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雲の時間

#10年前の南極越冬記  2009/10/30

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。

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南極は春から夏へと季節が変わりつつある。日照時間は日に日に長くなり、あと一ヶ月もしないうちに白夜になる。気温がまだ低く日射量も多い今の時期は、オゾンホールが大きくなり地上に降り注ぐ紫外線量も増える。一日外にいるとすぐに顔が日に焼けて黒くなるし、うっかりサングラスを忘れたりすると目が痛いし涙は出るし大変な目に遭う。曇っていて太陽が出ていなくとも、紫外線はたっぷり降り注いでいるので油断はできない。

オゾンホールの原因と言われているフロンガスの使用が、本格的に制限されるようになってから20年近くが経った。そろそろオゾンホールが小さくなる傾向が見られてもおかしくないと囁かれているけれど、残念ながら今年の観測結果ではまだまだオゾンホールは健在だったようだ。

オゾンホールの大きさは、地上11~50キロ上空の成層圏を漂う塩素酸化物(ClOx)が鍵を握っている。この塩素酸化物が触媒となってオゾンを破壊し、オゾンホールを作り出す。塩素酸化物は、成層圏に入り込んだフロンが太陽光によって分解されてできることが知られている。「フロンガスがオゾンホールの原因」と言われているのはこのためだ。

もうひとつ、極成層圏雲(PSCs)という氷の雲がある。冬の間、南極上空の成層圏でマイナス80℃以下になると発生するこの雲は、空気中の汚染大気(エアロゾル)から塩素成分(Cl2、HOCl)だけを残して、他の物質は氷の中に閉じ込めてしまう。空気中に残った塩素成分は、フロンと同じように春先の太陽光によって塩素酸化物になる。ちなみに、北極の成層圏ではマイナス80℃以下になることが少ないので、極成層圏雲は南極上空にしかできない。

いつまでたっても小さくならないオゾンホール、「オゾンホールは北極にはなく、南極にしかできない」ことを考えれば、個人的にはフロンよりもエアロゾルの方がオゾンホールの原因として疑わしい。実際にそう考える研究者もいる。ただし、硝酸水和物や硫酸水和物を含むエアロゾルの発生は産業革命以降のこと。いずれにしてもオゾンホールの原因は「人間」であることに間違いないようだ。

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