50年経って気づいた「ものづくりの楽しさ」とは。大理石で作る、想いがのった工芸品 ー 山口県美祢市のまち自慢
山口県美祢市で、公設塾minetoの運営に携わっている大越です。
山口県の中西部に位置する美祢市には、日本最大規模のカルスト地形である秋吉台があります。そんな秋吉台のはじまりは、約3億5千万年前のサンゴ礁。その後長い年月をかけて、石灰岩へと変化しました。
そんな美祢市はかつて、日本有数の大理石産地として、多くの大理石を取り扱っていました。現在では、規模・量ともかつてのような取り扱い量はありませんが、今でもその技術と歴史は受け継がれています。
今回取材したのは、大理石を加工して、インテリア製品などの工芸品を製作する「峰北舎」さん。50年近くこの仕事に携わっている上村 典明(うえむら のりあき)さんに、ものづくりに込める思いについて伺いました。
時代の変化とともに、新しいことに挑戦し続けた
ー大理石の加工業を始めたきっかけは何ですか?
「父が始めた仕事を継いだことが始まりです。しかし、最初から継ごうと思っていた訳ではありませんでした。
もともと美祢市の出身ですが、大学は福岡の芸術学部に進みました。写真学科だったのですが、カメラは早々にやめて、途中からは製版の道に進みました。
その後、大阪の印刷会社に勤めましたが、父の仕事がかなり大変になって。そこで半年でやめて父の仕事の手伝いをすることになりました。」
ー最初から、今のような工芸品を作られていたのですか?
「父の代では、主に観光土産を作っていました。私が継いでからは徽章屋さんとして、記念品やメダル作りが主な仕事でした。しかし、だんだんと需要がなくなってきたこともあり、何か新しいことを始めないといけないと思って。
そこで、インテリア製品の商品開発をして、ネットショップで販売するようにしました。始めて10年くらいですが、最近は石製品が珍しいみたいで、若い女性を中心に、少しずつ購入していただける方が増えてきました。」
今気付いた「ものづくりの本当の楽しさ」
時代の変化とともに、様々な試行錯誤を続けてきた上村さん。変化を受け入れ、新しいことに挑戦する中で、これまでは感じることのなかった「ものづくりの本当の楽しさ」に最近になって気付いたそうです。
ー現在はどのような製品を作られているのですか?
「キャンドルホルダーやアロマストーンディフューザー、一輪挿しなど、暮らしの中に溶け込むインテリア雑貨を作っています。天然の大理石の持つ質感と量感を大切にしながら、現在も新しい商品を日々考えています。
50年近くこの仕事に携わっていますが、実はここ最近で、ものづくりの楽しさを感じるようになりました」
ーどうしてものづくりの楽しさを感じる様になったのですか?
「自分で商品開発をするようになったことが大きいと思います。幼少期から彫刻を見に行ったり、大学では芸術学部に進んでいたりと、自分の中に新しいものを生み出すアートの部分はあったと思います。
実は若い頃にもアート作品に挑戦していたことはありました。でもその時は、変な自信があったというか、自分は他の人とは違うとか思ったりしていて。もの作り自体が全く楽しくなかったと思います。
でも今はそういうのがなくなって、単純にものづくりが楽しくなり、嫌なところも楽しめる様になりました。
自分は売れると思ったものが、全然売れなかったり、これはダメだろと思ったものが売れたりとか、本当に面白いです。言われたものを作るだけの時には味わえなかった感覚です。難しいだけに、売れた時の喜びも大きいです。」
「あともう一つ、若い人との関わりが増えたこともあります。今、美祢社会復帰促進センターに、手磨きの作業を依頼しています。そこでは、私でも大変な作業を、とても楽しそうにやる若い人の姿があって。とても刺激をもらっています。
この子たちにも、自分で考えたものを作るという、本当のものづくりの楽しさに気付いて欲しいと思います。そして、社会に出た時に、自分にあったものづくりに出会ってくれたら嬉しいです。」
商品にこめる想い
ー商品のこだわりなどはありますか?
「この美祢という地域の特色ある大理石を使い、ここでしか出来ない製品を作りたいと思っています。
美祢市の大理石産業の歴史は古く、昭和30年ごろには美祢市内に100社以上の大理石加工所がありました。当時は採掘も盛んで、30種類以上の大理石が発見され、色や模様も多様でした。ちなみに、国会議事堂で使われた大理石37種類の内、実に10種類が美祢市産のものです。」
「しかし現在、美祢市内には私のような大理石を加工して工芸品を作る職人は数人しかいません。日本全国を見ても、ほとんどいないでしょう。
made in Japan、made in Mine(美祢)を大切に、商品を購入された人が買ってよかったと思うものを考え続けたいと思います。」
「また、手磨きの作業を依頼している子たちにも言っているのですが、嫌々やった仕事と、本気でやった仕事には差が出る。特に工芸品には、そういう想いが必ず出ると思っています。私の込めた想いが、商品を通して少しでも伝わったら嬉しいです。」
日本最大級のカルスト大地から産出された、3億5千万年の歴史のある大理石。それを使った、上村さんにしか作ることのできない商品を、ぜひ一度ご覧ください!
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