氏のユニークネスかも。
フランス人独特のドイツ観が反映された分析というか。
人口学者たるトッド氏の置いた布石として、アングロサクソン系の家族観、ひいては社会構想は世界の約25%でしかないと判明している。
「周りは敵だらけ」に見えるアメリカの猜疑心が根深そうなのは(明示ではなく行間から)伝わってくる。非西洋の僕の感覚は邪推かもしれないが。😅
そういう西洋/非西洋という二項対立モデルで敢えて貫く限りは、アメリカはわざわざ、ドイツをロシア(への無意識シンパシー)から引き剝がすために、武器供与させたり自陣サイドに居させるための手間暇(踏み絵?😅)をかけている(?)、とも見えなくはないかな。無理筋?うーむ。
トッド氏自身は、世界が平和裏に、社会ダーウィニズムがかつて妄想したような単一化(※)ではなくて、相対的に多様的に文化文明を相互尊重しながら分裂して、その分解の果てに結果として、西洋社会の統治が終焉すればよかったとしている。
でも実際には、西欧の思考回路自体が招いている「コンピュータのゼロイチ思考」、「白黒つけようぜ思考」のせいか、先進の西洋社会v.s.後進の非西洋という闘いをセルフプロデュースしちゃっていると。
国際関係を論ずる学者たちが警鐘してきた明示の対立構造のほか、家族観や社会構想の背後にある無意識レベルでも。
そして人の数は、アングロサクソン系の家族観による陣営が絶対的に不足しているんだよねと…😅
翻って、日本の政治家は、アメリカが老いて没落していく過程で(短期的な経済の好調は数字が残るし認めざるを得ないが😅)、ロシアがウクライナに勝って「力による現状変更」が相成った暁に、自国に降りかかるかもしれない災厄について、考え抜いて備えているんだろうか?ということは素朴に不安に思った。
それは総合知の話であって、ただただ武器を増強するだけのことではなさげ。ジョセフ・ナイ教授じゃないけど、ハードパワーとソフトパワーは両輪のはずだ😅。
現実においても、なんだか自発的なプランじゃなく、アメリカのおさがりの武器を買わされているだけ疑惑って絶えないし。僕の邪推でありますように🥶
第5章
奇妙なねじれ
冒頭の再整理で、なんとも逆説的状況が提示される。
アメリカの陣営は、日本もそうだが、個人主義で個々の幸福追求権を最大限尊重しましょうというイズムだ。しかしそれは自国の内部に限っているよねと。外部に対してはダブスタだと。世界中に介入して、アメリカ式の民主主義を押し付けだす。
他方、ロシアは、内部が統制的、専制的なのだけど、外部に対しては多様性を志向していると。外部文化・文明は、外部のままでいいという放任が、非西洋の国々のシンパシーになり、追認されているんではという。既述の、経済制裁に参加しなかった国々など。
多宗教多民族はアメリカも同じはずだが、彼らは国内で多様性をというわりに、対外的に自国流の民主主義じゃないとダメだという。
なので皆が矛盾を感じ、小競り合いを生んでいるのでは。
ヘーゲル風の弁証法の出番では?アウフヘーベン!
日本はその中間点に居ると。
アメリカナイズされてきたけど、もともとは非西洋の家族システムだから、仮にロシアや中国の覇権が訪れても調整できるとでも?😅
ただ、この章でも重ねてトッド氏は強調していたが、一人っ子政策が仇になって、中国の人口構成のピラミッドは覇権を取り損ねる数だと。ロシアも合計特殊出生率が中国と大差ないと。13億人居てもいずれ老人だらけだし?
だから彼らも覇権は取れないと言っていた。細目は書いてないけど、派兵したりするケースでいうと、観念で担当地域はある、しかし具体的な担い手が居ない、みたいな?
たらればだが、もしたった今、アメリカが没落したら?
池上氏のもじりが面白かった。
実際には笑い事じゃないけど😅。
かつては脱亜入欧といっていたが、アジアの中の日本の役割を大真面目に考えないと埋没してしまう、脱欧入亜し直すときなのかなと。かつて技術移転してあげた国々が昇り龍なんだものね…。絶賛埋没中かも。
僕が用いたパクス・アメリカーナという単語は、トッド氏は本文中で一度も用いなかったが、この本の題名にある、アメリカこそが問題だというのは最終盤のこの辺にようやく係ってくるのかなと。
世界警察アメリカが疲弊で膝をつくときが来そうな中にあっても、アメリカは理念先行で、自国流の民主主義を押し付けるべく今も奔走している。
そういう分裂症的なアメリカこそが世界の問題なのではという問題提起。
ところで日本の読者に向けて、トッド氏は助言3か条を挙げていた。
だが、日本では改憲も視野に入れないと難しく、今すぐにはちょっと😅。
アメリカ依存を脱して核武装しろ
中立国宣言をしろ
子供を増やせ
一口にいうと、
核を持ったスイス(永世中立国)になれ、人口を増やさないと国が亡ぶよ
ということらしい😅。
歴史学者兼人口学者の警句、日本の政治家には一つも達成できなさそう。ヘビー🥶。
今後の見通し(順不同)
最後の締めくくりに記載があったわけではないのですが。
文中、池上氏は10年戦争くらいの長期化を言及されていた。
トッド氏は、既述の人口ピラミッドの件から、5年後にロシアも、支える中国も人口の激減期が来ると。
だから、国力を気にしている参謀みたいなのが居て、プーチンがそれに傾聴すればだけど😅、5年は見た方がと述べていた。
ただ、ここに来て(執筆時点の話)、プーチンの停戦の用意発言がまたありましたよね😅。ゼレンスキー大統領は、周りを振り切って継戦路線みたいですが…。
僕も崇高な理念って嫌いじゃないのだが、しかし、アメリカほか、支援国政治家たちが分断され、国内の人気取り(予算の健全化?)のためにウクライナを見放しだしている現状、死屍累々のジリ貧なのはどうなのかなあとも…。国破れて山河在り、城春にして草木深し…。
総じての感想、まとめ
総じて、トッド氏は「自分はロシアを分析はしているがロシアによる侵攻のシンパじゃないよ」と断りつつの立論で抑制的だったと思う。
池上氏はインタビュアーに徹していて、まあ、挑発的な発言もまぜっかえすこともなかったようだ。日本人が知りたそうなことを無難に質問されていたのかなと。
既存の議論の確認をしながらなのでボリュームが増え、編集で消えた面もあるのかな😅。
しかし現在進行中の戦闘についての対話だからか、不確実性を断りつつであって、知的誠実性を感じさせるが、ぶっちゃけ回答はグレーのまま。
例えば小泉純一郎元総理ふうの、スパッとワンフレーズのわかりやすさみたいなものは期待してはいけない。
動画界隈のネトウヨ番組なら、とにかく言い切りや断定で溢れているので、そういうのをご期待される方々はそちらへどうぞ。
思想信条の自由があるし、そういうニーズの否定はしません。ただ、この本はオススメしないです😅。
ともあれ、アメリカが没落した後(仮)は、本当の意味での多種多様な国家群が乱立する世界になって、かつ中国やロシアも覇権を取れるほどの人口はないとなれば、多極世界における相互均衡をどうするかのビジョンの用意が今から必要な気はしました…。
ぜひ、読んでみて下さい👍
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