亜田公介

小説家志望。過去に某新人賞で2回、最終候補に残った経験があります。が、最後の一歩を届か…

亜田公介

小説家志望。過去に某新人賞で2回、最終候補に残った経験があります。が、最後の一歩を届かせるのが、なかなか難しい……。

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【小説】暗流~アンダーカレント~ 第一話

【あらすじ】 金沢で私生児として生まれ、両親に捨てられた過去を持つ美樹本リョウ。故郷を出て東京の大学に通っていたが、ジャズミュージシャンになるという夢が破れ、今ではギャンブルの才能だけを頼りに全国を放浪する暮らしを送っている。ある日、行方の知れなかった母の美樹本みどりが自殺したというニュースを目にし、大阪へ行く。そこで待ち受けていたのは、因縁の賭場経営者の男、そして彼の経営する賭場でピアノを弾く謎の女だった……。  冬が訪れても、難波の街の体感温度は下がることがない。  ア

    • 【漫画原作】ハイウェイスター 第一話

      【あらすじ】 死んだ両親の借金を背負ったサクコは、大型トラックの荷台の中で夜な夜な開かれる非合法賭場で、自分の体を賭けてギャンブルを打っていた。サクコの特技は麻雀。ギャンブル狂いの父親譲りの才能だった。連戦連勝だったが、多額の借金を完済できるのは、いつになるかわからない。 ある夜、「赤猫」と名乗る謎の男がトラックに乗り込んでくる。サクコの抱える借金を一挙に返済できるほどの大金を持った彼は、サクコに勝負を挑んでくる……。 ○大阪湾のほとり(夜) 有蓋の大型トラックがとまってい

      • 【小説】メルクリウスの喚声 第七話(完)

           Ⅶ 悪魔  三ヵ月後の七月――。  オレンジ色の夕焼けを見ながら、竜也は川沿いを歩いていた。  川は海へと流れていく。河口付近では西陽を遮るようにして、メルクリウス教団施設が佇んでいる。竜也は道路を挟んで向かいにある路地に身を潜めて、教団施設の様子を窺った。男に女、若者から老人まで、さまざまな人がアーチをくぐり、敷石の並べられた小道を通って、施設へと吸いこまれていく。今夜も信者を集めて会合が行なわれるのだろう。  どのタイミングで出ていこうかと思案していたとき、見覚え

        • 【小説】メルクリウスの喚声 第六話

             Ⅵ 孔雀の尾  年が明けた。正月らしいことを何もしないまま、三箇日も過ぎた。  短い冬休みが終わる。容子は大学に出かけようとしたが、玄関で靴を履いて立ち上がった瞬間、倒れてしまった。 「軽い眩暈がしただけよ……」と容子はいった。竜也は気が気でなくなり、彼女を医者に診せた。すると、貧血と栄養失調の症状があると診断された。しばらく、容子には大学での仕事を休んでもらうことにした。  一月下旬――その日も容子は湿った薄い布団の上で、夕方まで横になっていた。容子が目醒めたとき、

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        【小説】暗流~アンダーカレント~ 第一話

        マガジン

        • 【ネーム原作】バクシン伝説創世記!!(読み切り漫画)
          1本
        • 【小説】メルクリウスの喚声
          7本
        • 【小説】フェイブル・コーポレーション
          11本
        • 【小説】暗流~アンダーカレント~
          6本
        • 【漫画原作】背徳のモーパイ
          3本

        記事

          【小説】メルクリウスの喚声 第五話

             Ⅴ トート・ヘルメス  駅を出ると冷たい風が吹いていた。慌てて安物のブルゾンの襟を掻きあわせるも、無防備な顔面を冷気がめった刺しに刺してきて、痛みさえ感じる。太陽の一つでも出ていたらマシなのだが――そう思いながら空を見上げたが、どんよりとした雲が一面を覆っていた。どこに光が隠れているのかもわからない。クラゲのようなオフィス街に入ると、建ち並ぶビルのせいであたりは一層暗くなった。視野狭窄に陥った気分だ。  Z出版社に到着し、受付嬢に名を告げた。二十分も待たされて、やっと

          【小説】メルクリウスの喚声 第五話

          【小説】メルクリウスの喚声 第四話

             Ⅳ レトルト   計四社からの執筆依頼が舞いこんだ。竜也ははじめて二つ以上の〆切りに追われて、原稿を書いた。充実していた。自分は必要とされている人間だと思うと、筆も捗った。頭の中で続々とアイデアが生まれる。書き上げた原作のすべてに、竜也は自信があった。  八月の中旬、各出版社に提出するために小分けにした封筒を四つ抱えて、東京に向かった。夜行バスの車中では、興奮して寝つけなかった。羊の数をかぞえるように、窓外に流れる高速道路の照明灯を目で追っていても、眠気は訪れなかった

          【小説】メルクリウスの喚声 第四話

          【小説】メルクリウスの喚声 第三話

             Ⅲ 生命の樹  七月も終盤に差しかかっている。外では灼熱の太陽光線が降り注ぎ、気温も三十五度を越える日が続いているらしい。地獄のような季節だ。これまで竜也は、窓を開け放して、扇風機の風速を最大限にするくらいしか暑さを迎え撃つ方法がなかった。  今年は違う。漫画革命賞の賞金の百万円で、エアコンを購入したのだ。それ以外に欲しい物はなく、大幅に余ってしまった金は容子に預けてある。  涼しい部屋で、竜也は漫画原作を書いていた。悠々自適に見えるが、その心中は荒んでいた。  室外

          【小説】メルクリウスの喚声 第三話

          【小説】メルクリウスの喚声 第二話

             Ⅱ 六芒星  翌月中旬、竜也はZ出版編集部内にある談話室にいた。修正を加えた受賞作の原稿を高塩に提出するため、大阪から夜行バスに乗って、はるばる東京までやってきたのだ。  原稿を郵送することもできたが、ここぞという勝負どころでは、竜也は東京に出向いて、編集者と面と向かって話をするようにしていた。そうすることによって、少しでも熱意を伝えなければいけない――と。 「拝見させていただきます」  高塩は原稿を受け取った。 「お待ちのあいだ、こちらをお読みになっていてください」

          【小説】メルクリウスの喚声 第二話

          【小説】メルクリウスの喚声 第一話

          【あらすじ】 結城竜也(ゆうき たつや)は、実力はあるが運に見放された漫画原作者。ある日、竜也と同棲している野村容子が、勤務先の大学教授・首藤薫(すどう かおる)から神秘思想に関する本を借りてきた。本の隙間には両性具有の人間の絵が描かれたカードが挟まれていた。その絵に奇妙な魅力を感じた竜也は、ひそかに自分のものにする。後日、首藤と出会った竜也は「メルクリウス」という聖なる存在を教えられる。あらゆる矛盾を和解させる媒介であり、錬金術も可能となるという……。半信半疑だった竜也だが

          【小説】メルクリウスの喚声 第一話

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第十一話(完)

           七月になった。外は汗ばむほどの暑さだ。龍介たちは豪勢な盆を開いていた。客は三十人ほどが集まっている。ホンビキ、チンチロリンはもちろんのこと、普段はテラの都合でおこなわれないポーカーやブラックジャックも、「祝・ヤクザ撃退ウィーク!」ということで、龍介と拓海がディーラーを務め、おおいに客を楽しませていた。  午後九時ごろ、家のチャイムが鳴った。 「お、またお客さんだ」  拓海がテーブルを離れようとした。 「いいよ、おれがでるって。拓海、いい手がきてんだろ?」龍介は拓海を小突いて

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第十一話(完)

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第十話

           午後八時。麻雀事業連盟の筋者三人組は、やはり揃ってフェイブル・コーポレーションにあらわれた。サングラスをかけた長身の男、オールバックの男、髭を生やした小男の三人だ。三人は洋間に荒々しく入る。 「昨日はよくもウチの賭場、荒らしてくれたなあ――ん?」  三人は状況がおかしいことに気づいた。  二十人ほどの旦那衆、キャバクラ嬢が洋間にいる。龍介、拓海、新十郎の三人が、襖の開けた和室においてある碁盤の前にそれぞれ座った。  オールバックが龍介たちにむかって、 「どうなっとるんや」

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第十話

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第九話

          「あれ、新ちゃんはまだ来てないのか」  仮眠室からでてきた龍介は、洋間に入るなり、目をこすりながらいった。 「まだだ」  ソファに腰かけた拓海が、両手にひらいた文庫本から視線をあげずに答える。  洋間にいつも流れているはずのジャズが、今日はなかった。龍介は壁時計を見た。午後三時をさしている。 「ずいぶん遅い出勤だなァ。客が来ちまうぜ」  龍介は欠伸まじりにいった。 「携帯にかけてみた。電源が切られている」  拓海は憮然としている。龍介とは目もあわさない。 「拓海ちゃーん、ご機

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第九話

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第八話

           法務局から帰ってきた龍介は玄関のドアを開けた。フェイブル・コーポレーションを株式にするという計画を本格的に実行しはじめたのだ。  しかし、龍介の鼻の下はだらしなく伸びていた。 「ハッ、いかんいかん……」  龍介は頬を手でパンパンと叩き、顔を引きしめた。  カウンターの前を右に曲がった。ドア越しに、洋間からなにやら怒鳴り声が聞こえてくる。  龍介は洋間に入った。すでに客が入っている。  様子がおかしい。新十郎が拓海にむかって、わめいている。 「おまえら、なーに騒いでんだよ!」

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第八話

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第七話

           六月中旬。一週間ほど様子を見てみたが、和也がフェイブル・コーポレーションをまた訪れることはなかった。  代打ちの新十郎は、日々開催される賭場をコントロールしていた。新十郎によって優しく手なずけられている客たちからは「回銭」の声も飛ばなくなった。新十郎も新十郎で、ペースをつくり、自身の浮きを確保していた。すべての歯車が噛みあいはじめていた。  龍介は洋間の扉を荒々しく開けた。  拓海がテーブルについて、ポーカーの研究でもしているのか、トランプをひろげている。新十郎は寝転がって

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第七話

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第六話

           午後六時から七時にかけて、フェイブル・コーポレーションに客が集まりはじめた。面子は六人。なかには例の厄介者、和也もまじっている。 「今日はホンビキがいいな」  ひとりの旦那がもらすと、皆は賛成した。六人は早速円座を組みはじめる。  拓海が、ホンビキに使用する道具である目木、カミシタ、繰り札、張り札を納戸から持ちだしてきた。  龍介は洋間のソファを蹴った。 「いつまで寝てんだ! 仕事の時間だぜ」  新十郎がソファから身体を起こし、目をこすった。 「例のごろつきは、来とるんか」

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第六話

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第五話

           もう何ヶ月も家には帰っていなかった。高校の卒業アルバムを取りに、龍介は自宅へ帰ることにした。  電車で宝塚へとむかった。宝塚では有名なとある神社の近くに、何棟ものマンションが連なるようにして建っている一角がある。  龍介の自宅のマンションは、バブル期に建てられたらしい。派手な外観を見れば、まわりのほとんどの人間は、いいところに住んでるなあ、と勘違いする。  マンションの門をくぐった。エレベーターに乗り、最上階の六階でおりる。  ポーチつきの角部屋である六〇一号室に向かった。

          【小説】フェイブル・コーポレーション 第五話