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226、渇いたスポンジ

仕事を退職してやることがなく、就活サークルにまた、戻りました。
前回の就活サークルとは、また違って、新しい顔ぶれがそろってます。どうせ、すぐ、また就職して、みんなとまた、おさらばするつもりですが、それでも、みんなと仲良くなれるかな、とは考えてしまいます。
そんなところに、好みのタイプの女性、発見!
皮肉なものです。どうして、仕事して、お金を稼げるようになったころには、女性との出会いなどないのに、いま、お金も稼げなくなったころに、こんな女性と出会えるんでしょう。
斜め前に、その女性は座っていましたが、話しかけることもできません。ああ。この女性は、どういうひとで、どんなことを考えているのだろう?
ひさびさに胸が、キュンとなります。
うれしいような、せつないような。
これは...…



サークルの時間も終了して、結局、なにもできないまま、父の施設に迎いました。
父は、用意された服、用意された車いすに乗って、座って黙っています。
「お父ちゃん、こんにちは」
父は、失語症です。
こくっ、とうなずきました。
意志疎通は、できるのですが、だんだん、ぼくの言ってることを理解できなくなってきてます。ややこしい話はできません。
加湿器の蒸気が、カーテンの隙間からシューッとはいってきて、それ以外の音は聞こえない。テレビもなっていますが、そのテレビの音ですら、物音にまみれた小さなBGMです。
父は、こんな静かなところで、生活しているんだなあ。

ことあるごとに、なにかを話しかけていましたが、父は、うつむいたまま、黙ってます。
「お父ちゃん、腹減ったわ」

すると、やっと、父が反応して、笑顔を見せてくれました。おもしろかったのでしょうか?
時間は十六時。

「腹減った、お父ちゃん。なんか、もう、晩ごはんのことを考えてしまう時間やな!」
と付け加え、するとまた、少し笑ってくれました。

どうして、父といると、こう落ち着くんだろう。父は、苦しいことも、悲しいことも、なんでも吸い取っていってくれる渇いたスポンジのようだな、なんて考えていました。
十六時十分ごろになり、看護師がやってきて、面会時間終了です、と言ってきました。
「また、来るな、お父ちゃん!」

そう言って、部屋を出て、エレベーターを降りていきました。

人生の再出発みたいなものです。退職しましたが、働いていた、その経験値は、残りました。さらに、経験値を積んで、また、レベルアップしていこう、そう決意しました。

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