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Re:tears

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周りの大人より、ほんとうに少し。勝手に思ってることだけど近い位置にいて、寄り添ってくれてると感じてる大人に、はじめてわたし自身が自分のことをすこし話すことのできた日。

試合の帰り、真実を告げたのは彼の運転する車の後部座席。
流れてゆく車窓に目を向けながら、ラジオが支配する空間で。澄ましたなんでも無いような顔をしながらタイミングを伺っていた。肋骨の裏の心臓は静かにすごくかったのを憶えている。
車が信号で止まった瞬間、ラジオの音も消えた。ここだ。直感的、本能的にそう思った。
第六感とかそういうのはあまり信じて無いけど心の奥底の深いところで感じた。
ここしか言うタイミングは無い、って。

呟いた一言に。

「先生」

続けたのはいまのわたし自身に関すること。
明るくなるように調節したはずの自分の声は苦しげに絞り出され震えていた、それだけを鮮明に憶えている。

一瞬の沈黙が永遠に思えて仕方がなかった。
ハンドルの縁を撫でる彼の指先。
後写鏡越しにわたしを見据える視線。
その眼鏡の奥から真っ直ぐに見る眼を同じようにわたしは真っ直ぐに見つめ返すことができなかった。

信号は青になり、わずかな揺れとともに音もなく車は走り出した。
途切れていたはずのラジオの音がやけに大きく聴こえたのはきっと気のせいじゃない。
すべての時が動き始めた、わたしだけを置き去りにして。ふたたび廻りはじめたのを肌で感じた。

「うん。嶺葉が自分から話すの待ってた。ちゃんと伝えてくれてありがとう」

彼からの言葉に一瞬の中の永遠を駆けていたわたしがそこに時の流れを再確認した。
そんなようなことを彼は言っていたような気がする。
不確かなのはなんでか、なぜならわたしそこで深い暗闇に意識を引っ張られたから。


「嶺葉」
そう名前を呼ばれ、窓から入り込む風が頬を撫でてハッとして目を開けた。
「隣。置いておいたから」
言葉少なに伝えられても、寝起きの細胞はうまく機能してくれはしない。
右側に目をやるとそこに置かれていたのはポケットティッシュ。
顔を向けた衝撃で目じりからシートにこぼれ落ちたものを見て置かれたそれの意味をようやく理解した。鼻筋に痕を残しているのに気づいて。
車はまだ走り続けていた。あとから知った事実、彼はわざと遠回りしていたらしい。

Re: tears
今回は物語のように描いてみました。たまには違うテイストもいいかなって思ったので。まあ気分転換みたいなものですよ。
読んでくれた貴方にすこしでも残るものがありますように。

ここでひとつ、ちょっと「中の人」のお話を。

わたしは去年のある事件から人を信じられなくなってる。嶺葉を本気で辞めようって思ってたこともある。

人との関わりに、壁を感じるようになったから。
人から逃げ続けて、傍にいてくれて、わたしの話を聴く時間をちゃんと取ってくれてる彼らの優しさを無下にした。
ずっとずっと前からあったけどその違和感は高校生になってからより顕著になった。

人を信用して傷つけられて殺されたから。
「だったら最初から人間関係に重きを置かなきゃいいんだ」っていう自論を導き出してそれに従ってきた。
向けられた優しさを無条件の愛として受け取ることができない。私自身が拒絶して撥ね付けてるから。
向けられた視線の、声の温度。すべてが優しい。
わたしを丸ごと包むような慈愛に満ち満ちている。
そんな優しさを受け取る価値がないと思ってしまっているから。


昨日の裏垢。ふと過ぎってしまったこと。
わたしは器用なタイプじゃないからみんなみたいに上手く生きれない、っていう苦しさを抱えてる自分がいることには何年も前から気づいていた。
もし、わたしが器用なタイプだったら結果論『白月 嶺葉』が生まれることはなかった。
わたしの生きづらさとか苦しさはわたししか感じることができない。だからこそ私はその苦しさを嶺葉を通して文字にしたい。
そこに誰かの感情とか心に重なるところがもしかしたらあって、苦しさの中を生きるあなたに届けばいいなって思ってる。


読んで下さった方本当にありがとうございました。
ぐちゃぐちゃですみません。
これもひとつ誰かに届きますようにって祈ってます。

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