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【Femtech-X】#2後編 vivola株式会社:女性医療×データ解析スタートアップ

前編では、不妊治療のデータアクセシビリティをAIで改善するvivola株式会社CEOの角田 夕香里氏に、会社を立ち上げた経緯や不妊治療患者向けサービス「cocoromi」についてお話いただきました。

前編はこちらから

※インタビュー動画はFemtech Community JapanのYoutubeチャンネルで公開しています。
https://youtu.be/IA_zIMywxpM



(2)生殖医療領域に特化した医療者向けサービス「vivola-Analytics」

⚪︎ローンチの背景とサービス内容

──cocoromiから見えた課題感があったのでしょうか?

データ解析を突き詰めていくと、どんどんデータベースが複雑になっていき、そのときに気付いたのは、じゃあ本当にこの患者様の採卵成績を上げるためには?成熟卵率上げるためには?もっとこういう用量・用法・トリガーはこの種類を使うべきだったんじゃないか?ということが、細かくデータ解析できるようになってきたんですね。

ただ一方で、それを知らせる相手が患者様であるべきなのかというところに少し疑問がありました。もちろんこれがヘルスケア、ダイエットであれば自分で何かできることもあるかもしれないんですけど、やはり「治療」になるので。

またそれをアプリで提示していいかというのも医師法の観点から難しく、医療側にもう少し個別をところのサポートをすることで、最終的には患者様の治療環境を改善するというの仕方もあるんじゃないかなと考えて、医療機関向けのサービスを作っています。

──「vivola-Analytics」のサービス内容について教えてください。

2023年8月にリリースした医療機関向けのサービスで、不妊治療を行っている医療機関の電子カルテに蓄積されている様々な患者様のデータを分析しやすいデータベースとして構築し、データを見える化しています。

臨床上重要な指標というのを医療機関ごとにカスタマイズして、臨床指標を様々なグラフで表現したり、患者様の特性でフィルターをかけれるようにしています。

例えば「20代のAMH(※)がこれぐらい低くて、過去に内膜症持っている人は、どのような治療をしてどのような結果が得られたのか」ということをすぐに分析ができる環境を作ってご提供しています。先生たちからすると類似症例の検索や、もう少しドリルダウンしてこのサブグループで解析するとどうなるか?等を手間をなく素早く解析ができるツールです。 

(※AMH:アンチミューラリアンホルモンの略称
AMH検査(卵巣予備能力検査)卵巣に残っている卵子の数を測定)

vivola-Analytics イメージ

不妊治療、特に高度生殖補助医療と呼ばれる体外受精はホルモン剤を使用するのでその種類や用量、用法は医師の経験値としてで院内に溜まっているとしても、データ解析ができる状態ではないことが多いです。

院内のシステムでさえ分散してデータが蓄積されているケースもあります。血液検査のデータはこっち、エコーのデータはあっちと。そもそもそのひとりの患者様のデータをちゃんと繋げて解析ができる環境になっていないというのは、医療業界あるあるで不妊治療の領域も同じです。

まずは一元管理できるシステムに集約して、そこからクレンジング加工して、私たちの統合データベースの方に入れ込むことで、簡単に分析ができるような画面を作っています。先生方には臨床に集中していただき、データは我々が外部IT部門として患者様の治療に貢献できればと思っています。

⚪︎不妊治療分野のデータを扱う難しさ

──どのくらいデータが集まっているのでしょうか。

具体的な数字は公表していないですが過去数年間の合計データで、1回の体外受精を一周期とすると、数十万周期ぐらいが集まっている状況です。国内の年間の治療周期が約50万件なので、それなりのボリュームがあると思います。

レセプトに載っていない、例えばトリガー時間や成熟卵率のような細かいデータが掲載されている電子カルテのデータを私たちはご提供いただいているので、かなり詳細なデータを保有していると思っております。

だからこそデータクレンジングがすごく大変です。特に医療だけでなくて他の領域でリアルデータを何か解析をするというスタートアップや大企業も含めて結構苦労されている印象です。

──「不妊治療ならでは」「医療ならでは」の難しさとか、工夫されていることとかはありますか?

他の企業が真似しようと思ってもやりたくないと思うだろうなというくらい、かなり膨大な量がありますし、入力があまりきれいな状態ではないので、名寄せ(同じ定義のデータを統合すること)もすごく必要になります。例えば「ホルモン値」という単純な数値であれば、機械の検出限界や人としてありうる数値範囲も決まっているのでそこで閾値を設けてしまえばいいんですけど、例えば「誘発法」という卵胞を育てるための薬の処方はパターンが複数あり、その定義も同じ院内の先生でも揺らぎがあったりします

他のデータと照らし合わせて、どう名寄せしていくか等を、医療機関の現場の先生たちと事前に協議して整理をします。データを整理していくためにデータサイエンティストも必要ですし、医療機関と会話をしていくためにこの領域のことをよく理解してないといけないので、今すごく社内のメンバーは医学的な知識を鍛えられていてよい勉強になっていますし、とても頑張っていてちゃんと成果につながっているなと感じています。

──角田さんご自身は医療系のご専門だったわけじゃないので、患者としてというものをはるかに飛び越えて、かなり詳しくなられた感じですよね。

そうですね。もう先生たちの電子カルテの画面を常日頃、血眼になって見ている感じなので、知らなかった項目の意味を理解したり、先生たちからの様々な要望についていけるように学会で情報収集したり、というのは常日頃やっているかなとは思います。

⚪︎今後の展開

──医療従事者からはどんな要望や期待値があるんでしょうか?

2つの使い方が先生たちから大きく期待されているところであるなと思います。

1つは医療の「品質管理」の部分です。いつもと同じことやっているのになぜか受精率が落ちているとか、胚盤胞というお腹に戻すときの受精卵の状態があるんですけれども、その達成率が落ちているとか。

日々そういうのが年間の治療成績などに影響していくので、月間でデータを見直しているクリニックさんが多いんですね。ラボ対応データとかラボルームの品質管理という意味で、データ指標を見える化していくというのはすごく重要視されているかなと。

もう1つは、治療最適化のためのツールとしてです。難治性(治療が難しく生活面への長期にわたる支障がある)患者様であったり、反復不成功症例(数回やっても結果が出ない)患者様の場合に、「どこの手技を変えたらうまくいく可能性があるんだろうか?」みたいなことを、先生たちは日々臨床の中で考えていらっしゃると思うんですよね。

それが刺激なのか移植の治療プロトコルなのか。私たちは「採卵」「培養」「移植」という各治療プロセスごとに色々な臨床指標を見える化しているので、日々の仮説検証にこのツールを使って、患者様の治療の最適化を考えていくツールとして使っていただきます

(3)不妊治療に特化した臨床に役立つ会員情報サイト「vivola-Insights」

「vivola-Analytics」と同じ時期に、医療情報をご提供するメディア「vivola-Insignts」というものをリリースしました。生殖医療に特化して医療従事者にとって臨床に役立つ情報をご提供しています。ローンチして4~5ヶ月ですが、この領域の医療機関の3割がすでにご登録いただいており、今年中に半分以上を目指しています。

1つはWebセミナーで、学会で有用性の高いご発表をされている先生方が多いのですが、この領域には開業医の先生たちが非常に多く、診療を休んで学会に3日間行くことができない先生も多くいらっしゃいます。そういった先生達にも最新情報をキャッチアップしてもらうためにWebセミナーとして先生にご登壇いただき、毎週水曜日19時からライブ配信をしています。もちろんアーカイブでも見れるので、本当に多くの先生方の学びの場として使っていただいています。

また、論文検索は「忙しくて出来ない」とご要望をよくいただいていたので、インパクトファクターの高い雑誌からお薦めの論文というのを毎月紹介していまして、意外にこれがめちゃくちゃ好評です。ChatGPTを用いた要約や日本語訳をしているので、忙しい臨床の合間に自分が興味あるか・ないかというのがすぐに判断できたりするみたいです。

生殖医療は、日々アップデータがある領域なので、医療の質を保つためにより効率的に勉強していただくためのサイトになるよう運営を工夫しています。

左)vivola CEO 角田氏 右)Femtech Community Japan 皆川
vivolaの「V」のポーズ

終わりに

⚪︎今後の展望

不妊治療の領域でお仕事させていただいていて、先生たちと「難治性の患者さんってどういう方ですか?」というお話をすると、年齢要因だけでなく、具体的に子宮に疾患を持っている方々の例が上がります。

かつ若いときに、例えば何か卵巣の手術とかを受けて外科的な手術で妊孕性(
妊娠するための力)が下がってしまっている患者様とかもいらっしゃったりする。最近は内膜症も患者様の中ですごく増えてきているようです。

そういった疾患を保有して難治性になりうる患者様をもっともっとライフステージの手前で気づけて、例えば症状が悪化しないうちに対処ができていたらこんな不妊に悩まなかったかもしれないというというお話を聞くと、やはり若年層の方々の婦人科の受診率を上げることは必要だと思っています。

月経困難症で「なんかお腹痛いな」とか、「やっぱり人よりも生理痛がかなり激しそうだな」という時に、どうにか婦人科の受診率を上げる仕組みを作れないかと考えています。

他の企業さんとの取り組みに関しては、我々は不妊治療のデータに加え、これからは子宮内膜症などの患者様のライフスタイル、問診、治療データを取得していこうと思っていますので、それを活用して、他の企業さんの商品開発に活かせないか考えています。

例えば保険や製薬業界などで何か商品開発をサポートするでもいいですし、共同で開発するという形でも。ご関心がある企業さんがいらっしゃったらお声掛けいただけたら嬉しいです。

──厚生労働省が2024年の4月から「女性の健康」ナショナルセンターという医療機関を立ち上げました。エビデンスとデータの分野について、どんな人員をこれから強化していきたいですか?

データサイエンティストもしくはデータエンジニアと言われるような人員です。BigQuery(Googleのデータウェアハウス)からAPIで引いてきて、vivolaのデータプラットフォームにデータを見える化するなどデータをうまく取り扱うのは大変スキルがいるので、そのような人材が弊社ではまだ足りてないです。

あとは我々みたいな事業開発と開発を繋ぐ役割のプロダクトマネージャーみたいな方が必要で、ぜひぜひご関心がある方は、まずはカジュアル面談させていただけたらなと思っています。

⚪︎最後にメッセージを!

不妊治療はこの2~3年で社会の捉え方が大きく変わってきていると思っています。「Femtech」という言葉の認知が広まる中で、その中のテーマの1つとして、「不妊」を多くの人に知ってもらい、それが経済損失でもあり、社会的課題である事が認知されつつあると思っています。

特定の方に対する課題であっても、非常に根深く、「社会的なインパクト」は非常に大きいテーマです。弊社の注力している不妊領域に限らず、原体験がなくても、どんな課題があって、どうアプローチして、その解決により社会がどう良くなっていくんだろう、という事を想像していただき、少しでも関心を持ってもらえると嬉しいです。

vivola 株式会社ウェブサイト

インタビュー協力:vivola 株式会社 CEO 角田 夕香里氏
インタビュアー:Femtech Community Japan 理事 皆川 朋子
取材協力:Femtech Community Japan 金井 響加
執筆:Femtech Community Japan 城口 薫

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