用水路に流れる 水は 水のりみたく、 何層もの膜で ひかりを遮っていて 不純物まんてんだ だのに どこか 何カラットの輝きを 映していた
桜、お前は春になると 一所懸命に命を咲かせる 私は一瞬のお前だけを捉えて 持て囃すけれど 過ぎ去った春のなごりにだって お前は次の季節の準備に大忙しだ 一所懸命に命を実らせる 私と同じ 四季を生きる木々よ花々よ いっしょの季節に 喜怒哀楽で応えてくれて 生きて、いてくれて ありがとう
今朝も聴こえた お風呂から、洗濯機から 生活にまぎれた 助けて、とふり絞るような 不気味な音 夜が明けると、 昨日の私たちは用済みで 日常のなか 違う何かが 成り変わっているのではないか そんな予感 今日の私が 私らしく寝坊して 私だけはもとのまま、という わけでもないのに 他人がいっそう怖くなる いつか、いつかの好奇心で 手を伸ばしてしまったとしたら 今日の私もいなくなるのだろうか ああ それはとても さびしいような、気がする
目を、耳を澄ましてみる 色とりどりの小人の演奏会 時計が針を刻むように 気付いて、と 音を立て始めるのがわかった いままで気にも留めなかった 彼らの息づかい それはまるで 彼らには彼らの 定めた、 六十秒があるようにも思えて 時計を失ったら 僕らも その日暮らしのばか騒ぎ、に きっと 夢中で取り掛かれる 仲間はずれなんて、いない 一生を
鏡にうつる お髭ひとつ 生長する命を踏みつぶして 今日も、生活がはじまる 誕生を祝福できないこと、 死は事実になりさがったこと 洗面台に振り返るだけで 当たり前じゃないか、と囁かれる 今日の僕は誰の何を奪ったのか それすら定かではないけれど 人の迷惑、なんて言葉 生きるためには言えなくなった いただきますと、ごちそうさま おはようと、おやすみ なくしてしまった 生活のおと
齢二十を超えて 疎遠になって あなたの元気でね、という 言葉選びに さよならの重みを感じた
誰も彼もが踊っている 熱といっしょに踊ってる 燃え尽きるまでの一瞬を 逃れようもない抗いようもない 生まれたときから そう決まっていたのだ いや 熱のない暗がりを 確かめたくはないから そう決めたのだったか 灰のなかを夢にみる 線香花火のような 星を追うのではなく、 ただひとつの燻る宝物を 持っていられたのなら、と いまはまだ 熱のなかで
誰かひとりに 倚りかからぬ夜がほしい 醒めたさめた 朝がくる あの、陽だまりに眩るまでは なければ、を手放して いきたここち