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【漫画原作】ハイウェイスター 第一話

【あらすじ】
死んだ両親の借金を背負ったサクコは、大型トラックの荷台の中で夜な夜な開かれる非合法賭場で、自分の体を賭けてギャンブルを打っていた。サクコの特技は麻雀。ギャンブル狂いの父親譲りの才能だった。連戦連勝だったが、多額の借金を完済できるのは、いつになるかわからない。
ある夜、「赤猫」と名乗る謎の男がトラックに乗り込んでくる。サクコの抱える借金を一挙に返済できるほどの大金を持った彼は、サクコに勝負を挑んでくる……。


○大阪湾のほとり(夜)
有蓋の大型トラックがとまっている。荷台の後面が開かれ、男たちが乗りこむ。
遠くの堤防でサクコが腰かけて海を眺めている。

サクコ「残り一千万」

と、つぶやく。宗田が近寄ってきて、サクコの肩を揉み、

宗田「サクコちゃ~ん、今晩も客がぎょうさん入っとるから、あんじょう頼むでぇ。これが嫌なら風俗行くしかないんやからな」

サクコ「汚い手で、私にさわるな!」

と宗田の手を振り払い、立ちあがる。

○荷台の中(夜)
荷台の後面が閉まり、トラックが走りだす。中には大勢の男。
彼らを監視するようにヤクザが立っている。

宗田「お揃いの皆さん、ワシが胴元をやらせてもろてます、宗田ってモンです」

と手を鳴らして皆に呼びかけ、

宗田「ここではどんなバクチ打ってもかまいまへん。……ただ、ウチのサクコは麻雀しかでけへんってことだけ、ゆうときますわ」

サクコがいる麻雀卓に、男たちがワッと押し寄せる。

客A「勝ったらホンマに、ココでこの娘が抱けるんかいな!?」

宗田「マットレスもありまっせ~」

客B「オッサンの使用済みちゃうんか?」

宗田「ワシはええ加減スケベェやけどな、商売モンには手ぇつけへんのや」

サクコ M〈――この〝博打トラック〟で、私は体を賭けて麻雀を打つしかない。麻雀狂いのクソ親父が私に残してくれたのは博才だけだ〉

席に座りかけた客の一人が何者かに蹴飛ばされる。蹴ったのは赤猫という名の男。肩に寝袋を引っかけている。

赤猫「この女が、おまえさんらが誰も手に入れられない〝バクトラ〟の景品か。噂どおりの上玉だな」

とサクコの対面に座りこむ。

サクコ「面子は揃ったな。はやく始めるよ」

赤猫は耳にイヤホンをさし、競馬新聞をひろげて、

赤猫「ネェちゃん、サクコっていったっけな。変わった名前してるよな」

サクコ「……おまえみたいな、ろくでもない博打好きの男がつけた名前だよ!」

赤猫「なーるほど、索子(ソーズ)のサクコか。ところで、この麻雀、レートはいくらだ」

サクコ「千点一万円。文無しはとっとと失せな」

赤猫「で、おまえさんは金は出さずに体を賭けるってわけか。だが、そんなケチなレートじゃ、おまえさんも濡れないだろ」

と担いでいた寝袋をほどきはじめる。
それは寝袋ではなく、札束のつまった袋だった。

赤猫「明日の安田記念に突っこむ金だったんだが、こいつで半チャン一勝負といくか」

サクコ M〈……一千万……ある〉

他の客たちは怖気づいて卓を離れる。

赤猫「余分に金を賭ける代わりに、おれが勝ったときは一発どころじゃ済まさねえぞ」

宗田「ちょっ、ちょぃ待て! ウチのレートは千点一万って決まっとるんや!」

赤猫「オッサンの出る幕じゃねえよ。ネェちゃんがいいといえばOKなはずだ」

サクコ「その金を賭けるなら、条件はなんだっていい」

宗田 M〈……ヤバい。サクコが勝ったら、まだまだ余裕のあった一千万の借金がなくなってまう……サクコ目当てで客は集まっとるんや、サクコが消えたらバクトラ自体がなくなってまうかもしれん……〉

サクコ「胴元、入ってよ。面子が足りない」

宗田「……ワシは……なんも賭けへんぞ」

サクコ「借金を返してほしいんだろ」

***

左回りに、サクコ、ヤクザA、赤猫、宗田の席順。
赤猫がサクコの胸の谷間を眺めて、

赤猫「いいオッパイしてんな、サクコ。こりゃお楽しみだ」

サクコ「気安く呼ぶな。先に名乗るのが常識だろ」

赤猫「赤猫だ」

サクコ「アカネコ?」

赤猫「連続放火魔の隠語だよ。おれがバクチを打つと、相手の賭け徳が全部溶けちまうから、そう呼ばれてんだ。おまえさんも、あとで、とろけさせてやるぜ」

サクコ「……それって親父ギャグか? くだらねえ」

サクコの手牌が以下となる。
🀋🀌🀔🀖🀙🀚🀛🀜🀝🀝🀞🀆🀆 ツモ🀍

サクコ M〈ドラは🀝。ドラを切って愚形でも先制リーチを打つ? あるいはダマ? 🀖あたりを切ってテンパイを外す?〉

サクコは🀙を切りだす。

サクコ M〈どれもヌルい。🀙を切ればドラ🀝か🀆の暗刻、567三色も狙える〉

サクコの次のツモは🀟。手牌から🀚を切りだし、次巡、

サクコ「ツモ。三色・ドラでマンガン!」

と手牌を倒す。アガリ手は以下。
🀋🀌🀍🀔🀖🀛🀜🀝🀝🀞🀟🀆🀆 ツモ🀕

赤猫「なるほど。麻雀の腕も上玉だ」

***

次局、サクコの手牌が以下となる。
🀊🀊🀋🀌🀍🀍🀏🀔🀕🀝🀞🀡🀡 ツモ🀉

サクコ M〈このリードを守りきれば……借金が返せる〉

宗田が以下のように仕掛けている。
🀫🀫🀫🀫🀫🀫🀫 チー🀜🀝🀞 チー🀕🀓🀔

サクコ M〈ふん、宗田は露骨なタンヤオ三色の仕掛けか。🀡は通る〉

と手牌から🀡を切る。

宗田「ロンや! 3900点!」

と手牌を倒す。宗田のアガリ手は以下。
🀙🀚🀛🀟🀠🀂🀂 チー🀜🀝🀞 チー🀕🀓🀔

サクコ M〈なっ……タンヤオ三色に見せかけて、片アガリの一通……〉

宗田「サクコが勝つのも、アカネコが勝つのも阻止したるわ。ワシは今でこそ胴元やが、昔は〝速攻のソウちゃん〟と恐れられたほどの打ち手やったンやで」

赤猫「ふーん、早漏のソウちゃんね」

宗田「な、な、な、なにをゆうねん!」

サクコ「……くだらないこといってんじゃねえ。次いくよ!」


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