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「ブレイクスルー・ハウンド」133・了

   終章  相変わらず、学校で光は浮いたままだ。  なぜなら、“リスト”は公安によって回収され口外を禁止されたため、GSSが戦った事実自体が“無かった”ことにされたのだ。むろん、父の戦死も。公式には父親は心不全で他界したことになっている。  だが、GSSは消えていない。ゴードンが経営責任者となることで存続が許されたのだ。公安やCIAによって利用価値が大きかったことも影響している可能性がある、彼らが裏から手をまわしたこともあり得る。  もちろんというか、杏と純も入社していた

    • 「ブレイクスルー・ハウンド」132

      ● ● ● 「へへ、銃撃で挟み込もうなんざ浅知恵だぜ」  嘲罵にも、スミタと光は静かだ。代わりに、光が手榴弾を投げた。すでに手元にすこし置いておいたものだ。  当然、敵の頭上で爆発する。それでも、直撃を避けきったのはさすがというべきだろう。 「人殺しの矜持なんぞ知ったことか。目的のために人を殺すならともかく、殺すのが目的になったおまえと俺たちを一緒にするな」  光の一言と、レーザーサイトの赤い線が祐をとらえてつらぬいた。  祐は痛恨と絶望の表情で無言で倒れる。連戦の中

      • 「ブレイクスルー・ハウンド」131

        他方で、敵は即座にショットガンを至近距離で撃ってくる。  撃たれる。ただし、かすめる程度だ。なんとか、防弾装備のおかげで死はまぬがれた。  痛(つ)――それでも、肋骨あたりにヒビが入るのは避けられない。  散々、人を殺めて磨いた技が通じないというのか。  それではなんのための犠牲だったのだ――張は胸のうちで声を限りに叫びながら、突撃銃をふるった。上段から一撃、屈んでの一閃、立ち上がり様の斬撃の、連続攻撃を仕掛ける。  最初の二閃はあの、斬撃を無効化してくる技で封じ、最後の攻撃

        • 「ブレイクスルー・ハウンド」130

          ● ● ●  ふざけた相手だ、というのが達人の強敵への第一印象だった。自分たちの側の敵の減少を受けて、ゴードン、杏と純を置いて、達人が加勢に来た。  縦に髪がかかったように七色に頭髪を染めた壮年の男、そんな人間をミュージシャンやアーティストでもない限り正当に評価しようという人間はいないだろう。  だが、戦いが始まるやそんな印象は消し飛んだ。  動きそのものは、例の左右白黒の髪の少年に似ている。というより、外見の類似性から見て血縁者だろう。  だが、その挙動は息子よりも

        「ブレイクスルー・ハウンド」133・了

          「ブレイクスルー・ハウンド」129

           脳裏に対物狙撃銃の一撃でスミタが吹き飛ぶ悪夢が思い浮かぶ。だが結果は違った。 「よう、“北”の負け犬どもか」  祐が嘲るような笑みを浮かべナイフを口にくわえて、銃撃を縮地で避けサプレッサーを捻じ込んだイングラムM11を片手で構えるや四人一組の北の工作員に向けた。人間の動きとは思えない螺旋の動きで銃撃のすべてを回避し、かつ銃弾のフルートで敵を仕留めていく。反動の小さなイングラムM11は従順な猟犬のごとく牙を敵に突きたてた。  工作員も防弾装備をしていただろうが、衝撃を殺しきれ

          「ブレイクスルー・ハウンド」129

          「ブレイクスルー・ハウンド」128

           林の中にいるSAIGA12を持った相手が邪魔しようとするが、最初に敵が使った方法で光は手榴弾で牽制する。  スミタが果敢に祐に斬り込む。移動を多少でも無効にするために薙ぐ。  剣光一閃、隙が大きくなるのを真っ向から祐がナイフを動かした。  スミタは半身になりながらククリを螺旋に回転させた。  その間、光はSAIGA12を持った相手の動きを封じる。明後日の方向からの杏のHK416による援護射撃の照準のレーザーサイトの線と、光のが弾丸が躍る。サブマシンガンのフルオートに比肩する

          「ブレイクスルー・ハウンド」128

          「ブレイクスルー・ハウンド」127

           光は全力で転がった。それでも無数の衝撃が全身を突き抜けた。  彼を救ったのは胸に抱えたKSG散弾銃だ。これが多くの破片を受け止めてくれた。  同様の攻撃を少年は張にも仕掛ける。だが、彼は縄鏢を迅雷の速度でひるがえらせ手榴弾をあさっての方向に弾き飛ばした。 「気に入ったぜ、俺の名前は祐って者(もん)だ。あんたは?」「張」  戦いを遊戯のように感じているであろう相手に、それを生きる糧としてきた張は眉をひそめる。  銃声。突如の。それは光によるものだ。  名乗り合いなど、源平の武

          「ブレイクスルー・ハウンド」127

          「ブレイクスルー・ハウンド」126

           目には見えない光が伸び、体温の赤い熱と重なった。呼吸を止めた彼の指がトリガーを絞る。HK416が闇に吠えた。「クリア」とゴードンが家族思いの父とは思えない無感情な声で告げる。  狙撃手と汎用機関銃の存在に、敵もまた伏射の姿勢に入ったのだろう弾道が下がった。このままいけば膠着状態だ。  そこで達人が指示を飛ばす。 「中央の火力を弱めて敵を誘い出す、特装(特別武装係)はこの場に四名留まり敵に射撃を繰り返せ。私たちは、右翼で敵を惹きつける役目を果たす」 「光、張、スミタ、佐和が左

          「ブレイクスルー・ハウンド」126

          「ブレイクスルー・ハウンド」125

           墓石が無数に並ぶ中を行くのだから罰当たり極まりない。そして、それを実行するかのように敵が先手を打ってきた。  頭上に轟音がひびいた。「RPG」  真っ先に気づいた者が絶叫する。だが、光たちは運が良かった。公安の特殊武装係は規則にうるさくヘルメットの着用を義務付けていたのだ。それがだいぶ高さのある場所から降ってくる破片から体を守ってくれた。  さらに、光が電光の速さで動く。墓石になるだけ身を寄せながらも、KSGのダブルオーバックの弾を立てつづけに空に向かって放ったのだ。五〇メ

          「ブレイクスルー・ハウンド」125

          「ブレイクスルー・ハウンド」125

           墓石が無数に並ぶ中を行くのだから罰当たり極まりない。そして、それを実行するかのように敵が先手を打ってきた。  頭上に轟音がひびいた。「RPG」  真っ先に気づいた者が絶叫する。だが、光たちは運が良かった。公安の特殊武装係は規則にうるさくヘルメットの着用を義務付けていたのだ。それがだいぶ高さのある場所から降ってくる破片から体を守ってくれた。  さらに、光が電光の速さで動く。墓石になるだけ身を寄せながらも、KSGのダブルオーバックの弾を立てつづけに空に向かって放ったのだ。五〇メ

          「ブレイクスルー・ハウンド」125

          「ブレイクスルー・ハウンド」124

          「僕は今まで逃げてきました。過ちを犯しながら謝罪することから逃げてしまった。今さらではありますが、この場を借りて謝りたいと思います。娘さんの命を奪ってしまい、すいませんでした」  英語で一方的に言葉をかさねるが返答はない、と思われたが半拍の間ののちに声が返ってきた。 「最初、わたしはあなたを許せませんでした。強盗が娘を人質にとったとはいえ、娘が死ぬとは限らなかった。むしろ、警察に任せておけば娘は無事なままでいられたんじゃないか、そうずっとあなたを憎みつづけていた」  でも、と

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          「ブレイクスルー・ハウンド」123

           そして、光とスミタは中央情報局日本支局の武器庫のロッカーで装備をととのえている。局員が戦闘を主任務としないために武器庫のロッカールームが狭く、光たちは人数を分けて武装に当たっていた。  装備の内容は、スミタはいつもと同じ物で弾薬や手榴弾だけを補充していた。他方、光は普段とはだいぶ趣の違う武器を選んだ。スミタと共通するのは、ボデイアーマー、アサルトベスト、シューティンググラスといった装備だ。 「おまえ、そんなもん使って猛獣の群れとでも戦うつもりか」 「連中、猛獣の群れとたいし

          「ブレイクスルー・ハウンド」123

          「ブレイクスルー・ハウンド」122

          ● ● ●  公的には所在をあきらかにされていない外資系企業の地下階にある会議室で、光はたちは現在進行形の“事件”の重要な関係者と対面する。会議用テーブルの手前のほうでこちらを待っていたのは白髪混じりの、それでも屈強さを失っていない白人男性だった。 「はじめまして、Mr.光。私はダリル・ドゥリトルというものだ。突然、外国人が現れておどろいているだろう。だがもちろんのこと、無関係ではにないからこそ、私はここに足を運んだ」 「前置きが長い。あんたの所属を目的は」 「所属は

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          「ブレイクスルー・ハウンド」121

          「なあ、隊長。俺たちの組織の目的はなんだ」 「なんだ、突然? 『日本国を害する勢力の情報を収集し、これに対処する』だ」 「今の俺たちは?」 「金の切れ目が縁の切れ目だ。お偉いさんが代わって、情報機関なんぞ重荷に感じて放り出しやがった。だから、俺たちは自分たちの食い扶ちを自分で稼ぐようになった。今さら、日本への忠誠もへったくれもあるか」  髪を左右で黒と白に分けた、白人とのハーフの少年は不機嫌な顔になっ井上の顔をにらんだ。正義だの正論だのというものを、彼は死よりも嫌っているとい

          「ブレイクスルー・ハウンド」121

          「ブレイクスルー・ハウンド」120

           同刻、とある一室で祐と副官の井上は今後の詰めについて、祐の父から聞いた話を反芻することで確認をおこなっていた。白と黒のツートンの髪に、フォーマルウエアを着崩した祐に対し、井上は革製品の上下を身にまとい、パンクロッカーのように髪の毛を七色に染めた青年だ。従兄弟の間柄ということもあって、歪という点ではファッションセンスに共通するものがある。  そして、話が雑談に移る。 「できれば、あのグルカ女には俺のもとに来てほしいな。手足を切り落として、前と後ろと口に全部チンポを突っ込んでや

          「ブレイクスルー・ハウンド」120

          「ブレイクスルー・ハウンド」119

          ● ● ●  外資系企業の、存在しない階数の地下にその執務室は存在する。一般人が踏み入ることは今回を除いて絶対にない部屋だ。その奥、高級木材製の執務机を前に、部屋の主であるダリルが腰かけていた。  彼は血相を変えていた。ダリルはここまで状況を見守り、あるいは干渉してきたCIAの工作担当官(ケースオフィサー)だ。歴戦の猛者として知られ、組織内における生き字引と現場の者には尊敬の念を寄せられている。  鷲鼻に鋭いまなざし、巨躯ではなにが長身で衰えることなく引き締まった体を

          「ブレイクスルー・ハウンド」119