メルボルンシャッフルのスタイルの個人的解釈・考察



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結論として、シャッフルのスタイルというものは、個人的には音楽で言うJ-POPとか、JAZZとか、テクノ、EDM...といったような、大まかな段階のジャンル分けにあたるものだと考えます。
そのため、どのステップをこういう形で行っているからこのスタイル、という正確な定義付けをすることは非常に困難です。
スタイルを理解するためには成り立ちや歴史を含めて考える必要があると思っています。

しかし抽象的な「スタイル」という概念の中でも、発祥となる動画や人物、クルーという存在があり、突き詰めていけばルーツはシャッフラー個人に行き着くと考えています。
そういう意味では、生みの親と思われる人物たちから分岐していった系統ごとの総称という捉え方もできるかもしれません。
知りうる限りの情報や個人的解釈・考察をまとめてみました。

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・Oldschool
2006年より以前の踊られ方の総称。
Tステップと手技を中心に踊られるのが特徴とされている。
しかしながら、当時は「shuffle」というものを、ダンススタイルというより「音楽にノるための数ある行為の一つ」として解釈する意味合いが強かったため捉え方が非常に幅広く、正確な定義は不可能に近い。
ただし、10年以上前の海外のチュートリアルには、Tステップのことをイコールでシャッフルと呼称していたものもある。
(例・「reverse shuffle tutorial(今で言う逆Tステップのチュートリアル動画のタイトル)」など…)
また、ランニングマンがスイッチフット(軸足の切り替え)以上の意味を持たなかった時代のシャッフルであり、ランニングマンがメインのステップとして使われることは殆どなかった。「ランニングマンを軸足の切り替え以外に基本的に使用しないシャッフルスタイル」と解釈してもいいのかもしれない。
特に形式に沿って踊られるものではないが、oldschoolをあえてスタイルとして解釈するなら、スタイルとなる源流と思われるある一本の動画がある。

https://youtu.be/aqNUrlYb-dk

国内外問わず、「oldschool」をスタイルとして称するときはほぼすべてこの動画が源流にあると言っても過言ではないと個人的に考える。

・Rockers
原義としては、ほぼイコールでメルボルンシャッフルのことをさしている。
10数年前は、「hardstyle rocking」などといったタイトルでシャッフルの動画がアップロードされることもあった。現在でも僅かだが検索すれば当時の動画が出てくる。

ちなみに、rockersのrockは、英単語のrock(訳:揺さぶる、揺れ動く)を指しており、当時のrocking(shuffle)というものがストリートダンスというより、ヘドバン感覚で体を揺らし跳ねさせて、音楽にノる事を目的とした行為という意味合いが強かったと推察する。
従って、「〇〇rockers」といったクルーの名称などは、rockersスタイルを極めるクルーだという意味ではなく、そのまま「〇〇シャッフラーズ」といったように訳せる。
(つまり、〇〇rockersというクルー名などを名乗って、スタイルとしてのrockers以外の踊り方をしていても全くヘンじゃない、という事です!)

rockersもスタイルとして解釈するのには定義があまりに広すぎるが、rockersをスタイルとして解釈するなら、「Melbourne Rockers(Newcastle Rockers)」という集団の踊り方、特にpae.hiltzy.brentonなどのシャッフラーの踊り方が根底にあると考える。

(※この集団がコミュニティなのかクルーなのかイベントなのか、MRとNRの差異などは全然詳しくないので、そこらへんはもっと詳しい有識者がいるかもしれないです…!)


https://youtu.be/QHK67C2L4VY

現状スタイルとして認識されている踊り方には扇形や8の字を書く重心移動だとか、逆Tステップの切り返しだとか、Tステップ時の軸足の足先の動かし方(かかとを軸に90度以上扇形に足先を動かす)だとか、様々な定義付けが試みられているが、突き詰めればこれらはpae、hiltzy、brentonといった面々っぽい踊り方、ということになる。
なお、後述するAUS、MASでもそうだが、この時期(2006年以降、2007年頃)からランニングマンが軸足の切り替えだけでなく、基本ステップとして取り入れられるようになり、メルボルンシャッフルはランニングマンとTステップを組み合わせるダンスであるという方向が固まった。

余談だが、シャッフルのスタイルは、定義を考え計算されて作られたものではなく、あくまでTステップとランニングマンの組み合わせによるフリースタイル即興ダンスの枠組みの中で、個人やクルー単位での踊り方の癖が真似されて発展していった偶発的、属人的なものであるというのが個人的な見解である。
その特徴が一番現れているスタイルがrockersであるため、「rockersってなんだろう」といった定義論争に一番陥りやすいスタイルでもある。
そもそもを言えば、newcastle rockersの面々の踊り方にも各々の癖が強く個人差が大きい。もっといえば原義にしたがうならAUSもRUSもMASもすべてrockingという行為の枠組みの中にあるものなので、厳密な定義のしようがないのである。


・AUS①
07style(2007~2009)
まだAUSという呼称がなかったときの踊り方。
シャッフルのスタイル分岐の中で最も大きな分岐だと考える。
特徴としては、phat pantsと呼ばれる極太で反射板のたくさんついた派手なレイバーパンツを履いていること、上半身の使い方や腕の振り方が大きく、ランニングマンの歩幅も重心移動の距離も大きく、全体的にダイナミックで派手なことが挙げられる。

スタイルの源流となったのはHSA.HSKの2クルーとfrancisというシャッフラーの動画である可能性が極めて高く、特にHSAのsacco.HSKのmikkiらは特有の技やフィーリングがあり、数多くのシャッフラーに影響を与えている。
この時代のAUSは年代をもじって07styleと呼ばれることもある。

hsk.hsaやfrancisの動画は世界的にも有名な動画が多く、シャッフルの知名度が爆発的に上昇したきっかけでもある。

https://youtu.be/UlvSgkzCfcw

https://youtu.be/_7NDWpw1g4Q

https://youtu.be/WsdLFmmXtTU


・MAS①
MAS黎明期(2007~2010)
この時期のMASは、malaysian shuffleの名の通り、踊り方云々の前に、マレーシア人のシャッフル、及びシャッフルコミュニティを指していた。
このときマレーシアにはhardstyle republicという大きなコミュニティー(イベントやトラックメイクも行うクルーのようなもの)があり、この集団を中心にシャッフルシーンが形成されていった。
現在のスタイルとしてのMASっぽさは薄く、純粋にハードダンスサウンドでランニングマンとTステップを踏む、といった、レイブの最中に行われるステップ、即興ダンスとしての意味合いが強かった。
前述の07AUSとまだ明確な差が少なかった時期だが、07AUSと比べるとファッツを履くこともあまりなく、より個人差を容認した自由なランニングマンやTステップだったためにスライドやクロスフット、手技やキャップのトリック、踏み降ろすようなランニングマンなどの個々のアレンジによって「MASらしさ」が少しずつ形成されていくことになる。
とくにspeedodevoやO-chibiというシャッフラーはMASの近代化に大きく影響を与えており、10数年前の彼らの動画を見ても現在MASとして踊られているシャッフルに通ずるものを多く感じる。

https://youtu.be/j1PJeKFH7EQ

https://youtu.be/ze77yGTlV90


・AUS②
クルーの乱立とスタイルの確立期(2010~)
この頃よりMASと区別する形でAUSという呼称をされるようになり、スタイルが確立していく。
シャッフラー人口が増えるに連れ、AUSクルーはどんどん増えていき、踊り方がどんどん形式化されていった。
特にHSKillerのradissolのようなシャッフラー、そしてHSUやbassmastersといったクルーの面々によって現在のAUSのイメージはかなり固められているのではないだろうか。
より大きな移動距離やランニングマンの歩幅に加えて、スライド&グライド、スピン、ターン、キックなどの技、そして一曲を通してのルーティンなどが確立していった。
また、服装もパーカーにファットパンツが基本であるなど、AUSはこの年代でほとんど完成した(これ以上の大きな発展がない)と個人的に解釈している。つまりは、スタイルの確立に一番成功しているともいえる。
07や他スタイルとの区別として、「pure AUS」という呼称が提唱される事もあるが、殆どがこの時期のAUS動画をさす。
(近年、自分の知らない解釈で、サブジャンルとしてのpureAUSがあるっぽい感じがしているので、ここら辺もおいおい調べていきたいところです)

レベルの高いシャッフラーはよりレベルの高いクルーを作ろうと新しくクルーを立ち上げ、トライアウトを開き、クルーは「どれだけ技量が認められているかの勲章」のようになっていった。
したがって、大小様々なチームが乱立した時期でもある。

また、2016近辺から世界的にAUS人口が減少していき、現在では日本と中国のローカルなSNSでの発信が殆どとなっている。シャッフルにおける伝統芸能のような存在。

https://youtu.be/oibpwJbCiE0

・MAS②(2011~)
speedodevoやO-chibiらを筆頭に、masがじわじわとスタイル化していったが、psycho.z-mile.hassanといったシャッフラーが参加していた、soul factionというクルーによって大きく知名度を獲得、MASがスタイルとして確立されるようになる。
足に上体の重心を載せて足裏全体を踏み込むようなランニングマン、ダイナミックなクロスフット、様々なトリックといった、皆がイメージするMASは彼らの踊り方と言って過言ではない。
ここから先は、マレーシアに限らず、全世界的に踊られるスタイルとなる。
ただ注意したいのは、コンボやトリックといったオリジナリティが出るウワモノがAUSと比べかなり多く、ルーティンにも個人差が出やすい。
ランニングマンの形も、かかとから入るものもあればつま先で踏み込んでいるものもあるなど、MASとされる範囲は幅広く、抽象的な部分も大きい。
基本的には〇〇だからMASだよね/じゃないよね、とはっきり定義できるものではなく、強いて言うなれば「soul factionライクのシャッフル」が現代MASの定義と言っていいのではないだろうか。

https://youtu.be/6oW_L6UXP3k


・mark style(2011年頃)
文字通り、markというシャッフラーの踊り方そのものをさす。
ランニングマンやキック等、ステップの踏み込みから上半身まで全てに独特な特徴があり、スタイルとしては彼の動画で完結している。

https://youtu.be/N8AddEGyLpg


・Cali(2011年前後)
現在の西海岸系シャッフルの源流となるようなスタイル。
caliはcaliforniaの頭文字だが、ニューヨーク等アメリカの他の地域で踊られるシャッフルも総称のようにCaliと言われることもある。
方向性としては、ランニングマンをベースとしてトリックを多分に取り入れるスタイルで、MASに親しいものがあったが、当時のCaliは発展途上だった。
いままでのシャッフルにはないストリートダンスのトリックを取り入れたり、よりダンサブルな踊り方が斬新だった反面、Caliを称する踊り方の個人差がかなり大きく、Tステップにあたる動作が極端に少なかったりトリックの比重が多すぎるなど、当時はあまりアメリカ国外でスタイルとして受け入れられることは少なかった。
これも黎明期のMASのように、スタイルというよりはカルフォルニアで生まれたシャッフルのムーブメントの総称のような立ち位置だった。

https://youtu.be/_atisUMac4w

しかし、この時代から活動していたtakoらが所属するofficialstar67や、現在活動しているnew empiresshufflersなどが後にアメリカのシャッフルムーブメントを大きくしていくことになる。

・RUS
russian styleの略だが、RUSの歴史はイコールT1Mというシャッフラーの歴史であると言って差し支えない。
2009年ぐらいからシャッフラーとしての活動が確認されているが、元々バレエの経験があり、様々なスタイルのシャッフルに取り組むなかでそのエッセンスが取り込まれていった。
T1M shuffle timelineというコンピレーションのシリーズがyoutubeでアップロードされて以降一躍有名になり、それ以降の彼の活動によってRUSが確立されていくことになる。
特徴としては、腿を高く上げつつ状態を前傾させるランニングマン、鋭いTステップ、そしてバレエ由来のスピンや、キックをたくさん織り交ぜたトリックなどである。
また、彼自身の動画がバスパンにパーカーのような格好で踊っている動画が多く、RUSに取り組むシャッフラーはこのような服装を好むことが多い。

https://youtu.be/tD39aKbDZvQ

https://youtu.be/rdtoxeQoGio


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スタイルを作り求道するようなシャッフルが踊られることは2010年代中頃よりかなり少なくなり、現在は世界的に「ランニングマンとTステップをベースとし、色んなダンスジャンルのステップを取り入れたフリースタイルのストリートダンス」として発展していきます。

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・中韓でのシャッフル流行
(2010年代中頃~現在)
中国においては、china AUSやchina MASのようなサブジャンルがある。
これらは、個人的にはスタイルの中の個人差の範疇だと考えているが、中国内でもたくさんのクルーが作られ、発展していった。
後に「硬派(hardstyle)」「硬派 更歩舞(hardstyle shuffle)」と呼称されるT1Mライクの動きをベースにした、ハードスタイルやハードテクノで踊るシャッフルが中国で流行すると、T1Mは中国に上陸し、指導や大会の開催を行った。
現存していた中国のコミュニティとT1Mによる影響の相互作用で中国のシャッフルレベルは飛躍的に上昇していく。
また、地理的に近い韓国のシャッフラーも中国系シャッフラーや中国での大会などに関わっていくことになり、合わせてハイレベルなものになっていく。
wusong.moon.liam.nuo.etc…たくさんの凄腕シャッフラーが中韓より輩出され、現在に至る。


・アメリカのシャッフル流行
(2010年代中頃〜現在)
アメリカでは、フェス文化やストリート文化としてシャッフルが踊られている。
インスタグラムやTwitterの普及によって、フェスなどで踊った動画が拡散され知名度が上がっていったのではないかと考える。
大きく分ければ、2pullのようなカッティングシェイプスを取り入れたようなスタイル(カッティングシェイプスについてはシャッフルと別枠のダンスと考えるので割愛します)と、takoのようなCaliにルーツがある踊り方があるが、十人十色の踊り方があるフリースタイルなため、ここからが○○スタイルですといった線引は難しい。
中国と合わせて、ある意味原点回帰しているとも言える。
現在ではブレイキンやポッピンのような要素も取り入れられ、自由度の高いダンスとして親しまれている。

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総評として、シャッフルにおけるスタイルはシャッフル黎明期の模索されていた名残であり、その時期の大まかな指標やジャンル分けの記録、また自分のスタイルを作っていく上での情報を手に入れるためのツールということなのだと思います。
ランニングマンとTステップがあればシャッフルは成立するというのはどのスタイルでも一貫しており、現在踊られるシャッフルも、スタイルの枠組みを超えて踊られているものがほとんどです。

また、基礎となる領域が非常にシンプルなステップであるため、骨格・体格・筋肉量・身長などで取れうるスタイル、最適なスタイルも大きく変わってくるものだと思います。
先人たちが試行錯誤したスタイルは、歩むべき道・正解としてではなく、自分のシャッフルを作っていく上での情報源、きっかけとして、スタイルの概念を使いこなせればシャッフルがより良いものになるのではないかと思う次第です。

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