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「女を売る友達」も、ただの友達だった。


この記事で登場した友人が、夜の仕事を始めた。
ここではAと呼ぶことにする。
ある日の土曜日、あたしはコインランドリーでシーツを洗うこと以外予定がなかった。なんとなく、グループLINEに「今日16時くらいから会えたりする?」と呼びかけると、Aとほか2人の、いつものメンバーで会えることになった。

予定を合わせようとすると合わないのに、こういうふとした時に集合したりする。適当すぎる。もうかれこれ15年くらいの付き合い。友達というより親戚みたいだな、といつも思う。

Aは少し遅れてやってきて、あるバイトを辞めてきた帰りだという。
「なんで辞めたの?」
「夜職やるから辞めますって言ってきた」
「ええ、そんな断り文句でしか辞められないようなとこだったのね」
「違うよ、ほんとにやるよ。」
彼女らしい、あっけらかんとした口調。
「そんな仕事辞めなよ、危ないよ」
「うん」
「体力も精神力も使うだろうし」
「うん」
「なにより、金銭感覚が狂うよ。狂ったものを戻すのって大変なんだよ。Aだからではなく、そういうシステムなんだよ、その世界は」
「まあね、、確かにもう多少狂ってはきてるんだろうなぁ、でもさ、そこまで止める?」
「止めるよ!友達だもん、止めるのが普通の友達だと思ってるから」
「確かに。双葉は止めると思った。止めてくれるとも思った。でも多分私はやると思う。でも双葉にはこれからも普通の友達でいて欲しい。止めてくれる友達でいて欲しい。」

なんでそういう仕事をしたいのか、メリットやデメリットについて、沢山話した。ほか2人の友達も冷静だった。ある意味あたしたちは「いつもの4人」だった。受験や塾や部活について話していた頃から15年も経って、世間話のように、性を売る仕事について話した。こんなふうに性を売ることはカジュアルで、身近にあることなのだと不思議な気持ちになった。15年前のあたし達も、ばかみたいにずっと語り合っていたけれど、話す内容は全然違う。違うのに、あの頃のままであることも、なんだか不思議な感覚だった。

あたしは今も、彼女がその仕事を辞めてくれたらいいと思っている。でも、何でそんなふうに思うのかを自分の中で見つけたいとも思っている。
性産業は永遠に無くならないと、みんな当然のように言う。あたしは人の体をお金を介して渡し合うことにどうしても受け入れができない。それに、どうしても安全が保たれると思えない。人の尊厳を守っていると思えない。でも人間の無くすことの出来ない欲としては存在しているわけである。そして何より大金が動く。貧乏人も金持ちも、お金を使う先は同じだという皮肉めいた言葉があるように、人は大金を持つと人を使うようになるのだと思う。

Aは「双葉が理解できない気持ちもわかる、止められるのも予想してた。性格よく知ってるから」と何度も言った。Aはあたしの話を最後まで聞くのである。反対意見を受け付けない人では無いし、あたしの辞めて欲しいという感情も受け止める。ある意味、本当に心が広い。だからそんな仕事が出来てるのかもしれないけど。そしてあたしは、全部思ったことを伝えられるから、Aと友達なんだろうなと思った。そんなの嫌だよ、と言えるから。「私は私なの!反対しないで!」と言う人だったら、関係は離れていっただろう。


仕事を始めた後にも、Aと会った。Aは体力を使うと話し、「さすがに続けられて1年だわ」と溜息をつきながら、「まともな人と付き合ってみたらいいのかなって思うことは、私だってあるよ。」そう言って、彼女は電車を降りていった。

もう15年近く友達なのに、あたしはAのことがよく分からない。でもAはずっと、自分に自信があるようでないんだと思う。そして、恋愛において人を愛することがすごく苦手だ。今まで「彼氏がかわいそうだよ」と何度言ったか分からない。愛するとはなんだろう、愛されるとはなんだろう。愛そうとしないAを愛してくれる人はすぐには見つからなかった。

あたしは寂しいよ、
あなたの良さは見た目でも体でもないよ。
それであたしは付き合ってきたんじゃないよ。
なのにあなたが、自分はそこにしか価値がないように振舞って働くから、寂しいよ。
そう伝えたら、笑っていた。
あたしのこの気持ちだってエゴだ。
健康で働けるあたしの勝手だ。

そう、つまり思ったことは、なんだか遠くに行ってしまうように思ったけど、彼女は彼女のままだった。彼女はあたしの友達だった。
性を売るからって、彼女は彼女だった。
当たり前だった。
性を売ったって、女は女だ。人間だ。

上手く言えない。上手く言えないけど、あたしはあたし自身の葛藤と価値観と向き合いながら生きるしかないんだ。
彼女が事件や暴力に出会うことがないことを祈って、何かあったら相談に乗れるように。


あなたに何を告げたい?
うたうこと。生きるのよ
未来に何をつめたい?
大切をきずくもの
そういう意味じゃないかも
いま必要じゃないものが
かってにかたちつくって
消せなくなって
その存在を主張しはじめて
いったい誰なんだか その正体は
彼なんだか もうやかましい
「まじめに生きなさい」って
ママがいったの
でも怖い顔してなかったでしょ
きっとそういう意味じゃないのよ
あなたの信じてるものを信じてる
古びたカセットテープには
だいじなうたが入ってた
いつもたたかってる
「何を大切にすればいいの?」
わからなくなったらそれをこころに
くりかえしきいてみて
そのいみを感じるときがくるかしら?

「大切をきずくもの」(Chara)


自分を許せない気持ちが胸に広がってる。苦しい。涙を拭って、あたしは生きる。




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