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道具のストーリー②:シザーのこと(前回の続き)


初めてのシザー購入で苦い想いをした新卒の私は、メンテナンスをお願いしたハサミやさんから衝撃の事実を聞かされました。


「美容師さん相手に仕事をしているなかで、こんな酷いシザー見たことないよ。トリマーさんってこんなハサミ買わされちゃうんだね。」 ※当時若菜さんは理美容メインの研ぎやさんで、知り合いの美容師さんに紹介してもらいました。トリマーのお客さんは私がほぼ初めてと言ってたような気がします。


なんと。


そうなのか。


アンビリーバボーです。



このシザーを紹介してくれた先輩の目の前で言うもんだから、ちょっとだけハラハラしましたが。


ロゴが同じで型も同じでも、刃付けや裏スキ等の職人さんの技術によってまったく別物のシザーが存在するということを知りました。

そして材質やネジ等、到底私にはすべてを理解することができない様々な工程や技術が集約された「バランス」がそこには存在していると知りました。


うーん。ロマンチックではないか。

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※この写真(向かって左側)のシザーが、当時先輩の真似をして購入したものです。今も現役。主に毛玉や汚物などに遠慮なく使用できるポジション。そのために現在は力のないシザーでも傷みにくい刃付けをしてもらっています。

シザーのおもしろさ・ロマンに触れた私は、

「ぜひこの人からシザーを買いたい」

とすっかり信頼し、初めてのお給料でセニングも購入しました。(写真右)

ロゴが今の若菜さんのものと違いますね。

また別の機会に学生時代の教材のシザーもメンテナンスをお願いしたところ、私自身が「なんか使いにくいなぁ…」と思っていたその ”使いにくさ” を言語化してくれました。

こちらがそのシザー。

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なんとなく使いにくいと感じてた違和感の原因は、単純に自分の手に合っていなかったからなのですが

もっと細かく言うと、


ネジから母指孔とネジから薬指孔までの距離が短く、手の大きい私にはコンパクトなハンドルがフィットしなかった。


当時お付き合いしていた彼と手を繋いだとき、有り余る私の手は彼の手をダイナミックに包み込み、また彼とのトラブル時に「殴ってくれていい」と言われ、躊躇なくお見舞いした平手打ちにより、お相手の顔面半分がきっちり真っ赤になりました。余談ですね。

要するに手がでかい。男性より大きかったりします。

シザーとアンバランスの手を、自分の技術不足だから…と卑屈の呪いをかけて酷使し体を痛めたりしていました。

今まで道具の使いにくさや持ちにくさの違和感について深く考えたこともなかったのですが、言われてみるとストンと理解ができたのです。

道理で若菜さんから購入したセニングの”メガネハンドル”が持ちやすかったわけだ。

教材のシザーのハンドルが他のものに比べて窮屈だと気付いた途端、あら不思議。

同じシザーでも持ち方を変えるだけで、今までとは比べものにならないくらい楽に操縦ができるようになったのです。

「馬鹿と鋏は使いよう」と、よく言ったもんだ。

こういったきっかけでどんどん道具の魅力にハマっていくことになるのですが、前回の記事にも書いたとおり

仕事ができない・遅い・ミスする、の三重苦という激しいコンプレックスの持ち主であることには変わりません。(ちなみに新卒時のプードル1頭にかかった時間は4時間半。虐待か)

そんな自分でもこのお仕事を続けられる方法、それは

自分の苦手は道具に頼ればいい!


このことに気が付いてからは「道具に頼る」思考で、行き詰ったらどんどん新しいものを手にしました。

はじめの頃のシザーを迎えたワクワク、使い分けたときにいつもより上手く仕上げることができた、時間内にチェックをお願してたまたま先輩に褒められた…とかそんなちいさな成功体験が積み重なってこの思考が研ぎ澄まされてきたのだと思います。

なによりその時々に悩んだエピソードがその道具ひとつひとつに乗り移り、振り返ったときに自分の成長を可視化できることが道具収集にのめり込ませたのかなと感じます。

前向きになれるとき、いつも道具がそこに居てくれました。ひっそりと、どんなときもそばで助けてくれていたのです。

カットが上手な有名店で活躍する同級生をミクシィで眺め、内心ジェラシーでバクハツしそうな自分を昇華させるべく粛々と道具のカタログや刃物の本を見て没頭しました。

平手打ちを浴びせた彼とも破局し、出費が減った私は、この頃からお給料のほとんどを道具に費やすことになるのです。



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