公園に二人やってきた。
同じベンチにすわった。
春の朝だった。
どこか、涼しい。とても、いい季節だ。
鳥たちが鳴いていた。
ぼくたちが、しゃべる代わりに鳥たちが、さえずってくれてるようだった。
ぼくは、そのひとの手に触れた。「あっ」と、その子は、声をもらした。でも、それ以上は、なにも、言わなかった。しらじらしい。最初っから、こうしたかったんだろ。
胸のなかで、ぼくがにやけていた。
なにも、しゃべらなかった。涼しい、そよ風が吹いている。黙って、ぼくたちは、手を握りあっていた。
彼女は、無口だった。いや、友だちとなら、よく、しゃべるほうではないだろうか。ぼくに対しては、なにも言わない子だった。
ぼくも、無口だった。
ぼくは、友だちといても、なにもしゃべらない奴だった。ときどき、冗談は言ったりするが、どちらかというと、雰囲気を楽しむほうだった。
彼女と、ぼくは、前を向いていた。
向こうから、保育所のお兄さんや、お姉さんたちがやってきた。
子どもたちの声で、いっぱいになった。
狭い公園だった。
でも、のどかな公園で、子どもたちが遊ぶには、適していた。
保育所のお兄さんは、「はい、この公園から出ないように遊ぶんだぞ」
と言った。
子ともたちが、ばらばらになりはじめた。
ぼくたちは、手を握りあったまま、黙り込んでいた。
子どもが一人、ちかよってきた。
ぼくたちに話かけた。
「なにしてるのー?」
ぼくたちは、困惑した。
できれば、手を握りあったまま、そのままにしておいてほしかった。
「ねぇ、なにしてるのー?」
子どもが、もう一度、たずねてきた。
「二人でいるの」
彼女が言った。
「なにかして、遊ぼうよ」
その子が話しかけてきた。
保育所のお兄さんが言った。
「こらこらこら、邪魔するんじゃない。どうも、すみません」
「いいえ、おかまいなく」
ぼくが言った。
しばらく、公園は、子どもたちの声で、いっぱいになった。
「ぎゃー!やめてよ」
「あ、おまえがつかまえる番だぞ」
そんな話し声で、いっぱいになった。
ぼくは、彼女の手を離さなかった。
ここで離したら、今日の出来事がすべてなくなってしまう気がした。
保育所のお兄さんが言った。
「そろそろ、帰ろうかー!」
「えー!」
と子どもたちが言った。
子どもたちは、帰っていった。
公園で、また、二人になった。ぼくは、気付いてたのか、気付いていなかったのか、彼女の手を強く、握っていた。
「痛いです」
「あ、ごめん」
「あっ」
と彼女が言った。
「なに?」
「お弁当作ってきたの」
「食べていいの?」
「うん」
どきどきした。
彼女の手料理を食べられる!
いいんだろうか!
「はい」
彼女がお弁当箱を開けた。
おにぎりがつまっていた。
彼女の握った、おにぎり!
ひとつ、口に入れてみた。
どこか、甘い味がした。お米って、こんなに甘かったっけ。そう思った。
なかに、鮭が入っていた。
「おいしい!」
思わず、そう言った。
「ありがとう!」
と彼女は、言った。
春の陽気な午前だった。ずっと、ここにいたいなぁ。こころから、そう思った公園だった。
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