見出し画像

「鯛やけど腐ってる!」 ❮食のことわざ❯

 食に関することわざは意外にたくさんあります。しかし、最近の若者にはピンとこないものが多いようです。そこで今回は「食のことわざ」を分かりやすく妄想します。

腐っても鯛

 有名なことわざですね。すぐれた素質や価値を持つものは、状態が悪くてもそれなりの価値があるという意味です。
 鯛は日本人にとって特別な高級魚で、魚の王様とさえ言われます。しかし腐っています。さあ、トータルでプラスイメージでしょうか? マイナスイメージでしょうか? このことわざの特徴はそこにあります。つまり、「鯛である」ことが重要のか「腐っている」ことが重要なのかです。
 このことわざの一般的な解釈は「鯛である」ことが重要で、その価値は「腐っている」ことを差し引いて余りあるということです。それは体裁が第一とする武士の思想で、大阪人には理解できません。千林(大阪市旭区)あたりの豹柄の「おばちゃん」ならはっきりと言い放つでしょう。「腐ってるやんか!」「こんなん食べられへんわ!…で、なんぼにしてくれんの?」 …そう、大阪人にとって重要なのは「鯛」ではなく「腐っている」という事実です。
結論…「腐っても鯛」は大阪に限っては「鯛やけど腐ってる!」
 

羹(あつもの)に懲りてなます吹く 

 これも有名なことわざですが、なんだか古めかしい感じがします。それもそのはず、紀元前300年ごろの中国の政治家で詩人の屈原という人の「熱羹(ねっこう)に懲りて韲(なます)を吹く」という詩が元になっています。羹とは動物の肉が入ったスープのことなので、熱羹は熱いスープです。韲は細かく切った野菜を酢や醤油で和えたものです。中国から日本に伝えられる時に、羹だけで「熱いスープ」になり、韲は膾(なます)になりました。膾は現代では野菜や魚の和え物ですが、古代では細切りの生肉のことでした。ことわざとしての意味は、スープが熱かったのでそれに懲りて冷たい料理である膾をふーふーと吹く。つまり「失敗に懲りて度の過ぎた用心をすること」です。気をつけなければならないのは、このことわざはその慎重さを誉めているのではなく、からかっているという点です。
結論…学習力には秀でているが応用力に欠けている。学習力と応用力はセットで必要だ!
 

青菜に塩

 青菜とは葉野菜の総称です。身近なところでは小松菜でしょうか。青菜に塩をかければ水分が抜けてグッタリとすることから浸透圧の原理を表しています。 水分が抜けてクタっとした青菜のように元気がない=しょげているという意味です。使い方としてはマイナスイメージです。しかしよく考えるとこれは簡単な漬け物です。元気がないというよりもおいしくなったと言うべきでしょう。そう考えると「青菜に塩」はプラスのイメージになると思うのですがどうでしょうか。  
 塩をかけて元気がなくなるのなら「ナメクジに塩」というべきです。これはもう「しょげている」というレベルではなく命にかかわる「激しょげ」です。
結論…漬物は意外に簡単にできるし、ナメクジは塩だけではなく、砂糖でも激しょげになる。


餅は餅屋

 餅は餅屋のものがいちばんうまい。転じて、どんなことでも専門家が一番であるという例えです。少しまじめに考えたのですが、このことわざをネットで調べると、例外なく餅屋とは「賃搗屋(ちんつきや)」のことだと書いてあります。
 賃搗屋は杵、臼などの餅つき道具一式を持って依頼主の家に行き、もち米を蒸し、家の前で餅を搗く職業で、一般的には「餅屋」と言われていました。素人がつく餅よりも「餅屋」がつく餅のほうがうまい。ということなのですが、筆者は違う解釈です。
 この「餅」は大福や草餅、団子など餅菓子と呼ばれるものを指しているのだと思うのです。明治時代以前、和菓子は京都が最上級(今でも)でした。全国的には、和菓子は「饅頭屋」あるいは「団子屋」で売っていましたが、京都と大阪の北部では、宮中や公家、寺社、茶家などで、行事や儀式に用いる薯蕷饅頭や干菓子、上生菓子などの献上菓子は「菓子屋」で、それ以外の庶民のお菓子のうち、酒饅頭や栗饅頭などの饅頭類は「饅頭屋」で、大福や草餅、団子などの餅菓子と赤飯は「餅屋」で売っていました。【※この住み分けは現在でも多少残っています】
 ところが、菓子屋や饅頭屋でも秋のお彼岸にはおはぎ、花見の頃には桜餅と、季節の餅菓子を売ることがありました。単純に考えると、格上(当時の考え方)の菓子屋や饅頭屋が作った餅菓子の方がおいしそうですが、口が肥えている京都・大阪の庶民は「餅菓子なら、格下でも専門店である餅屋の方がおいしい」ということで「餅は餅屋」ということわざができたのではないかと思います。

結論…高級店ではなく、専門店に限る!

“おまけ”

蛇(じゃ)の道は蛇(へび)
    
筆者は若いころ、「餅は餅屋」と言うべきところで「蛇の道は蛇」と言ってしまったことがあります。もちろんこの二つのことわざはまったく違います。同じような間違いをして恥をかく人がないように分かりやすく用例を書いておきます。

「餅は餅屋」の正しい使用例
A「この豆大福おいしいねー!」
B「出町ふたばで買ったんだよ」
A「やっぱり餅は餅屋だね!」
B「ほんとだねー」

「蛇の道は蛇」の間違った使用例

A「この落雁おいしいねー」
B「鍵善良房で買ったんだよ」
A「そうなんだー、やっぱり蛇の道は蛇だね」
B「ふ、ふ、ふ、おぬしも悪(ワル)よのー」
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?