鈴木正人

「大人」は24歳から。「子供」は23歳まで。――という仮説に基づいた小説を書いています…

鈴木正人

「大人」は24歳から。「子供」は23歳まで。――という仮説に基づいた小説を書いています。私の仮説は、「思春期の終わりについて」という短い文章にまとめてあります。ご連絡は、ページ最下部の「クリエイターへのお問い合わせ」まで。

最近の記事

  • 固定された記事

思春期の終わりについて

 このテーマについて自分なりに考えをまとめてみようと思ったのは、もう三十年近く前のことになります。きっかけは友人のなにげない一言でした。当時、私はその友人とドライブをしていたのですが、長らく走って話題も尽きてきた頃、ステアリングを握っていた友人がふと 「もう年だよなあ」 とつぶやいたのです。今からすれば、かなり奇妙に聞こえる発言です。なぜなら、当時、私達はまだ二十三歳で (その年の内に二十四歳になりましたが) 自分の年齢をぼやくには早すぎたからです。私自身、そうしたことをつぶ

    • 第七十八話 泳いで帰ろう

      もくじ 「そういや、みんなどうしている?」  岩礁を出発して少し経ったところで、真一は隣の美緒に訊いた。 「みんなって?」  平泳ぎの腕を掻きながら、美緒は横目で訊き返す。 「島に来なかったみんな。松浦とか真名井さん」  ちょうど潮止まりになったのか、凪いだ海は泳ぎやすい。そんなに腕に力を込めなくても、すいすい体が前に進んでいる。遥か先に、ボディボードに腹這いになった岡崎の後ろ姿が見える。岩礁から砂浜までの距離はけっこうあり、あんなに遠くまで泳ぐのはきついですよ、

      • 第七十七話 マーメイド

        もくじ  それからしばらくして、美緒がボディボードで岩礁にやって来た。久寿彦が来なかったことは意外だったが、考えてみれば、沖合の岩礁へ来るにはボティボードを使うのがいちばん手っ取り早い。そして、美緒はボディボードの扱いに慣れている。 「袋ってコンビニの袋でいいの?」  板の上に腹這いになりながら、美緒は手首のリーシュコードにおみくじみたいに結んだ袋を指さした。 「それでいい。サンキュー」 「どうやってそっちに行けばいい?」  岩礁の周りをきょろきょろ見回している美緒

        • 第七十六話 イトマキエイ/イワシの色は海の色

          もくじ  その後、何人かは島の木陰に入って休み、ほかの人間は飛び込みを継続した。高台の下で散発的に水音が立ち上っているが、さっきみたいな盛り上がりはなく、のんびりした空気が島に漂う。  真一は木陰で会話していたが、だんだん暑さを感じ始めて、また高台へ向かった。  濡れた岩の上に足を揃えて、湾内の景色を眺め渡す。西側の岬の近くに、島や岩礁が固まっているのが見える。湾の真ん中は、概ね障害物のない海面が広がる。ただ、ここからそう遠くない南西の沖合に、平べったい岩礁が二つ並んで

        • 固定された記事

        思春期の終わりについて

          都合により、今後は不定期更新とさせていただきます。大体三日ごと、遅くても五日以内に更新したいと思っていますが、もしかしたらそれ以上かかってしまうこともあるかもしれません。ご了承下さい

          都合により、今後は不定期更新とさせていただきます。大体三日ごと、遅くても五日以内に更新したいと思っていますが、もしかしたらそれ以上かかってしまうこともあるかもしれません。ご了承下さい

          第七十五話 飛び込み その二~ラムネ祭り~

          もくじ 「じゃあ、誰から飛び込む?」  ボートに乗った益田が島の南正面からみんなに訊くと、全員の視線が一箇所に集まる。 「え、私?」  驚いたように自分を指さした夏希だが、順当にいけば夏希の番になる。 「どうしよっかな……」  指先で顎をさすりながら、視線を持ち上げて考えるそぶり。 「あそこにする」  意を決したように、島の南西の高台を指さした。 「おいおい、一番高い所だぞ」  真帆でも飛べなかった場所だ。久寿彦が困惑顔で夏希を見つめるのは当然だろう。

          第七十五話 飛び込み その二~ラムネ祭り~

          第七十四話 タコは飛ばない

          もくじ 第七章 (龍宮 その二 ラムネ色の夏)は、夏も青春も全開です。少し長めの章ですが、夏を構成するあらゆる要素が詰まっています。主人公たちと一緒に、1996年の夏の一日をぜひ味わってみて下さい。 ◇◇◇  二巡目の飛び込みが終わって、木陰に入って休んでいたら、真帆と葵と夏希がやって来た。少し前に、岩棚の真ん中あたりを歩いていたのが見えたが、雑談している間に島の近くまで来ていた。おーい、という声に気づいて顔を上げると、先頭の真帆が島に手を振った。 「どこから上がれば

          第七十四話 タコは飛ばない

          第七十三話 ニッポンの夏の色/飛び込み

          もくじ 今回のお話とは関係ありませんが…… そろそろホタルの時期ですね。本作品には、ホタルを題材にしたお話もあります。第四十六話「蛍の川」です。主人公の少年時代のエピソードですが、掌編程度の文字量でサクッと読めます。中身はちょっぴりホラーな笑い話です。蛍狩りのお供にして頂けたら嬉しいです。 ◇◇◇  結局、麦茶――炭酸抜きのビールだ、と久寿彦がふざけて言っていた――で乾杯すると、真一、久寿彦、岡崎、四谷の四人で、ベースキャンプの南東に浮かぶ小島に渡ることにした。緑の島に

          第七十三話 ニッポンの夏の色/飛び込み

          第七十二話 わだつみの姫御子/秘密基地を作ってみよう

          もくじ  岬の広場から、道はヘアピン状に折り返す。ハマカンゾウが道標をなす陽当たりのいい緩い下り坂を、背負子を背負って一列に歩いていく。濃緑の山斜面いっぱいに轟く無数のセミの声。真一たちと一緒に、短い夏を目いっぱい謳歌している。もっとも人間は、セミの成虫と違ってひと夏限りの命ではないけれど。  陽当たりのいい区間は長く続かず、また森の中に入った。ただ、湾の縁に沿った道なので、森の枝葉を通して青い海が見える。山の麓はゴツゴツした岩場。湾を広く眺め渡すと、入道雲を背負った西側

          第七十二話 わだつみの姫御子/秘密基地を作ってみよう

          第七十一話 青い島影

          もくじ 「ねえ、こっち来てみなよ」  葵が柵の手前まで行って振り返った。岬の広場には、南側と西側、そして北側の一部に丸太の柵が設けられているが、葵がいるのは西側の柵の前。声に反応した岡崎たち学生三人と夏希が飲み物片手にぞろぞろと歩いていく。 「うわっ、超きれい」「でしょ、映画のロケとかに使えそうじゃない?」「すげー、筒川さんいい場所知ってんなあ」「大学の仲間にも教えてやろう」「教えんな、バカ」。  柵の前に並んだ五人の正面には、立体的で陰影に富んだ入道雲が立ち昇ってい

          第七十一話 青い島影

          第七十話 岬の広場に到着

          もくじ  坂を上り終えた頃には、すっかり茹で上がっていた。滝のように全身から汗が流れ、軋んだ手足の関節にうまく力が入らない。鏡を見たら、顔も真っ赤になっているはずだ。  だが、道はまだまだ続く。額の汗を拭って、休まず進む。  ずいぶん高い所まで上ってきた。左手に緑のパノラマが見渡せる。眼下の谷間から向かいの山にかけて、森の葉並がびっしりと覆い尽くしている。茶色い山肌が覗く所は一箇所もない。文字通り、緑一色。どんな種類の木々が森を構成しているのだろう。スダジイ、タブ、ヤブ

          第七十話 岬の広場に到着

          第六十九話 坂と背負子と蝉時雨

          もくじ インターネットがさほど普及していなかった時代、紙の地図や口コミだけを頼りに探す「秘境」があちこちにあった気がします。小説に登場するゑしまが磯も、そんな場所の一つ。今回はちょっとした夏の冒険のお話。 ◇◇◇  広場の先からは、昔の生活道路みたいな道が続いていた。樵が使う道なら杣道だが、海女や漁師が使う道は何と呼ぶのだろうか。頭上を木々の葉っぱが隈なく覆い、真昼でも薄暗い。道の外に目を向ければ、林立する樹木の幹に木質化した太い蔓が絡み付き、熱帯のジャングルさながらの

          第六十九話 坂と背負子と蝉時雨

          第六十八話 ベニクラゲ/ゑしま観音

          もくじ 第七章「龍宮 その二 ラムネ色の夏」は、夏を構成するあらゆる要素(花火、かき氷、田舎の民宿、天の川、熱帯魚など)が詰まっています。ニッポンの夏を思う存分味わってみたい人に、ぜひお勧めです。 ◇◇◇  と、そのとき、 「もうそろそろだな」  久寿彦の声がした。トンネルを抜けて、陽射しと山の緑が復活した所。  この先に長いトンネルが四本続く箇所がある。三本目のトンネルを抜けた所に、ゑしまが磯の入り口があるという。  五、六分走って、その入り口が見えてきた。

          第六十八話 ベニクラゲ/ゑしま観音

          第六十七話 海岸通り

          もくじ  二十分くらい前だったか。水分補給とトイレに行くため、海辺のコンビニに立ち寄った。平日とはいえ、海水浴シーズンの店内は、人でごった返していた。レジに並ぶ客が手にした満杯のかごを見て、買い物をする気が失せた真一は、ぐるっと店内を一周しただけで店を出た。  車の鍵はトイレ待ちの行列に並んでいた久寿彦が持っていたが、車に戻っても暑いだけなので、表で時間を潰すことにした。  店先の喫煙コーナーへ行って、煙草に火をつけたときだ。 「どうして気を利かせられないのよ。あんた

          第六十七話 海岸通り

          第六十六話 浮き玉/女王様

          もくじ 青い海、眩しい太陽、水着の女の子たち―― この章(龍宮 その二 ラムネ色の夏)は、夏も青春も全開です。今ほどではありませんが、1996年の夏もそれなりに暑い夏でした。奥田民生の「イージューライダー」が大ヒットしていましたね。携帯電話やPHSが急速に普及していったのも、95年、96年あたりからです。読者の皆様は、タイムスリップした気持ちになって、あの頃の夏の一日をお楽しみ下さい。 ◇◇◇ 「お前はどこの海岸が気に入った?」  沈黙がしばらく続いたのち、真一が口を

          第六十六話 浮き玉/女王様

          第六十五話 ハゼ釣り その三~龍宮の白壁~

          もくじ  日没間近になって、葵の竿に大きなアタリがきた。  シッ、静かに、と言われて、真一が話しかけるのを止めると、視線の先で不自然に振れる穂先。少し待っても変化がなく、葵は慎重にリールを巻いて誘いを入れる。すると穂先がググッと引き込んだ。本アタリだ。葵はすかさず竿を煽ってアワセを入れた。  大きくしなった竿が上下に跳ねる。今までの魚とはまったく違う竿の暴れ方だ。  ゴリゴリとリールを巻いて釣れたのは、五十センチはあろうかというマゴチ。水面から顔を出した時、一瞬、巨大

          第六十五話 ハゼ釣り その三~龍宮の白壁~