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稲盛和夫著(2022)『経営12か条』日本経済新聞出版

愚直に積み重ねた経営の強みを知る

久しぶりに稲盛本を読んでみた。
個人的には経営学者でもあるので、自分の研究の裾野の部分は広く経営や情報関係の書籍は、片っ端から時間さえあれば読み進めている。

稲盛さんの経営については、基本的にわたしたちが得られる情報を勘案してもブレが少なく、愚直に物事を進めている感がする。本書においてもその愚直さと12カ条が相関しているのではないかと感じる次第である。

稲盛さんらしい見解として、中長期計画をあまり重要視していない。つまりは1年毎の愚直な成果の方を重要視している点と、中長期の場合は目標売上が達成できなくても、経費や人員目標が計画通り進められ、経費増大が経営圧迫につながること。全従業員が肌感覚で会社の実態を把握できる、そのための具体的目標が必要であり、目標達成については経営哲学が必要と説いている。

また本書では、中村天風氏や安岡正篤氏、ジェームズ・アレン氏などの教えが登場してくるところもユニークである。かれらの本はわたしも読んだことがあるが、ある意味具体性よりも概念の方が述べられている。その概念を自分なりに解釈して経営に活かすということが稲盛氏にはできたのであろう。経営者は他人に頼ることができない時に、歴史上の人物やその教えなどを参考にする人は多いが、稲盛氏にとっては、これらの人が参考とすべき知恵を持った人だったのかも知れない。(余談であるが、わたしも経営学の研究者として色々な経営者に会ってきたけど、結構読書家が多いのは共通点であるのかも知れない。)著者も語っているとおり、企業というものは経営者の器以上には大きくなれない訳で、だからこそ人間の器を大きくするための経営哲学が重要と説いている。

本書でも京セラの創業当時からの苦労話が随所に書かれており、従業員に対してもかなり無理をさせているところもあるが、それを自分事としてしっかりと受け止めて、信じる経営を貫いていく、そしてそれに従業員も応えていくという環境ができているからこそ、京セラの経験が、再生するJALにおいても生かされたのかと理解できる。

その基本となるのは、かれのいう足し算式の経営ではなく、愚直な「売上最大、経費最小」を貫くこと。実はこれがなかなかできないことでもある。そのことは京セラの幹部登用試験としての「夜鳴きうどん屋の経営」という課題に現れていることが理解できる。詳細は本書の129ページに書かれているので、興味ある人は読んでみて欲しい。小さなうどん屋の経営のイメージ、利益をはじき出す商才がないと、大きな組織の経営すら無理であろう。ましてやトータルで経営を考えられない昨今の専門分野に特化したところだけしか経験のない企業役員や幹部で、これらの商才がないとなおさら危ないのではないだろうか。その点では端的にその人の力量や考えを見抜く意味では良いアイデアだと思った次第。

また、137ページにある「原価プラス適正利益」という考えでなく「付加価値」を意識した値決めという点も、昨今では普通に考えられているが、発想の転換という点では素晴らしい。また158ページの可能性を見出していく推進力というのも参考になる。

後半の179ぺーじにある「原理原則を貫く」という項目で「人間として何が正しいのか」という点を強調しているところは、わたしも全く同感で、その判断基準を間違うと組織はガタガタになるし、ともに働いている人たちの間の信頼感もなくなるというもの。それを維持するには経営者に真の勇気が必要との見解。わたしも企業経営の核の部分はこの正しさだと思う。

最後に、本書の根底には「人間の思いは必ず実現する」という思想を謳っている。さてわたしの思いは生きている間に実現するだろうか…

本書の読後は、ページに折り目が多数になってしまった。学ぶべきものは愚直に学びたい。

折り目が多くなりました。

まだまだ生きていてほしかったですね。今では本を介してしか稲盛さんの経営を知ることができないのは残念です。

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