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234、ましてや、この雪の降るなか

いつものように、バスに乗ろうとすると、この雪のなか、おばあさんが震える声でたずねてきた。
「『四条大宮』に行くには、どうすればいいですか?」
え?と思った。
ここから、離れ過ぎている。バスにでも乗らないとだめだ。しんしん、しんしん、雪は降っている。
ちょうど、良かった。『四条大宮』なら、ぼくと同じバスだ。
でも、このひとの、この様子。バスに乗ったところで、たどり着けるだろうか。ぼくは、途中の駅で降りる。
と、そんなことを考えてても仕方がない。とにかく、このひとのしなければいけないことは、バスに乗って、『四条大宮』で降りることだ。
「バス停まで、一緒にいきましょう。『四条大宮』は、ここからじゃ、バスに乗らないと無理です」
『四条大宮』へ行って、なにをする気だろうか。そこから、電車にでも乗り換えて、帰るつもりだろうか。
とにかく、このひとのしたいことは、『四条大宮』に行くことなんだな。
そう思って、一緒にバス停まで行くと
「バスは何番に乗ればいいんですか?」
やはり。
そんなこともわからない。
「ぼくと同じバスに乗りましょう。運転手さんに言っておいたほうが良さそうですね」
あ、来ました。と言って、ぼくとそのおばあさんは、バス乗ろうとした。先に乗ってもらおうとすると、さしてた傘をなかなか、すぼめてくれない。この寒さ。バスの乗り込み口は空いたまま。乗っているひと、寒いだろうな。なんて考えていると、停留所の後ろのひとが、「すぼめられないのかな?」と言って、一緒におばあさんの傘をすぼめてくれた。
ようやく、バスに乗り込み、
「運転手さんのところまで、行きましょう」
と言って、そのおばあさんを連れていった。
「すみません。このかた、『四条大宮』で降りたいそうです」
と運転手さんに告げると、「ありがとうございます」
と、若い運転手さんは礼を言って、おばあさんに「座っといてください」と指示をだした。
途中のぼくの降りる駅まできて、ぼくが降りると、そのおばあさんまでやってきて、
「『四条大宮』でしょ?」
と言って、降りようとする。
「ここは、『四条大宮』じゃないです。着いたら、教えます」
と、運転手さんは、そのおばあさんが降りることをとめて、ぼくだけバスを降りて、そのまま自分の行く先へ歩いて行った。

大丈夫だったんだろうか、あのおばあさん。たとえ、『四条大宮』に着いて、うまく降りれたとしても、そこからどうするつもりなんだろう?
ましてや、この雪の降るなか。
うまいこと、バスのなかは、ひとが少なくて助かったけど、満員バスなら、どうしてたつもりなんだろう。まさか、ぼくまで『四条大宮』まで着いてったら、それは人が好すぎるよね。そう思って、あとは、おばあさんにまかせておいた。
降る雪も冷たかったが、ぼくも、冷たかっただろうか?
雪は、相変わらず、しんしん降っていた。

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