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リーダーの心得

#10年前の南極越冬記  2009/9/2

ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。

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いよいよ明日から4泊5日の予定で、ラングホブデの観測旅行に出る。今回のオペはこれまでと違って、僕にとっては特別な意味合いがある。初めてリーダーとして野外に出ることになるのだ。この半年の間に何度も野外に出て来たが、常に「自分がリーダーならどうするか」ということを頭に置き、それぞれのリーダーや越冬経験者の元で経験を積んで来たつもりだ。旅行中に疑問に感じたことは、バーや風呂場でリーダーや先輩隊員を捉まえ、質問をぶつけて来た。自分が参加しないオペのミーティングも、横で話を聞いていた。それもこれも、全てリーダーをやるための準備のつもりだった。

今回のオペにも、いろいろな不安要素がある。長時間の海氷上の移動、未知の領域でのルート工作、実質3パーティが同時に野外に出ていること、まだ野外経験の少ない隊員、そして何よりも南極の気まぐれな自然。5日から6日にかけて天気が悪くなる予想も出ている。多少の停滞は覚悟の上での出発になる。

リーダーとして、オペを成功させ皆の安全を守る判断をすることはもちろんだが、個人的にもうひとつ、心がけようと思っていることがある。半年前に、前次隊の隊員から「自分がリーダーをするときは、参加してくれたみんなが楽しめる旅行隊にしてあげてよ。」と教えられたそのことだ。

僕は任務上、隊の中では野外に出かける機会がかなり多い。ラングホブデにしても、これから何度も足を運ぶことになる。でも過去と比べて3/4に越冬隊の人数が減った今では、基地の維持に手一杯でなかなか野外に出ることができない隊員も沢山いる。

旅行隊の頭数を揃えるのもなかなか大変だ。なるべく多くの人に野外に出てもらえるように、メンバーの調整をするし、また誰かが野外に出れば、その分基地の管理の仕事を他の誰かにお願いしなければならない。消火体制や、レスキュー体制も通常とは異なる体制を敷き、それぞれの隊員には自分の基地での仕事にどうしても不安要素を抱えたまま、オペに参加してもらうことになってしまう。何度か越冬を経験している隊員は、自分が野外に出たい気持ちを抑えて、初めて南極に来る隊員が野外に出れる機会が増えるように基地に残ってくれているのだと感じる。

それぞれの色々な事情や助けがあって、初めて成立している旅行隊だ。旅行隊のメンバーの中には、もしかしたらラングホブデに行くことができるのは、最初で最後の隊員もいるかもしれない。僕も初めてのリーダーで色々とテンパってしまうだろうけど、気持ちに余裕がある限り「メンバーが楽しめるオペ」にできるように心がけたい。

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