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『ビヨンド・ユートピア 脱北』/映画感想文

『Beyond Utopia』

2024年初投稿。今年もよろしくお願いいたします。
新年にふさわしく、重苦しい作品でスタートです。

1. あらすじ

脱北者とそれを支援する韓国人牧師を追ったドキュメンタリー。

①単身韓国に脱北した母が息子を呼び寄せようとする
②国境付近で立往生となった5人家族(老婆と子供含む)

この2件が中心。
ちなみに①は失敗、②は成功。

2. 点数

74点

そもそもドキュメンタリーに点数つけるのどうなの問題はさておき。

ニュースなどではなかなかお目にかかれないナマの映像は貴重。
拷問シーンは驚いた。壁に飛び散った血の赤さよ。。

脱北のリアル(国境を越えたその先)について理解が深まる。
エンタメ性は皆無だが、世界の孤高をひた走る北朝鮮を知るにはよい。

3. 感想

近くて遠い国

日本に住む以上無視できない国、北朝鮮。

拉致やミサイルで常にお騒がせ(どころじゃない)してくれる厄介なやつ。
独裁で、国交なくて、貧困で、軍事暴走してて、、

誰もが知っているこういった背景のおさらいができる本作。
北朝鮮の誕生の経緯、教育制度などの解説パートがあり、意外と知らない事実が多いことに気付く。

個人的にはマスゲーム練習の過酷さ、農民が台車で人糞を運んでいることはなかなかの衝撃だった。

怪しいやつら

脱北には当然様々な人の協力が必要となる。
主人公の牧師さんのもとにはひっきりなしに助けを求める電話が鳴るため、全部に手が回るわけではない。
そこで、北朝鮮、隣国の中国や渡航先のタイなどのブローカーの手を借りることとなる。

このブローカー、いわば現地コーディネーターみたいなもの。
脱出経路や移動手段の確保、警察への賄賂交渉などありとあらゆることをしてくれる裏の稼業。

しかしこいつら、一筋縄ではいかない。
日本語で「ブローカー」ときくと、どこか胡散臭いイメージがあるが、まさにその通り。

若い女の子は風俗に売り飛ばしたり、カネでゆすったりやりたい放題。
人助けをしているのに真逆のことをしているという何とも奇妙な存在。

家族の深夜ジャングル越えのシーンでは、わざと同じコースを歩き回って疲労・困惑させて、
「ゴールまで行きたいならカネを積め」
となんどもアコギな脅し。

雇い主的な存在の牧師さんに対してそんなことするんかい、嫌われて依頼来なくなるぞ?
と思ったが、きっと通常の商慣習が妥当する世界のではないのでしょう。

牧師さんとしてもこういう怪しいやつらを使わざるを得ないんだろうな。

現代の浦島太郎

国境を越えて初めて「外の世界」を知る。
文化がある、自由がある、ポップコーンがある。

「他の国はもっと貧しくて過酷だぞ?」
と生まれたときから神元首から洗脳されてきたが、これが全くの嘘だとわかる。

その心情たるや。
神が嘘をついていたなんて信じたくない、でも目の前の光景は紛れもなく真実で。

長年の生活で思考が染みついてしまったおばあちゃんが特にこのジレンマに苦しんでいた。

「はいー、いままでのは全部嘘でした~」
なんて言われてあっさり順応できるわけがない。

体も脳も疲弊しただろうが、無事韓国までたどり着けたようでなにより。
長生きしてください。


朝鮮問題をおさらいしつつ、脱北のリアルを知るのはもってこいの作品。
明るい気分には決してなれませんが、社会派作品がすきな方はぜひどうぞ。

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