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2022年8月25日の備忘録〜『野獣死すべし』っていうタイトルの映画、多くね?

 この日は朝から鬱状態が酷かった。昨日のカウンセリングでの医者の対応の悪さが引き金でなのは間違いないが、死にたくもないのに「死ぬ以外に今のこの現状を打破することができない」そのことばかり考えてしまい、ベッドから起き上がれず食事もできぬまま夜まで過ごしてしまった。

 少しでも外出して気分を変えなければと思い、渋谷まで行ってHTC渋谷にて開催せれていた夏のホラー秘宝まつり2022で『野獣死すべし』を鑑賞。

 5度も映画化された大藪春彦原作の『野獣死すべし』でもなければ、クロード・シャブロルの傑作『野獣死すべし』のことでもなく、イタリアン・ホラーの巨匠ルチオ・フルチが監督したユーロ・クライムだ。考えれば『野獣死すべし』というタイトルの映画が洋邦問わず多すぎじゃねぇか。

 そんなくだらない戯言は置いといて、マフィア幹部の主人公が預かり知らぬ策謀や裏切りに翻弄され続ける冷たいムードで、マフィアたちが密輸の権益のために獣のごとき諸行無常なバイオレンスを全編に渡り繰り広げられる。『野獣死すべし』という数多あるタイトルも偽りではなかった。大袈裟に言っても『仁義なき戦い』みたいな映画だ。タバコ密輸マフィアの幹部が次々と暗殺されるシークエンスで流れる音楽は、東映やくざ映画のようなBGMで、東映映画ファンは観ながらニヤニヤすること請け合いだ。

 そして何よりこの映画がゴア描写の匠ルチオ・フルチ監督作であることを忘れてはいけない。中盤と終盤にそこそこの銃撃戦が1シーンずつあるぐらいで、全体的にそこまで派手なアクションがあるわけではない。だが、人間が惨たらしく殺されたり拷問されるゴアシーンになると急に脂が乗り出す。銃で撃たれた人間が血飛沫と肉片を撒き散らしながら死んでいく瞬間を、『ビヨンド』や『地獄の門』を撮った時みたいにケレンたっぷりかつ過剰に撮る。小口径の銃で喉を撃たれるショットに至っては、「大口径の銃で撃たれたのか」としか思えない過剰かつ大袈裟な肉体破壊描写で強烈。競馬に勝ったオッサンが次の瞬間唐突に銃を口に突っ込まれて射殺されるシーンなんかギャグスレスレで笑う。

 また、女性の顔面が火で炙られていくのをじっくり撮っているのなんか『サンゲリア』の眼球串刺しシーンみたいだし、銃で蜂の巣になった男が崖を転げ落ちるスローモーションなんか『マッキラー』のクライマックスみたいで、セルフパロディ的な暴力演出が随所にあるのも憎めない。

 劇中で一番ギョッとしたバイオレンスは、敵対組織の殺し屋が撃ち殺したマフィアの顔面にさらに機関銃を乱射して、顔面がグチャグチャする描写だ。ゴアのインパクトもさることながら、既視感があるなと思い返したら、クエンティン・タランティーノ『イングロリアス・バスターズ』だった。ヒトラーを撃ち殺したイーライ・ロスがさらにヒトラーの顔面に向けて機関銃を連射する際の撮り方が一緒だったからだ。フルチ・ファンを公言しているタランティーノのことだから、この映画も観ていて意思的なのか無意識的なのかオマージュしたに違いない。

 映画が思いの外面白かったせいか、「ホラー映画で鳴らした監督が撮る犯罪映画は面白くなりやすいのか」、何てことを考えながら鑑賞後帰路に着いた。思い返せばイタリアン・ホラーの祖であるマリオ・ヴァーバも晩年期に『ラピッド・ドッグス』というユーロ・クライムを撮っていた。あれもストロングスタイルの犯罪映画、それでいてイタリア映画的な灰汁(変態性&バイオレンス)濃厚な快作だった。ユーロ・クライム、門外漢レベルで全然観ていないがdigれば奥が深い映画ジャンルなのかもしれない。

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