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『嘘月』Ep.3 -消された姫の物語-

EPISODE.3:消された姫の物語

世界の誰もが知るとあるアニメスタジオ。
これまで数多くの作品でプリンセスを主役とした作品を世に送り出してきました。
世界の様々な国が作品の舞台として選ばれるなかで我が国日本が選ばれた事はありません。
しかし、世間に出る事はなかった隠された作品があったとしたら。。。

近年ボツになったとされる1つの作品の存在が明らかになりました。
その作品が企画・制作されたのが1990年代とされています。1980年代に長編アニメ映画界は低迷期を迎えていました、そして1990年代になると約10年にも渡り多くの長編アニメ映画作品がヒットを迎える「黄金期」を迎えます。公開される作品は軒並みヒットを続ける黄金期と呼ばれる時に、この1つの作品が世に出なかった理由として「ストーリーの面白さ」や「想定される業績」など考えられるのですが、真の理由として「日本人には観せたくない物語」であると言われています。それでは今回確認することができた物語をご紹介します。


【物語の舞台】

舞台は戦乱渦巻く小さな島国、作中で日本とは呼ばれていません。
時代背景は日本の戦国時代を思わせますが、人々の服装や住む街のデザインなどは平安〜鎌倉のように美術が栄えた頃のデザインなどが取り入れられるなど架空の時代として描かれていますが、日本がモデルとなっているのは明確です。
海外の方がイメージする「日本史」がごちゃ混ぜになっているような世界観に見えるかもしれません。

【物語の始まり】

両親がいない山奥の村で暮らす主人公の少女。
少女を育て一緒に住むのは1人の年老いた男性。
昔山で捨てられていた少女を拾い育ててきたことを男性は少女に隠さずに伝えていました。
優しい村民達の支えもあり少女は捨てられたという自分の過去を悲観する事なく育ってきました。
更に少女は野山の動物達と心を通わせる事ができました。村人、動物達と支え合いながら少女は成長をしますが、戦火は少女のいる山にも迫っていたのです。

やがて山にも武装した兵達が現れるようになります。兵達にとって村は重要な拠点となるため、
村は兵達が居座るようになります。
拠点ともなれば最悪、敵が襲ってきて村は戦場へと変わってしまうかもしれません。

少女は兵達に山から出ていくように訴えようと男性や村民達に訴えますが危険すぎると止められてしまいます。
やがて敵対する兵達が山へ来た事で村も戦いに巻き込まれてしまいます。少女は皆の制止を振り切り戦いをやめさせようとしますが、男性が少女を無理矢理に兵達の使っていた馬車へ乗せて少女を山から逃がすのでした。

そして少女は初めて山を降りて、色々な人達と出会っていく事となります。

【少女と旅をする仲間達】

少女は山で動物達と心を通わせていました。
少女の乗った馬車に偶然に乗り合わせる動物達がいます。
「狐」と「狸」、そして傷ついた「蛇」の3匹です。
山では人や動物達を化かして悪さばかりをして嫌われ者だった「狐」と「狸」。
少女だけには悪さが通用せず、どうにかギャフンと言わせてやろうと付き纏っているうちに村での戦いに巻き込まれて少女と一緒に山から降りる事になります。
そして「蛇」は山で傷ついていたところを少女に助けられました。その蛇は珍しい「白蛇」で本来神聖な存在とされる事が多いのですが、傷と脱皮の失敗によるものと思われる異形を持ち合わせていた為、不吉な存在として忌み嫌われてれていましたが、助けた少女をいつも見守るようにそばにいるようになっていました。
そして少女が乗せられた馬車にも蛇はついてくるのでした。

【少女の描かれ方】

山から降りた馬車は戦の跡地で横転し少女達は外を投げ出されます。
そこには戦で亡くなった兵達の亡骸が無数に横たわっています。少女は村で抱いた以上に戦を止めなくてはいけないという強い使命感に駆り立てられるのでした。

少女は物語全編を通してを武器を使い戦うことはせず、「言葉」と「態度」を通して人々の精神性に訴えかけていきます。
挫折や成功をして成長をする姿を見せる物語ではなく、物語の最初から最後までまっすぐに正しいと思う事を貫く少女の姿が描かれています。
その象徴的なエピソードがこの後描かれていきます。
強い使命感に駆り立てられた少女はこの国の中心である「都」に向かう事を決めます。

まず道中に出会ったのは戦が原因で生活苦から人を騙して追い剥ぎをするようになった農民達です。
少女達も騙されて農民達に捕まりますが、その行いが「間違っている」と少女は強く訴えます。
農民達は「生きる為にしょうがなくやっている事」だと言いますが、農民達のその悔しそうな表情を見て少女はこう言います。
「間違っているとわかっていながら、それが自分を苦しめるとわかりながらなぜそれを行うの?なぜ正しいと思う事はやってはいけないの?やる勇気が無いなら私が一緒にやるから!辛くて苦しい時だからこそ正しい事をしよう!」
その訴えは農民達に届き少女達を解放するのでした。
少女が戦をやめさせる為に都へ向っている事を告げると農民達は呆気にとられますが、バカにするものなどいませんでした。
農民達は少女達にできる限りの助言と想いを託しその姿を見送るのでした。

その後少女達はある戦に巻き込まれます。
そこでは双方の兵達が睨み合い均衡状態となっていました。
少女達は片方の陣営に捕まってしまいます。
その陣営では残りの兵達で捨て身の突撃を行う作戦が計画されている事を少女は知ります。
少女はやめるよう言いますが兵達は農民達と違い全く聞く耳を持ちません。
ここで「狐」と「狸」が得意の化かしで兵達の上官に化けて作戦を中止する事を告げます。
そこで兵達の本音が出てくるのでした。
「家族に会いたい」
「もう誰かを傷つけたくない」

しかし、本物の上官が現れます。
士気の下がった兵達を見て上官は檄をとばします。
「国の為に、大切な者を守る為に命をかけて戦え!」
その言葉を聞いた少女は声を荒げます。
「そんなに簡単に命をかけるな!命を粗末にするな!」
上官は言います。
「我々の使命は国を守る事だ!私の父や祖父だってそうしてきた、多くの仲間や部下達だって命をかけて全うしてきたのだ!自分が死ぬ事以上に大切な者を守りたいとこれまで繋いできたのだ!それを侮辱するな!!」
少女はうつむき、こう続けます。
「そんなのおかしい。優しい人達が命をかけなくちゃいけなかったんじゃないか。
死にたくて戦ってる人なんていないのに、皆大切な人を守りたいだけなのに。
戦っている相手だって同じ気持ちだったら、それだったら本当に優しい人達が皆死んじゃうじゃないか。
命はもっと尊いはずでしょ?
何かを理由にして尊さが失われてはいけないの。
あなたは命をかけて何と戦っているの?
あなたの本当の敵は一体誰なのっ?!」

少女は涙を流していた。
上官からは言葉が出てこなかった。
少女がつぶやいた。
「終わらせましょう、この戦いを」
その場にいた兵達に戦いを続けたいという者はいなかった。

上官は座り込み語ります。
「かつては仲間だった者達もいるんだ、同郷の者もいる。戦はすぐに敵も味方も変わってしまう。
この十数年で変わってしまった。内乱が増えたのだ。おかしい事は薄々気付いていた。ただ、それを認める勇気がなかったのかもしれない、使命を全うするとして目を逸らしてきたのかもしれない、信じてきた物や行動が、それが間違っていたなら私は何を、、、。」

頭を抱える上官に少女は膝をつき上官の膝にそっと手を添え言います。
「あなたは大丈夫、あなたも優しい人だから」
そして微笑むと彼女は外へと出て行く。
彼女が向かった先は敵陣でした。

敵陣は騒然としています、武装した兵達が集まり少女を威嚇します。威嚇する兵隊の姿を見て少女は言います。
「この戦いを止めに来ました、武器は持っていません。話し合いましょう」
ついにその陣営の上官もあらわれます。
上官が兵に弓を放つよう指示しようとした時、兵達がざわめきます。
少女の後ろから先程の陣営にいた兵隊がこちらへ向かって来るのが見えます。
ただ、武装をした者は1人もいません。
少女の元に兵達が集まります、率いていたのは先程の上官、その表情には迷いはありませんでした。
「話合えないか、我々は大事な者を守る為に戦っていたのにいつしか大事な者を失う戦いをしていたように思う。もう命を懸けることはやめにしないか。」
少女が続けて言います。
「私が全ての戦いを終わらせます」
少女の登場で今まで緊迫していた状況を一変しました、その少女の言葉と姿には凄みがありました。それを肌で感じた対峙する上官は部下達に武器を下げるように指示するのでした。

戦場で兵達は上官も含め誰もが悩み戦っていました。本当は戦いたくなくても「大切な守る為」という言葉で本心を偽らされていた者ばかりです。先程の農民達もそうですが兵隊達も同様に皆「救い」を求めていたのです。

その後双方の兵の協力もあり少女達は無事に都へと辿り着く事ができるでした。

2つのエピソードで少女の内面の強さが描かれています。不吉と忌み嫌われる動物達や、騙そうとする村人達、敵意を剥き出す兵士にまで偏見なく、正しい事をしようとする真っ直ぐな彼女の生まれ持った「精神性」が関わる者達の心を目覚めさせていくのでした。

【少女の正体】

この島国の中枢の「都」で国を納めるのは「帝」と呼ばれる存在となります、いわゆる王様です。
帝の存在は厳重に警護されておりほとんどの人間がその姿を見た事がありません。

少女達が都へ辿りつくと物語は核心に近づきます。少女は帝の一族の血筋を引いている事が判明します。

そして都の宮殿でついに帝と対峙する事となりますが、帝の姿はとても若く、少女は帝が自分とそっくりである事に気づきます。帝は少女の双子の弟でした。
つまり少女は事実上の姫(プリンセス)という位置付けである事がわかります。
前帝であった少女達の両親は双子が生まれた時に自分達が悪い事へ巻き込まれている事を知り、国の行末を見抜き、弟を後継者とするものの、少女の存在は隠し一筋の希望を託し側近とともに山奥へと逃したのでした。
その側近こそ少女を育てていた男性です。

出会った帝は自分の意思をほとんど持っていませんでした。前帝は少女達が生まれて間も無く大臣達の策により失脚させられ幽閉されてしまいます。そして、若き帝が誕生しますが実質大臣達が帝を操る形で国政を進めていきました。
戦場で出会った兵達の上官が語ったように内乱が起こるように仕向けていたのも大臣達によるものでした。
帝は物心ついた時から大臣達に匿われるように外界から遮断されて育てられてきました。その為国に住む多くの者が帝の姿を見た事が無かったのです。
大臣達の思うように国政は行われてきましたが、帝として国民を苦しめるような提案には拒否をしていました。彼は家族も相談もできる相手もいない中で帝としての国民幸せだけを考えてきました。彼もまた生まれながらに少女と同じ「精神性」を持ち合わせていました、ただ外の出来事を知る事のできない帝に対して、大臣達は事実ではない偽りの報告で結局自分達の思うように国政を進めてきたのでした。

大臣達はこの島国を守護するとされる「龍神」を信仰しており長年に渡り龍神のお告げ通り、国政を行っていた事がわかります。

少女はその龍神が「偽りの神」であると見抜きます。
偽りの龍神の正体は異国からの侵略の為に送り込まれた「ドラゴン」でした。
ドラゴンは本物の龍神を弱体化させ信仰の対象へと入れ変わっていました。
大臣達もまた信仰心を利用されドラゴンに騙されていたのでした。龍神のお告げによる自分達の行いこそが国を守る事だと信じていたのです。

帝は長きにわたり騙されていた事、何より戦によって国民達を苦しめていた事実を知り泣き崩れます。
そんな弟に少女はそっと寄り添います。
正体を暴かれたドラゴンが本当の姿を表しその場に居る者達を葬ろうと宮殿の中で暴れます。宮殿の外へ出ると騒ぎに気付き都に住む民や兵士達が宮殿へと集まっていました。

帝は国民達に危害を加えさせないように、そして、少女は全ての元凶を前に戦を終わらす為にドラゴン前に立ち塞がります。
少女はここでも真正面からぶつかります。
「あなたは間違っている」
少女は集まる人々の前に全てを真相を語ります。
多く者が騙されていた事実を知ります。
大切な人を守る為に散ってしまった命。
奪ってしまった誰かの命。
何も疑わず盲目になってしまった自分へ悔しささ。
偽りだった日々。
落胆し悲しむ人々の先で少女と少年はドラゴンと対峙していました。
怯む事のない2人を見てその場にいる人々は武器を持つのではなく祈る事で想いを託します。
人々の祈りは傷ついた蛇に宿ります。
蛇は光に包まれ本来の龍神である姿を取り戻します。
その光はドラゴンと対峙する少女と帝を後押しします。

人々の想いを受け止めた2人はドラゴンを拒絶するのでした。
「人々を欺く偽りの神、哀れな者よ、この地より立ち去りなさい!!」
激しい閃光と共にドラゴンは遥か彼方へと姿を消したのでした。

多くの人々の心が傷ついていましたが、目の前には2人の若きリーダーがいました。
多くの偽りがあったけれど皆が生きてきた日々は偽りじゃなかったこと、もう戻ってこない人達の為にもあきらめてはいけないこと、必要なのは皆で手を取り合い乗り越えること、そして新たな国づくりを目指そうと呼びかけます。
「私達なら大丈夫、きっとできる。自分と大切な人達を信じて」
その後幽閉されていた両親の解放、道中出会った人達との再開、育った山へ戻るシーンを経て物語は終了します。

物語は王道とも呼べるファンタジー映画のようですが、この物語がなぜ日本人に観せてはいけないと言われるかわかるでしょうか?
物語が企画・制作された1990年代であれば普通の長編アニメ作品の1つだったかもしれません。
信念を貫く少女を通して伝えようとしているメッセージ。
日本人に観せたくない、いや、観せてはいけない物語。
それは日本人に気付かせてはいけない物語。

ハーイ、ボク嘘月ー。

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