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発達障害当事者がオープン就労/クローズ就労の両方で働いてみて分かったこと

「仕事や人間関係がうまくいかず、悩んでいろいろと調べてみたら、どうやら原因は発達障害にあるらしい。病院を受診して発達障害の診断も受けた。では、その診断結果を会社に伝えるべきか——」

発達障害の診断を受けたことを会社に伝えるかどうかは、とても大きな問題です。

発達障害の特性が原因で、仕事や人間関係などに困りごとが現れている以上、何らかの形で支援してもらいたい・助けてもらいたいという気持ちは当然あります。

その一方で、「上司や同僚に理解されなかったらどうしよう」「待遇が下がったり辞めさせられたりすることはないだろうか」など、さまざまな不安も湧いてきます。筆者もまさに、発達障害の当事者としてこのような悩みを抱えていました。

30 代で自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠如・多動性障害(ADHD)の診断を受けてから 5 年。その間に私はオープン(障害開示)就労とクローズ(障害非開示)就労の両方を経験しました。

今回の記事では、筆者がオープン就労とクローズ就労のそれぞれで実際に働いてみて、どのようなことを感じたのか、実体験から得た学びをご紹介します。「障害をオープンにするかクローズにするか」で迷っている方のお悩みが解決できるよう、何かのヒントとなれれば幸いです。

オープン就労/クローズ就労の 3 つのパターン

まず、オープン就労とクローズ就労のパターンを整理しておきましょう。「オープン就労=障害者雇用」「クローズ就労=一般雇用」と考えてしまいがちですが、実際には以下の 3 つのパターンがあります。

1-1. 障害者雇用枠で働く(オープン就労)

一般的にオープン就労としてイメージされることが多いのがこちらです。障害者雇用枠で働くためには当然ながら障害のことを会社に伝える必要があります。

ただし、会社側と相談のうえで「人事部門と直属の上司だけに伝える」というように、会社のなかで障害を開示する範囲を「業務の遂行や支援のために必要な範囲に限る」ことは可能です。

1-2. 一般雇用枠で障害を非開示にして働く(クローズ就労)

一般的にクローズ就労としてイメージされることが多いのがこちらです。発達障害があったとしても、「障害特性をセルフケア(自己対処)でカバーできている場合」や「障害特性による苦手や困難が、仕事をするうえで影響を及ぼさない、もしくは許容できる場合」には、障害を開示せず一般雇用で働いている方も数多くいらっしゃいます。

1-3. 一般雇用枠で障害を開示して働く(オープン就労)

一般雇用枠で障害を開示して働くことも可能です。障害者手帳の有無や雇用の形態を問わず、障害によって社会のなかで困難さを抱えている人であれば誰でも、会社に合理的配慮の提供を相談することができます。

「もともと一般雇用枠で働いていた人が、在職中に発達障害の診断を受け、障害者雇用枠に切り替えず一般雇用枠のまま合理的配慮を受けて働く」といったケースも多くあります。

私が発達障害を疑って病院を受診し、診断を受けたのは、転職して 4 か月目のことでした。転職前の会社はマニュアルが整備されており、スケジュールや手順がキッチリと決まっている仕事が多かったため、苦手を感じつつもどうにか仕事になっていました。

ところが転職後の会社では、段取りをすべて自分で考えて仕事を進めなければならず、仕事がまったく回らなくなってしまったのです。仕事の優先順位やスケジュール、タスクの管理ができていないと上司からたびたび注意され、私は深く落ち込んでいました。

そんなとき、たまたまインターネットで見かけた記事に、発達障害のことが書かれていました。特性による困りごとが自分の状況にピタリと重なり、「もしかしたら……」と思って病院を受診したのです。

2-1. 良かった点

①会社が相談に乗ってくれて、仕事を続けることができた

仕事で成果が出せていなかったこともあり、診断を受けたことを会社に伝え、そのまま退職するしかないと思っていました。しかし社長や当時の上司が親身に相談に乗ってくださり、「とりあえず働き続けながら、仕事内容を調整してみよう」ということになりました。

私は家族を養う立場でしたので、これは本当に幸運でした。もしそのまま退職していたら、きっと転職もままならず、家族の生活がどうなっていたか分かりません。

②同じ会社のなかで新しい職種にチャレンジできた

もし転職によって職種を変えようとしたら、30 代半ばという年齢的にも、未経験では到底再就職はできなかったでしょう。同じ会社で働き続けながら新しい職種にチャレンジできたのは、とてもありがたいことでした。

2-2. 反省点

①職種を変えただけでは、うまくいくとは限らない

営業から Web 担当に職種を変えてもらったものの、未経験だったこともあり失敗続きで、なかなか成果を出すことができませんでした。

「こんなに配慮を受けているのに、それを裏切るようなことをしている」という後ろめたさがつのり、徐々に上司にも相談しづらくなって、結局 4 か月後に自分から退職を願い出ることになってしまいました。

「発達障害者は IT や Web 系の仕事が向いている」という話を見聞きしていたため、職種さえ変えれば何とかなるだろうと、私は心のどこかで淡い期待を抱いていました。

しかしどんな仕事でも、未経験であれば最初からうまく行くはずはありません。後から考えれば「そこで焦らずに会社ともじっくり相談して、長期的に取り組むべきだった」と思いました。

②すべての会社が障害のある方のサポートに慣れているとは限らない

よほどの大企業でもない限り、社内に障害者雇用の担当者や専門部署のある企業はほとんどありません。

今にして思えば、専門の部署や担当者がいない会社で配慮が受けられただけでもとても幸運だったのですが、当時の私はそれを理解できていませんでしたし、会社や上司と根気よくすり合わせを行うだけの知識も気力もありませんでした。

3. オープン就労(障害者雇用枠)で働いてみた

前職を退職して 1 か月後、「発達障害の診断を受けていることをオープンにする」ことを決めて転職活動に臨みました。その理由は、前職で仕事がうまく行かなかった経験からすっかり自信を失っており、「これまでと同じように(クローズ就労で)働くなどとてもできない」と思っていたからです。

ご縁があり、社会福祉事業を行っている企業に事務職のアルバイトとして採用いただき、障害者手帳が取得できた時点で障害者雇用枠へと切り替えました。

3-1. 良かった点

仕事でのストレスが大幅に軽減された

働く自信を無くしていた私にとって「障害があるのに雇っていただけた」ということ自体がとても大きな心の支えになりました。

会社自体が福祉事業をやっているため障害者に対する周囲の理解もあり、本当の自分を包み隠さなくても良いという安心感を得ることができて、仕事のストレスが大きく軽減されました。

3-2. 反省点

①障害者雇用枠であっても、無条件に配慮を受けられるわけではない

企業が障害のある方に提供する「合理的配慮」とは、障害が原因となる困難さのうち、セルフケアをしても対応しきれないことであり、かつ、企業等の側にとっても重い負担がなく提供可能な範囲のものとされています。

また法律では「障害者から何らかの助けを求める意思が伝えられた場合に、合理的配慮を提供する」と定められており、障害者の方から会社に対して申請が必要です。いくら障害者雇用されていると言っても、自動的にあれこれ配慮をしてもらえるわけではありません。

当時の私はこのこと理解できておらず、転職した当初は「障害者なんだから、配慮してもらって当然だろう」というような不遜な態度を取ってしまい、上司から注意を受けてしまったこともありました。(注意されたことがきっかけで気が付くことができたので、注意してくださった上司の方には今でもとても感謝しています。)

②障害を「自分の個性」と捉えることは、障害受容とは違った

ある日、上司と面談をしていたときに、私はなんの悪気もなく「障害者ですが、一生懸命がんばります!」という言い方をしました。しかしそれを聞いた上司は私が思いもよらない言葉を返してきたのです。『厳しいことを言うが、キミは障害があることを「仕事ができない言い訳」にしているんじゃないか』と。

そんなつもりじゃないのに——最初はそう思いました。しかし後からじっくり振り返ってみると、確かに言い訳をしていたことに気が付きました。

  • 私は発達障害だから、人より仕事ができなくても仕方がないんです。

  • 発達障害だから、人より給料が稼げなくても仕方がないんです。

  • 発達障害だから。発達障害だから……

私はいつの間にか、何をするにも「発達障害だから」という言葉をくっつけ、そうではない人と比べてものごとを考えるようになっていたのです。

インターネットではよく「発達障害があるということも含めて、自分の個性だ」というように語られていることがあります。それはとても前向きな考え方ですし、私もそう考えることで新たな一歩を踏み出すことができました。「発達障害も自分の一部であり個性だ」と思うことが、障害受容なんだと思っていました。

しかしそれは、一歩間違えば「私は発達障害である」という枠に、自分を押し込めてしまうことになりかねません。

  • 発達障害だから、仕事ができない人間でいなければならないのでしょうか?

  • 発達障害だから、人並みの給料を稼いではいけないのでしょうか?

決して、そんなことはないはずです。

発達障害が「現代の日本社会」という環境において、多くの場合ハンディキャップとなることは残念ながら事実です。映画やドラマのように、発達障害と引き換えに何か特別な才能を得られるわけでもありません。

それでも生きていくしかないのであれば、自分で自分を不幸の枠に押し込めず、少しでも楽しく、充実した人生を歩む方法を探す方が、よっぽど大切ではないか ——「君は障害を言い訳にしているのではないか」という上司の言葉によって、私はそう思うようになったのです。

「君は障害を言い訳にしているのではないか」という上司の言葉がきっかけとなって、私は障害の有無にかかわらず、自分が価値を提供できる=お金を稼げる仕事とはなにかということを模索するようになりました。

このころから『私は性格上、発達障害のことをオープンにし過ぎると、また何でも「私は発達障害だから」という言い訳に使ってしまうかもしれない』と思うようになり、会社以外では発達障害のことを自分からオープンにしなくなっていました。

その後、ご縁があって再び転職することになりました。オープン就労かクローズ就労かで迷いましたが、前職で社会福祉事業に携わりながら障害特性の理解や対策について学んでいたこともあり、「自分でセルフケアしながら、一度クローズ就労にチャレンジしてみよう」と思い立ったのです。

4-1. 良かった点

価値が提供できれば、発達障害の有無は関係なく仕事をすることができる

私は前職で事務職のアルバイトとして働きながら、会社から副業の許可を得て、個人でライターとしても活動していました。そのご縁もあり、転職後はライター職で働いています。

職業柄、仕事の成果は「記事」という成果物で測られることになります。お客様にご満足いただける記事を書けていれば、書いているのが障害者かどうかはまったく関係がありません。人よりも人付き合いが苦手だったり忘れ物が多かったりしても、それで成果に悪影響がなければ問題にならないのです。

また、「記事」という成果物は比較的短い期間で作られますし形もハッキリとしているので、長期の見通しを立てて段取りよく取り組むことが苦手な私にとって、過去に経験した営業職や Web 担当職と比べると目標が立てやすく、自分の特性に合っていると感じました。

自分が価値を提供でき、自分の特性に合った環境の仕事を見つけることができれば、クローズ就労でもやっていけるのではないかと感じました。

4-2. 反省点

クローズ就労がうまくいくかどうかは、業界や職種、働き方など周囲の環境に大きな影響を受ける

発達障害の特性やそれによる困りごとは、人によってまったく違います。私のように「在宅勤務の方が向いている」という方もいれば、「毎日規則正しく通勤して、誰かと一緒に仕事をする方が向いている」という方もいらっしゃるでしょう。クローズ就労をする前に、どういう環境であれば自分の力が発揮できるのか特性をしっかり理解しておく必要があります。

また、自分の特性を理解できていたとしても、それに適した働き方が実現可能かどうかは、業界や職種に大きく影響されます。

「在宅勤務をしたい」と思っても、接客業で直接お客様の応対をする職種では、在宅勤務はどうしても難しくなります。また、在宅勤務が可能な業界・職種だったとしても、すべての会社が在宅勤務を許可しているわけではありません。

自分の特性と、自分が提供できる価値をふまえた上で、自分に合った働き方ができる環境を見つけ出さなければならないところに、クローズ就労の難しさを感じました。

5. 自分に合う仕事環境を、どのように見つければ良いのか?

オープン就労で会社に合理的配慮を求めるにも、クローズ就労で自分に合った働き方や仕事環境を見つけるにも、自分の障害特性をよく理解し対処法を学んでおく必要があります。

そのうえで、自分が提供できる価値は何なのか、仕事を通じて自分は将来どうなりたいのかを考え、就職先を探さねばなりません。これを自分一人だけで行うのはとてもたいへんです。

そんな方々のサポートを行っているのが、就労移行支援事業所ディーキャリアです。

就労移行支援事業所は、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業)

就職活動はものごとを段取りよく・計画的に進めて行く必要がありますが、発達障害の特性による「苦手」で上手く進まないという方もいらっしゃいます。

ディーキャリアでは、就職支援スタッフが一人ひとりの「働く」に寄り添った支援をおこない、就職活動の軸探しだけではなく、スケジュールを立てること、自己 PR(自分の強み・長所の発見)をすること、予定通りに行動をすることをサポートしています。

就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。

「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。


より豊かに、当たり前に人生を楽しめるように。
利用者様の一人ひとりの成長をサポートします。
川越市就労移行支援、川越市就労継続支援A型、計画相談支援。
グリーンピースファクトリー

〒350-1123 埼玉県川越市脇田本町14-29杉田ビル2F


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