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『ネズミの嫁入り~LAWルート』

むかしむかし、ネズミの一家がいました。
父さんネズミと、母さんネズミと、その娘です。

「ねえ、お父さん。そろそろこの子にも、お婿さんを見つけなくてはなりませんね」
「そうだな、世界一の娘だから、世界一のお婿さんを見つけてやらないとな。ところで世界一強いのは、やっぱりお日様だろうな」

父さんネズミと母さんネズミは、お日様のところへ行って頼んでみました。
「世界一強いお日様。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、雲はわしより強いぞ。わしを隠してしまうからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、雲のところへ行ってみました。
「世界一強い雲さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、風はわしより強いぞ。わしを簡単に吹き飛ばしてしまうからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、風のところへ行ってみました。
「世界一強い風さん、娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、壁はわしより強いぞ。わしがいくら吹いても、わしをはね返してしまうんじゃ」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、壁のところへ行ってみました。
「世界一強い壁さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、わしよりも強いものがいるぞ。それはネズミじゃ。ネズミにかじられたら、わしもお終いだからな」

「何と!世界で一番強いのは、わしらネズミだったのか…?」
「でも、私たちは猫には敵いませんよね…?」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、猫のところへ行ってみました。
「世界一強い猫さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、人間はわしより強いぞ。わしの皮を剥いで三味線にしてしまうんだからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、人間のところへ行ってみました。
「世界一強い人間さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、天使はわしより強いぞ。天の炎に焼かれては、人間などひとたまりもないのだからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、天使のところへ行ってみました。
「世界一強い天使さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、大天使はわしより強いぞ。ミカエルの大いなる炎の前には、跪くほかないのだからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、大天使ミカエルのところへ行ってみました。
「世界一強い大天使ミカエルさま。娘をお嫁にもらってくれませんか?」

ミカエルは答えました。
「よかろう。そのネズミの娘を娶(めと)り、我が力の一部としよう」

そういってミカエルが剣をかざすと、ネズミの娘はミカエルの体内に取り込まれて行きました。

こうして、大天使ミカエルと、ネズミの娘の二身合体により、
神の代行者「大天使メタトロン」が仲魔に加わわりました。

父さんネズミと母さんネズミはメタトロンを連れて、
魔界にある魔王の城「ルシファーパレス」へと突き進みました。

そして、数々の悪魔を打ち倒し、ついに玉座の間で魔王ルシファーと対面したのでした。

不敵に笑うルシファー。
もはや、天界で天使長を務めた頃の面影は無く、欲望と混沌のオーラを漲らせた「魔」の化身がただ在るのみでした。

「悔い改めよ…!」メタトロンの突撃。
父さんネズミと母さんネズミも死力を尽くして奮戦します。

果てしない激闘の末に倒れるルシファー。
崩れ行くルシファーパレス。

一行は、どうにか地上まで戻ってきました。
そして、メタトロンが静かに言いました。

「お父さん、お母さん、私たちはついに魔王を打ち倒しました。
しかし、魔界に降りて、その穢れた血をたくさん浴びてしまった。その意味は、分かっていますね?」

父さんネズミは、すでに覚悟を決めていました。
「お前の婿取りのつもりがこんなことになってしまって、本当にすまないと思っている」

母さんネズミも言いました。
「そうだね、でも、家族一緒に行けるなら、それがせめてもの救いだよ…」

それを聞いてメタトロンは剣を振りかざし、力強く叫びました。

「父と子と精霊の御名(みな)において命ずる!砕けよ我が命!それと引き換えに、正しき神の子らに、永遠の光あれ!」

メタトロンの大いなる裁きの光に照らされ、すべては炎に包まれて行きました。
たったひとつ、はるか天空の神の国を除いて。

自らも炎に焼かれながら、メタトロンは、いえ、メタトロンの中のネズミの娘は思いました。
「今、我が主の元に参ります。この世で最も強いお方、あなたの元に嫁ぐことが出来て、私は幸せです…」

ここは、光り輝く神の国。
今日の安寧が、明日も明後日も、永遠に続いて行く世界…

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